第236話 魔闘会でショータイム!㉓
ゴォォン、と銅鑼が鳴り響き、スルメ対リッキー家の試合が始まった。
『ワイルド家スルメ選手、バスタードソードを振りかぶって一気に駆け寄ったぁ!』
スルメは身体強化をかけてバスタードソードを大上段に構えて突撃する。
完全に防御無視、一撃で決めるつもりか。
対するお肌に良さそうな名前の対戦者、コリー・コーラゲンは色白で目つきが悪く、全身に投げナイフや棒手裏剣、爆発する手榴弾っぽい魔道具、杖数本、短刀などを身につけている全身武器庫みたいな人間だ。
「らあっ!」
スルメがバスタードソードを振り下ろす。
「———!!」
コリー・コーラゲンは胸元の丸い玉を地面に叩きつけ、剣が当たるか当たらないかの絶妙なタイミングで後ろに下がった。
ぼわぁん。
比喩抜きでぼわぁんという間の抜けた音が鳴って丸い玉から煙が噴出し、周囲十メートルが瞬時に白くなる。
ビュン!!
スルメの振ったバスタードソードが観客席まで聞こえる風切り音を響かせ、剣圧で煙を切り裂いた。
真っ白く広がった煙に一筋の亀裂が走り、その中に身を潜めて棒手裏剣を放つコリー・コーラゲンの姿が見えた。
スルメはバスタードソードを片手持ちにし、素早く杖を抜いて「“ファイアウォール”!」と叫ぶ。
赤々とした火の壁が出現し、飛んできた棒手裏剣をかち上げるようにして燃えてコリー・コーラゲンの攻撃を防いだ。さらに熱で煙を上空へと巻き上げる。
スルメはこれも計算に入れて火魔法上級“ファイアウォール”を唱えたのか。
あいつ、冷静に戦えてるみたいだな。
「“
徐々に晴れていく煙を睨みつつ、スルメが火魔法上級、追尾魔法を唱えた。
スルメの左右に体長十メートルの“
“
一度発動すると普通は勝手に前方へ飛んでいってしまうのだが、スルメは魔力操作で二匹の蛇を待機させている。あれは結構難しいぞ。
すると、薄くなった煙幕の中から投げナイフ、棒手裏剣、チャクラムが飛んでくる。
キンキンキィン!!
形状の違う投擲武器をスルメがバスタードソードの腹で防いだ。
おお! スルメらしからぬ華麗な剣さばき!
わっ、と会場が沸き立った。
本日の最終試合。しかも領地10個賭けの倍返しということもあり、会場のボルテージは最高潮だ。ワイルド家の応援席は「ファイアボウッ」「ファイアボウッ」「ファイアボウッ」とむさ苦しい男どもが肩を組んで絶叫し、「坊っちゃんが負けたら全財産がパァだ!」と口々に魂の叫びを上げている。
こちらゴールデン席も負けていない。
「S・U・R・U・M・E、スッルッメッ!!」
俺の号令で使用人が叫び、応援に駆けつけたガルガインがハンマーで椅子の背もたれをリズミカルに叩く。
「いてまえやぁぁっ!」
「ぶち殺せゴラァァッ!!」
クラリスとバリーは平常運転。
「S・U・R・U・M・E、スッルッメッ!!」
「S・U・R・U・M・E、スッルッメッ!!」
掛け声に合わせてアリアナ、エイミー、エリザベス、エドウィーナ、先ほど合流したサツキが手旗を左右に合わせて振る。
贅沢すぎる美女と美少女の声援はスルメにはもったいない。
間近で見ている俺、特等席すぎる。みんなの笑顔がまぶしい。
『両者とも珍しい武器を使っているぞぉ!』
『スルメ殿の使用しているバスタードソードは両手持ちと片手持ち、両方が可能な両刃剣ですな。取り回しが難しく、運用に失敗すると武器性能が引き出せずにかえって使用者の足手まといになる剣ですぞ』
『コリー・コーラゲン氏は投擲武器を使っておりますわね?!』
『さようですな。初手から煙幕を使っているところを見ると近接戦が苦手なようですぞ』
実況者二人の声が風魔法拡散マイクによってコロッセオ中に響き渡る。
そうこうしているうちに、じっと煙幕を見つめていたスルメが相手を見つけたのか、“
うねりながら火の蛇が飛び、右前方に着弾して火柱を上げる。
敵に当たったか?!
