第156話 計画するエリィ①
『Eimy〜秋の増刊号〜』
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表紙
『チェック柄で新しい自分、発見』
秋っぽいからし色のロングコート、シックな花柄ブラウス、チェック柄のひだが多い膝下プリーツスカートを着たエイミー。カメラ目線ではにかんでいる。めっちゃ可愛い。
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1ページ
『口紅の広告』
トワイライトという店の広告。
口紅が三種類並び、表紙のエイミーが使っている口紅はこれです、とさり気なくアピールしている。
2ページ
『化粧水の広告』
続いて化粧水が一本きらびやかに宣伝されている。
どうやらクラリスとウサックスがうまく化粧品店を取り込んだようだ。
と、よく見たら俺が前に化粧水を買った店『止まり木美人』の商品だった。あそこの店主、元気だろうか。デートの約束もしているし、今度時間があったら顔を出すか。
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3、4ページ
文字なしで、背景は茶色一色だ。
表紙と同じ服装のエイミーの全身直立写真。
その隣のページにはポケットに手を入れて前傾姿勢で朗らかに笑うエイミー。
きゃわいい。癒される。おっぱい大きい。
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5ページ
『これがグレイフナーで流行するチェック柄! オシャレ力が上位超級!』
白黒のギンガムチェックシャツの上からセーターを着たエイミーと、紺と緑のタータンチェックスカート姿のエリザベスが背中合わせてカメラに視線を送っている。
おお、エリザベス! 垂れ目のエイミーと吊り目のエリザベスペア、めっちゃいいな! つーか二人とも美人すぎるだろ。地球のモデルより美人だな。おかしいだろこれ。
6ページ
『チェック柄シャツあれこれ』
このページにはシャツが並べてピックアップされている。たぶん、並べたのはエロ写真家ことテンメイだな。シャツが絨毯の上に配置され、袖口の先に杖が置かれたり、シャツのヘアブラシが頭の部分にセットされたりと、あたかもシャツが生きているように見え、想像力を掻き立てる。センスが光るな。
1,白黒ギンガムチェックシャツ。
2,濃紺と灰色のタータンチェックシャツ。
3,赤黒のブロックチェックシャツ。
4,紺、白、赤ラインの定番チェックシャツ。
5,白ドットでチェック柄を再現したシャツ。
商品の右下には販売場所と値段がさり気なく記載されている。
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7、8ページ
『私はチェックに恋シテル』
挑発的な視線を送るエリザベスが、1〜5すべてのシャツを着て並んでいる。
おーなるほど。写真を五回撮り、エリザベスだけを切り取って原画に貼り付けて、それを“
しかもすべて違うスカート、パンツを穿き、靴下なんかの小物類の紹介も忘れていない。いいね!
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9、10、11、12ページ
『お金をかけずにオシャレする天才なワタシ』
チェックシャツとチェックスカートを着回すエイミー。
色んな服を着て、様々な表情を見せるエイミーを見るだけでも楽しい。
チェック柄を一つ買えば、今までグレイフナーで流行っていた既存の洋服と合わせてオシャレできまっせ、と紹介している。これは秀逸なページ。
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13、14ページ
『オシャレ力×防御力』
〜魔物退治も恋もするワタシ〜
防御力が高く、なおかつ可愛い服特集だ。
エイミーが杖を構え、エナメル質の紺色ロングコートに黒いガウチョパンツ、インナーはえんじ色のケーブルニットセーターを合わせている。
コーデはたった一種類。それでもインパクトは強い。
コートはミスリル繊維とゴブリン繊維を組み合わせている。縫製に時間が掛かるけど、防御力はかなり高いぞ。とジョーの解説が耳元で囁かれた。
コートのお値段はなんと八十万ロン。わぁお。
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17、18、19、20ページ
『グレイフナーの恋愛マスターに聞いた10の質問!』
モノクロページ。ボインちゃんとフランクが、グレイフナーで有名な舞台作家の女性にインタビューしたようだ。
見出しもきちんとあるし、重要な単語は大文字で記載がある。
女性誌ならでは、結構突っ込んだエロい話も忘れていない。そうそう、女性誌ってやっぱこうだよな。
こういった王国の著名人もどんどんこっちサイドに取り込んでいきたい。
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20~28ページ
『靴下は白と黒だけじゃナイ』
『アクセサリで女子力アップ』
『ブーツとはおさらばなのデス』
