第155話 再会するエリィ②
ウサックスに心底驚かれ、黒ブライアンとおすぎには中々信じてもらえず、ボインちゃんには痩せる秘訣を散々聞かれた。アリアナの弟、フランクは不思議な顔をしていたので、とりあえず狐耳をもふもふしておいた。
しばらくコバシガワ商会のメンバーと談笑していると、スルメ、ガルガイン、サツキ、テンメイ、亜麻クソがやってきて、少し遅れてアリアナが庭に入ってきた。
そこで、またコバシガワ商会の一同の動きが止まり、ゴールデン家使用人達にも動揺が広がった。
アルティメット狐美少女のアリアナは、ミサにもらったのか、グレーのタータンチェックスカートを穿き、Vネックのセーター。スカートとペアのデザインらしいジャケットを着て、紺のベレー帽をかぶっている。スカートの腰には大きめのリボンがあしらわれ、可愛さが倍増していた。
あーもう、これ作った奴、天才だわ。グレーで統一しているのは絶対に意図的だな。普通ならグレーばっかりだと色味がつまらなくなるんだが、アリアナには狐耳と尻尾があるわけよ。ライトなグレーと、薄いきつね色の絶妙なコントラストね。
スカートとベレー帽から、お上品なお耳とお尻尾がひょっこり出ているのが、たまらない。
「あ、エリィ」
嬉しそうに駆け寄ってくるアリアナさん。
ぴと、っと音がせんばかりに俺にくっついてくるので、たまらず、よーしよしよしよし、もーふもふもふもふ、してしまう。
「はあああぁっ。クールプリティィィィッ!」
素早くこちらに来たミサが、両手で自分を抱いて身悶えている。コーディネートの犯人はお前か。
さすがに俺のときと違い、アリアナだと気づいたらしいので、みんながだらしなく頬を緩ませて挨拶を交わしていく。
「おめえら本気で誰だよ」
「ちげえねえ」
スルメが肩をすくめながらツッコミを入れ、ガルガインが横でうなずいた。
「何言ってるの。あんまり前と変わってないわよ」
「変わりすぎだよ!」
「失礼しちゃうわね」
「ん…」
「に、兄さん! この狐人の方は……!?」
黒ブライアンが顔を真っ赤にして、アリアナとスルメを交互に見てくる。
「あん? ダチのアリアナだよ」
「兄さんの、お友達の方、ですか……」
「どうしたんだよ」
黒ブライアンの様子がおかしい。というよりこれは完全に素の状態でアリアナにトキメイちゃったか。
「アリアナさん! 僕はスルメ兄さんの弟、スピード・ワイルドと申します!」
「スルメ兄さんって何だよ?! てめえの兄貴は干物なのか?! 張り倒すぞボケェ!!」
「ん、よろしく…」
「は、はい! よろしくお願いします!!」
スルメを無視してアリアナと挨拶をする黒ブライアン。
「あの、不躾な質問なのですが、あなたにはお付き合いしている方がいますか?」
「ん…?」
「恋人がいるのか、という質問なのですが……」
困ったな、と口をすぼめてアリアナが俺を上目遣いに見てくる。いや、そんな可愛い顔されても俺が困るんだけど。
「いない…よ?」
そう言いつつ、アリアナが躊躇いがちにこちらをチラチラと見てくる。
いやいや、俺はエリィで女だからそういうのはちょっと……。というか、俺が友人だから同意を求めているのか。
そんな一連の流れを見ていた干物の弟、黒ブライアンが大げさに安堵した動作で両手を胸に当て、口を開いた。
「ああよかった! 僕はあなたに一目惚れしました。よろしければ友人からお付き合いをお願いします!」
「んん…」
俺の後ろに隠れてアリアナは睫毛を伏せた。
どうやら本気で困っているらしい。相手が真面目な青年なだけにあまり強く断っても可哀想だ、と考えているのかもしれないな。
軽い沈黙は、高らかな声によって遮られた。
「君ぃ! まちたまへっ!」
◯
結論から言うと亜麻クソはこっぴどくアリアナにフラれ、庭の端っこで燃え尽きた灰になっている。どうせすぐ復活するんだろうが。
黒ブライアンも脈なしだと気づいたのか、めちゃくちゃ肩を落としていた。
とりあえず、仕事を頑張れば認めてもらえるよ、とキリキリ働いてくれるように誘導しておく。タダでは転ばないのが小橋川流だ。
エリィマザー、エリザベス、エドウィーナと色々話し、スルメ達もゴールデン家の面々と交流を深めている。クラリスには俺の飲み物に酒が紛れ込まないように見ておいてくれと頼んだ。酒、絶対に飲みません。
コバシガワ商会のメンバーと話していると、自然と仕事の話になった。
クラリスもこの場で現状確認をするのがベストだと話していたし、みんなも俺に情報を伝えたくて仕方がないようだ。