『待機させていた“
『スルメ殿も飛び込みますな』
左手に杖、右手にバスタードソードを持ったスルメが一気に駆ける。
煙幕が消えて姿を現したコリー・コーラゲンがあわてた様子で飛び退き、また丸い玉を地面へ叩きつけた。
「させっかよ!」
左下から右上へバスタードソードを斬り上げるスルメ。
煙幕玉が半分に切られて不発に終わり、ぼわんと少量の煙を発生させる。
「っらあ!!!」
スルメは杖を腰のホルスターにしまい、素早くバスタードソードを両手持ちに切り替えて振り下ろした。
コリー・コーラゲンは短剣を腰から二本引き抜き、交差させて受け止める。
ガギィン!
バスタードソードが短剣にぶち当たり、二本を粉々に破壊した。
さらに勢いは止まらずコリー・コーラゲンの腕へと殺到する。
ガギッというイヤな音を響かせて腕を守っていた鉄板らしきものが折られ、その衝撃でコリー・コーラゲンの右腕も折れた。
『スルメ選手の強烈な一撃ぃぃぃっ!!!!』
『鋭い剣撃ですな』
「———ッ!!」
コリー・コーラゲンはたまらず身を仰け反らせ、なぜか目をつぶってつま先を踏み鳴らした。
カッ!!!!!
刺さるような閃光が放たれた。
今度はスルメが身を仰け反らせた。
『まばゆい光! 目眩ましのライト閃光魔道玉だぁ!』
『あれはまぶしいですな』
『スルメ選手、たまらずバックステップで距離を取る〜!』
『コリー・コーラゲン氏、つま先に閃光魔道玉を仕込んでいたようですな』
コリー・コーラゲンは腕をだらりとさせて顔をしかめつつ、跳躍して距離を取り、左手のみをビデオの早送りのように素早く動かして棒手裏剣を投げ始めた。
動作のスピードから身体強化“下の上”ってとこか。
ベルトにぎっしりとささっていた棒手裏剣が彼の右腰から次々に消えていき、高速で撃ち出される。
スルメは目くらましで目を開けれず、バスタードソードを構えたまま立ち尽くしている。
『スルメ選手目が開けられないぃぃぃっ!!』
『当たりますな』
コリー・コーラゲンの不敵な笑みがモニターに映し出されると同時に、スルメのバスタードソードがゆらりと動いた。
キキキキキキキキキキンキキン!
スルメは目を閉じたまま棒手裏剣を剣の腹でさばいていく。
『なんんんんと、目を閉じながら棒手裏剣を防いでいるぅぅ!』
『これは、すごいですな』
わあああああああっ、という歓声が巻き起こり、場内にスルメコールが巻き起こる。
これがポカじい直伝“命閃流”の実力か!
身体強化で感覚を研ぎ澄まして一撃で相手を屠る剣術と聞いていたが、危機察知能力も向上するみたいだぞ。スルメのくせにカッケぇな。
スルメはコールの名前が不服なのか剣を操りながら、「誰がスルメだよ誰がっ!」と叫んでいる。
キキキン、キキキキキキン!
「ってぇ!」
さすがに防ぎ切れなかった棒手裏剣がスルメの肩に突き刺さった。
『スルメ選手の肩に棒手裏剣が刺さった!』
『よくここまでしのぎましたな』
『コリー・コーラゲン氏、雄叫びを上げながら跳んだぁ!』
「しぇぇぇっ!!」
コリー・コーラゲンが短剣を抜いて器用に片手で二本持ち、スルメに飛びかかった。
と思いきや、飛びかかる振りをして空中で一回転して全力で投擲した。
「ちいっ!」
スルメがようやく目を開け、投げられた短剣を半身になってかわし、二本目はバスタードソードで打ち払う。
ギィン、と金属同士がぶつかり合う不協和音を奏でて短剣が地面に突き刺さった。
無理な体勢で剣を振ったため、スルメの身体が一瞬泳ぐ。
コリー・コーラゲンはスルメが無防備になる瞬間を狙っていたのか、この戦いで初めて杖を抜いて、木魔法下級“
闘技台から太い蔦がしゅるしゅると現れてスルメの足に絡みつき、がっちりと捕縛した。
『“
『まずいですぞ』
あれじゃあ完全に投擲の的だ!
抜け出せスルメ!
「スルメ君逃げて〜〜っ!」
「スルメぇぇ! 気合いで抜け出しなさぁぁい!」
エイミーとサツキが手すりから身を乗り出して叫び、俺も「スルメ! 根性みせなさい!」と鼓舞する。
『ゴールデン家応援席から美女達の声援が響いている〜っ!』
『羨ましい限りですな』
『コリー・コーラゲン氏、水色に輝く投げナイフを取り出し、大きく振りかぶって………投げたぁ!!!』
『魔法ナイフですぞ』
スルメの腹めがけて輝く投げナイフが飛んでいく。
身体強化してギリギリ追いきれるようぐらいの凄まじいスピードだ。
あのナイフ、風魔法が付与されているらしい!