『ストライプも着こなソウ』
靴、小物、アクセサリ、便利な日用品、ストライプ柄やシンプルな服の紹介。
前半では、前ページで出てきたグッズを絡めた商品の紹介と値段の記載。
後半は広告を兼ねた日用品の紹介だ。広告料がウハウハですな。
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29〜32ページ
前回でも登場した冒険者関連の情報だ。
どうやらテンメイがまた魔物撮影を敢行したらしい。このページは好評だったからな。シリーズ化されそうだ。
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33ページ
『ミラーズ新店舗オープン!』
ミラーズの宣伝が入っている。
34ページ
『至高の杖』
最後はなぜか杖の広告が入っている。一本六十万ロンする杖が、黒光りしてどアップで写っている。これもおそらくはクラリスとウサックスが準備した広告だろう。
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俺は夢中で雑誌を読み、読み終わると最初のページに戻って読み返した。
おもしろい。
デザインがどことなく異世界風になっているところに目を引かれる。使用する素材と、美的感覚の違いからだろう。俺がいなかったにも関わらず、かゆいところまで手が届く親切設計の雑誌に仕上がっていた。
「素晴らしいわね!」
思ったことを素直に口にすると、固唾を呑んで見守っていたミサ、ジョー、ウサックス、クラリス、テンメイ、エイミーとエリザベスが、「わっ!」と嬉しそうな顔になって手を叩き合った。
「エリザベスお姉様。すごーく綺麗に写っていたわ」
「恥ずかしかったけど……ちょっとやってみたかったのよ」
「これからも是非お願いします。モデル料はきちんと払うからね」
「エリィが頼むなら……やるわ」
「ええ!」
「私もエリザベス姉様と写真撮るの楽しかったよ!」
エイミーがエリザベスに飛びつき、天使みたいな笑みでこちらを見つめてくる。
「んもう、エイミー姉様はずるいわよ」
「ええーなにが?」
「こんなに可愛いのはずるいって言ってるの」
ついエイミーの二の腕を人差し指でぐりぐりとしてしまう。
「や、やだぁ。やめてよー。そう言ってくれるのはエリィとテンメイ君ぐらいだよ」
「ビュゥゥゥゥティ、フォゥ!!」
テンメイが雄叫びを上げてシャッターを切る。
毎度のことながら突然の絶叫に驚き、全員でカメラから出てくる写真を覗き込む。仲よさげに笑っているエリィ、エイミー、エリザベスが、絶妙な構図で写しだされていた。ファン垂涎モノの一枚だな、これは。
「それでエリィ、ここからが本題なんだけどいいか?」
クラリスが手早く全員分の飲み物を追加したところで、ジョーがおもむろに口を開いた。
「例のサークレット家の問題ね?」
「ああ、そうだ。あいつらは『ミラーズ一番街店』に来て、エリィモデルを売ってくれと頼んでくる。販売拒否していたら癇に障ったらしく、ミスリルの販売レートを釣り上げてきてな。もちろんサークレット家に売るつもりは一切ないんだけど、対策はしないとまずいと思う」
「ジョー、ひょっとして……」
「ごめんエリィ。どうしても事情が知りたくて、クラリスさんからエリィとサークレット家の間に何があったか聞いてしまった。その、エリィが、魔法学校に入学してからつらい目にあっていたことも……」
「いいのよジョー。私怨でミラーズを困らせてしまってごめんなさい。あなた達が嫌なら無理に――」
「いや、俺も全面的に戦うことには賛成だ。というより怒りが収まらない」
「私もですお嬢様」
ジョーの言葉をつなぎ、ミサが断固とした様子でうなずく。
「ミラーズはお嬢様あっての店でございます。私達を救ってくれたお嬢様を悲しませたスカーレット・サークレット、それに連なる家の者は皆、敵とみなします。向こうが攻撃してくるのなら敵対することに何の躊躇もありません」
「ごめんなさい。あと……ありがとう。でも、やっぱり私怨はおまけみたいなものでいいわ。良い物を作って、グレイフナーの新しいファッション時代を作ることが目標だもの」
相手を落とすことに重きを置き、成長できずに潰れてきた会社を何社も見てきた。
敵を落とすのではなく、自分を高める奴のほうが、敵にとっては脅威になるもんだ。だから、報復に重きを置かず、自分たちの信じる道を突き進めばいい。
結局のところ、俺達が頑張ってエリィモデルの人気が上げれば上げるほど、商品を買えないスカーレット達は苦汁をなめるって寸法だ。ふふっ、ジョー達が嫌がるなら引き下がるが、乗ってくれるなら報復はするぜ。俺はそういう性分だ。
ただ、報復がメインになって目の前が見えなくなることだけは避けるぞ。人の感情は正常な判断を鈍らすからな。
「お嬢様ならそう言うと思っておりましたわ。ですが、対策は必要かと」
「具体的にどういった現状になっているの?」
「簡単に申し上げますと、ミラーズが提携している縫製技師、染物店、布屋などにも『ミスリル』と『ミスリル繊維』の単価釣り上げを行っております。ミラーズから手を引かなければお前の店にはミスリルを卸さない。そういう口上でしょう」
「どのくらいの被害が?」