「ミラーズはこの数ヶ月で大躍進致しました」
再会の挨拶と歓談も頃合いとみて、クラリスがそれとなく会話の水を向けてくる。
「あら、そうなの?」
「はい、お嬢様」
「そのお話は私から是非」
そう言ってボブカットをかき上げながら、ミサが一歩前に出てくる。
「まず、店舗を増やしました。本店を入れて現在四つ店舗がございます」
「まあ! 三つも増やしたの? ずいぶん思い切ったわね」
「それがそうでもないのです。現状でも店舗が足りずに四苦八苦しております」
「どこにお店を出したの?」
「『一番街』『二番街』『ディアゴイス通り』に出店しました。コンセプトとしては、『一番街』はエリィお嬢様考案のエリィモデルを中心に販売しており、高級志向の店舗。『二番街』と『ディアゴイス通り』は一般向けで、特に『ディアゴイス通り』の店は低価格で一般家庭でも買える金額の商品を出しております」
「なるほどね」
「ミラーズ『本店』は最新作と試作品を揃えております。お得意様や、オーダーメイドもこちらで扱っており、連日入店待ちの列が途切れません」
『一番街』はエリィモデル。
『二番街』『ディアゴイス通り』は通常モデル。
『本店』は最先端とオーダーメイド。
こういう配置と力関係か。
酒の力もあってか、ミサが興奮してこちらに顔を近づけてくる。対抗するようにクラリスも顔を寄せ、話に加わりたいらしいバリーも「オ・シュー・クリームはいかがですか」と言いながら菓子を片手に接近する。やめなさい。
三人がアリアナの重力魔法によって引き剥がされ、周囲から驚きの声と、軽い笑いが起きた。
「エリィにもらった指示書の通り、流行らせるためチェック柄に力を入れてるよ。『Eimy』秋の増刊号に特集を組んだおかげで、グレイフナーの女性にチェック柄が浸透してきている」
ジョーがワインで赤くなった顔で言う。
そういやジョーは見ない間に幾分か精悍な顔つきになったな。バリバリ働いて熟練度が上がっている証拠だ。いいことだ。
「春はタータンチェックをメインに、夏物も絡めた内容を盛り込むのがベストだと思う」
「それは私も思っていたわ。次の『Eimy』の発売予定日はいつかしら?」
「四月二十日を予定してる」
だいたいファッション誌は一〜二ヶ月先の情報を出してくる。季節の変わり目だけ雑誌を買う人も多く、春は二、三月号、夏は六、七月号、といった感じで、こうやって買っておけばトレンドを回収できるためだ。俺の知り合いなんかはこの方法で購入していたな。田中は好きな雑誌全部買って丸パクリしてたっけ。
新刊の『Eimy』は四月二十日。雑誌は現状、春夏秋冬の四シーズンであるから、春物と夏物を入れよう、というジョーの考えには賛同できる。もちろん夏物はおまけで、春物がメインだ。
「エリザベスさんが着ているドレープ系の服と、エドウィーナさんのレース系も販売は可能だ。ただ、自分で言うのもなんだけど、レース系はかなり冒険しているデザインだから、まだグレイフナーの人達がついてこれないかもしれない」
「どのぐらい攻めるかもポイントよね」
「俺はいいと思うんだけどなぁ。やっぱりスケスケだと防御力を心配されるんだよな〜」
「そうよね〜」
「防御力よりオシャレ力、って最初のフレーズあっただろ? いまグレイフナーでは『オシャレ力派』と『防御力派』で真っ二つに意見が割れてるんだ。まあ、女性は圧倒的に『オシャレ力派』が多いけどね」
まだファッション革命は始まったばかりだ。オシャレ力よりも、防御力を重視する従来のスタイルを貫く人もいるのは当たり前だろう。男達も、ミニスカートを見たら『オシャレ力派』に傾くに違いない。俺はオシャレと、綺麗な女と、生足の力を信じている。
「そうね。どのへんまで攻めるかは大事よ。でも忘れちゃいけないのは、自分が良いと思った物をとことんやる、ってことね」
「そうだな」
そう言ってジョーは自信ありげにうなずいた。
「あ、そういえばお嬢様。お会いした嬉しさで、お見せするのを忘れておりました」
ミサが、鞄から雑誌を取り出してこちらに差し出した。
「まあ、『Eimy〜秋の増刊号〜』ね!」
「是非ご覧ください。今後の方向性の参考になるかと思います」
うおおっ! 手紙で指示を出しただけでまだ見てない『Eimy〜秋の増刊号〜』!
これは気になる!
創刊号よりも分厚い『Eimy〜秋の増刊号〜』をパラパラとめくっていった。
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