「クソったれ! “
スルメはこともあろうに頭上に上位炎魔法を出現させ、自分の足元目掛けて撃った。
『ああああっとスルメ選手これは自爆かぁ!?』
ぎゃあああああああっ、とクラリス、バリーが叫び、ワイルド家応援席からも悲鳴が上がる。
ドンッ、ゴオオオッ!!!
強力な“
火炎でスルメの身体が焼かれ、真っ赤に燃え上がる。
「っらあああああっ!!!」
スルメが焼けて日本酒のおつまみになっちまう、と思った瞬間、炎の中でスルメがバスタードソードを振り抜いた。
高速で何かが通り抜けるような空気音が聞こえ、ビシリと闘技台にヒビが入る。
それと同時に追撃しようとしていたコリー・コーラゲンの右肩から左腰に剣撃が走り、噴水のごとく血が噴き出した。
「なん………だ……??」
コリー・コーラゲンはなぜ自分が斬られているか分からずに、そのまま後ろに倒れた。
しん、と静まるコロッセオ。
炎魔法が収まるとボロボロになったスルメが現れた。
命に別状はなくピンピンしている。
『研ぎ澄まされた斬撃が飛びましたな。おそらく命閃流、もしくは波岸流の剣術かと思いますぞ』
実況者イーサン・ワールドが丸メガネをくいっと上げて淡々と解説をする。
おおおっ、斬撃を飛ばしたのか?!
スルメすごっ!
渾身の剣撃は射程範囲を越えて対象を斬り裂く、というポカじいの言葉通りだ。
命閃流は名前の通り、己の生命力を極限まで高めて相手に勝つ、一撃必殺を至上とした流派だ。スルメは最大のピンチを作り出して自分を追い込み、今できる究極の一発をバスタードソードに込めたってわけか。そのおかげで斬撃が飛んだ、ってことだろうな。
飛ぶ斬撃が連発できるようになったらめちゃくちゃ強いぞ。
数秒して、審判のシールド団員が両手をクロスさせ、すぐさまコリー・コーラゲンに白魔法を唱えた。
ゴォォンと、試合終了の銅鑼の音が静かなコロッセオに響き渡った。
うおおおおおおおおおおおっ!
うわああああああああああっ!
歓声が爆発し、ガンガンと鉄の背もたれを叩く音が周囲に反響する。
『ま……まさかの逆転勝利ぃぃぃぃっ! 勝者は、自らに炎魔法を撃ち込み、強引に木魔法の拘束を破壊して剣撃を飛ばす剣士、ワンンンンンズ! スルルルルルルルルメッッ! ワイイイイィイィィィィィルッ、ドーーーーーーーー―ッ!!!』
実況のレイニー・ハートが絶叫すると、観客がさらに声を上げ、魔法賭博チケットが宙を舞い、背もたれを叩く音が一段と大きくなる。
横を見ると、きゃーっ、と可愛い歓声を上げてエイミーとサツキが抱き合った。
その横でガルガインが「うおおおおおおおおおっ!」と雄叫びを上げる。
アリアナは戦いを見て興奮したのか狐耳をせわしなく動かしているので、捕まえて抱き寄せ、もふもふの刑に処した。
もふもふもふもふもふ。
『これでリッキー家は領地10個を失い、ワイルド家は10個領地を増やしましたわっ! リッキー家はもともとあった150の領地からマイナス50! 次の試合に負けると三桁を切ってしまう大ピンチですわよっ!』
『一回の魔闘会で領地マイナス50個とは……グレイフナーの歴史が始まって以来初ですぞ』
『イーサン・ワールド氏。わたくし気になっているのですが、スルメ選手は先ほどの炎魔法を身体強化で防いだのでしょうか?』
『いかにも。“
解説が入ったことによりスルメの凄さに気づいた観客から拍手が巻き起こり、スルメコールがコロッセオを包んだ。
ゴールデン家応援席が率先してコールを変える。
「S・U・R・U・M・E、スッルッメッ!!」
「S・U・R・U・M・E、スッルッメッ!!」
「S・U・R・U・M・E、スッルッメッ!!」
俺達のコールに周囲がつられていき、段々とコールがまとまっていく。
三十秒もすればコロッセオ全体から「S・U・R・U・M・E、スッルッメッ!」のコールが響いていた。
スルメは焼け焦げた服のまま、カメラを指差して、大きく息を吸い込むと口を開いた。
『おっとぉ?! スルメ選手から何か一言あるようですわ!』
「だーーーーかーーーーらーーーー! だっっっっっっっっっっっっっっっっれがスルメだよ誰がぁぁぁぁぁぁぁぁッッ!!!!」
もちろん出てくるのはお決まりのセリフであった。
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