「まだ一店舗も契約を打ち切ってはおりません。ですが各店に動揺が広がっております。ミスリルを扱っていない店は問題がないのですが、中堅どころや大店は、防具関連でミスリルを扱っておりますからね。グレイフナー王国一のミスリル産出量を誇るサークレット家です。卸値を三倍にされたら、いかに大店といえ苦しいでしょう」
「縫製技師のところをヤラれると厄介だ。ただでさえ生産が追いついていない状態で、優秀な店に離れられると新商品の販売が間に合わない」
ジョーがハンチングを取って渋面を作りながら頭を掻いた。
「わたくしからご提案がございます」
粛々とした動作で一歩近づき、ギュンと一気に顔面を寄せてくるクラリス。
ひええっ! こええよ。
「顔が近いわ、クラリス。それで提案というのは?」
「サウザンド家を味方に引き入れるのがよろしいかと」
さすがクラリス。結論から話してくれる。
「我々は『サークレット家』とその配下である『バイマル商会』を相手取る格好になります。この『バイマル商会』ですが、お嬢様の仰っていた通り、完全な“後追い”をしております。似たようなデザインの『バイマル服飾』なる店を立ち上げ、四月には雑誌の創刊をするようです」
「いいデザイナーがいるのかしら?」
「どうでしょうか。見たところ、ほとんどがミラーズと似たりよったりのデザインでございます。お客様はモノマネだと気づいていると思いますね」
「あらそう。あとで視察に行きましょう。いいデザイナーがいるなら、何としても引き込みたいわ。ジョーも一人だと手が回らないでしょう?」
ジョーを見ると、返事の代わりにワインを飲み干し、ハンチングをかぶり直した。
「一人でできる。と、言いたいところだけどこれ以上は厳しいな」
「ジョー殿はコートから靴下まですべてのデザインを引き受け、八面六臂の活躍ですからな」
ウサックスがしたり顔で頬を右手でこすっている。
「ミサとも話し合ったんだけどね、いいデザイナーがいないんだよ」
「そうなのです。そちらに関してもお嬢様のアイデアをいただきたく思っておりました」
今度はミサが難しい表情になったので、クラリスはハーブティーを差し出し、ミサに手渡すとこちらに向き直った。
「お話を戻しますが、どのみち『バイマル商会』と『コバシガワ商会』はぶつかっていたかと存じます。後追いの宿命かと。サークレット家共々、まとめて叩き潰しましょう。粉々にしてやりましょう。路頭に迷わせてやりましょう。オホホホ……」
「クラリス、顔が怖いわ」
「おっと……これは失礼を致しました。申し訳ございません、一年前のお嬢様のお顔を思い出してしまいまして……。サウザンド家を味方に引き入れれば、彼らの流通させている『綿』と『魔力結晶』でスカーレット家に牽制できます。それから『白魔法師』は多くがサウザンド家の傘下でございます。そちらからも突くことが可能でございましょう」
「さすがは六大貴族ね」
「領地数1006個は伊達ではございません」
「そこまで言うなら、引き入れる見立てがあるのでしょう?」
「もちろんでございます。サウザンド家の末っ子、パンジー・サウザンド嬢がミラーズの洋服に心酔しております。現に、すべてのシリーズ、すべての洋服を卸すように契約しておいでです。また、末っ子ということで、ご当主もパンジー・サウザンド嬢を可愛がっておられるとのこと。そちらから繋がれば良いかと」
「そういうことね……。その子って、美人なの?」
「噂では、大変に可愛らしいお嬢様だと聞き及んでおります」
「いっそ、モデルになってもらってもいいかもね。モデルも圧倒的に足りてないでしょう? 現に『Eimy秋の増刊号』を見ても、あと三人はモデルが欲しいところよ」
「それはいいアイデアです」
「どうせなら一般公募しようかしら」
そう自分で呟いて、ミラーズとコバシガワ商会の攻勢に出る作戦が、頭の中に膨らんでいく。
思いついたアイデアを、必須事項と検討事項に分け、さらに現状を簡単に整理した。
サークレット家はサウザンド家で牽制。
バイマル商会はコバシガワ商会と雑誌対決。
バイマル服飾はミラーズと新デザイン対決。
他にも細かいやり取りや、小さな店同士の関係、他店舗や商会の参入もあるだろうが、大っぴらに対立しているサークレット家との対立図はこんな感じだ。もちろん大きな店や、服飾の老舗は他にもあるので、そちらの出方も探る必要がある。
「今年の魔闘会は五月十日から十四日の五日間よね?」
「さようでございます、お嬢様」
クラリスが“魔闘会”のフレーズを聞いて幾分鼻息を荒くし、答える。
「三日目が“中日”で個人技や魔道具品評会、新魔法認定などで、いわゆる箸休めみたいな日程だったわね」
「はい。三日目で団体戦から選りすぐりの猛者が選ばれ、トーナメントが発表になります。合わせて一騎打ちの組み合わせもこの日に発表です。王国公認の賭け券もこの日に発売ですので、情報合戦が一日中そこかしこで行われます」
「……分かったわ。あと確認だけど、コバシガワ商会の資金は?」
資金があるのか、とか、資金繰りがうまくいってるのか、などの言葉なしで、ウサックスがウサ耳を伸ばした。こちらの聞きたい情報が瞬時に分かったようだ。
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