第125話 砂漠の賢者と南の魔導士④


 ポカホンタスは突如として唱えられた氷魔法上級“氷妃の拷問具アイスフェンドネーゼ”に反応できない。


 何の溜めや詠唱もなく上位上級魔法を行使したイカレリウスに驚愕すると同時に、あの疑似アーティファクトらしき杖に魔法を仕込んでいたのであろう、という予想を瞬時に立てた。


 逡巡している間も事態は悪い方向へと進んでいく。


 足元が完全に氷漬けになり、地面から現れた氷樹が二本、ポカホンタスへと倒れるような格好で出現して両腕を氷漬けにして脱出を不可能にした。

松の木折りといわれる拷問具を模した“氷妃の拷問具アイスフェンドネーゼ”。

 ハの字に出現した二本の氷樹が、ポカホンタスの両腕を外側へと引っ張り、腕を引きちぎろうと外へ向かう。最終的に氷樹はVの字になり、捕らえられた人間は引き裂かれるという陰惨な拘束系の魔法だ。

 マイナス七十度の氷が、みるみるうちにポカホンタスの両足両腕を真っ青に覆い尽くしていく。


「ぬう……」


 両腕に激痛が走る。

 凍傷と斥力によって体躯が悲鳴を上げ、思わず口から言葉が漏れた。

 青い氷が腕から肩へ、足から腹部へ、腹部から胸へ、と移動していく。


 それを見たイカレリウスは勝ち誇ったかのように顔面を引き攣らせて狂喜し、砂漠中に聞こえるのでは、と思わせるほどの大声で哄笑を始めた。


「はっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっは! 無様だな! 全く無様だポカホンタス! これで長かった貴様との戦いも終わりだ! ようやく、ようやくだ!」


 そう叫ぶと、イカレリウスは“氷塊狙撃アイシクルスナイプ”を中空へと出現させ、高速回転した鋭い氷の先端をポカホンタスの鼻先へと移動させる。“氷妃の拷問具アイスフェンドネーゼ”に捕らわれているので放っておけば勝手に死ぬが、恐怖する相手の顔が見たかった。


「貴様の敗因はこの杖に仕込まれていた魔法を見抜けなかったことと、“絶対零度の双腕復体アブソリュート・ゲンガー”が使えぬことだ!」


 イカレリウスは勝利を確信している。

氷妃の拷問具アイスフェンドネーゼ”は上位上級魔法であり、身体強化“上の中”では抜け出せない。この魔法の極悪なところは激痛と冷凍によるコンビネーションで引き裂くような痛みを発生させ、身体強化や魔力を練ることをさせず、凍結が徐々に対象者を蝕んでいくという、名前にふさわしい効果があることだ。


 イカレリウスはポカホンタスがどんな顔をするか見たくてこの魔法を選び、一発だけ詠唱なしで魔法を行使できる疑似アーティファクトの杖に“氷妃の拷問具アイスフェンドネーゼ”を仕込んでおいた。


「複合魔法呪文は頂いていく! ついでに貴様の気に入っている金髪の小娘もな!」


 心底嬉しそうに口角を釣り上げ、ポカホンタスに向かって叩きつけるように宣言した。


「………」


 砂漠の賢者はとうとう無表情のまま何の感情も表に出さず、頭まで氷で覆われ、全身氷漬けになってしまった。いずれ“氷妃の拷問具アイスフェンドネーゼ”が身を引き裂くであろう。


 青髪青髭の魔法使いはゆっくりと杖を掲げ、振り下ろした。

 お遊びはここまでだ。長年の強敵であった男に引導を渡す。

 イカレリウスは己の半生をかけて探し回った憎き魔法使いを、最後に睨みつけた。


「死―――」


 死ね、と言おうとしたイカレリウスは最後まで言葉を紡ぐことができず、眼前で起きた事象に釘付けになり、思考が一瞬停止した。


 バガァン、という破壊音が砂漠にこだまし、全身すべて氷漬けのポカホンタスが右腕を突き出して掌打を放ち、“氷塊狙撃アイシクルスナイプ”を粉砕した。

 ただ単純に手を前へ出したようにしか見えない。

 なぜか右腕の氷がすっかり溶けていた。


「ば、馬鹿な…」


 イカレリウスは驚愕し、汚い物を排除するかのように睨みつけて、再び“氷塊狙撃アイシクルスナイプ”を二発同時発射した。


 バガン!

 バガァン! 


 すくい上げるような動きで右腕を上げて一発目を破壊し、左掌底を真横に振って二発目も破壊する。


「むんっ!」


 気合い入魂。ポカホンタスは全身に力を入れて己の肉体を覆い尽くしていた氷魔法上級“氷妃の拷問具アイスフェンドネーゼ”を破壊した。


 イカレリウスには理解不能であった。ポカホンタスが先ほどまでかけていた身体強化の強さは間違いなく“上の中”であったため、上位上級の氷魔法“氷妃の拷問具アイスフェンドネーゼ”を破壊できるはずがない。拘束の最中に身体強化を高めることは激痛から不可能と言える。


 だが、その不可能をポカホンタスは驚異的な精神力で可能にした。


 冷凍と斥力による激痛の中、魔力循環を通常通り行い、身体強化を瞬間的に“上の中”から“上の上”まで引き上げて“氷妃の拷問具アイスフェンドネーゼ”を強引に粉砕したのだ。


 一瞬だけ死を予感した際、ポカホンタスの心に去来したのは、ぷりんとした無数の可愛い尻だった。

 柔らかい尻、温かい尻、無邪気な尻、ハリのある尻。まだ見ぬ乙女の尻を思えば、こんな砂漠のど真ん中で無愛想な青髭の男に殺されるのはバカバカしいにもほどがある。尻がポカホンタスの精神を繋ぎ止め、百数十年の鍛錬の成果が激痛の中で身体強化を引き上げるという荒技を可能にした。

尻への想いが上位上級魔法を凌駕した瞬間であった。


「貴様ぁ!!」


 そんな敵の胸の内などいざ知らず、イカレリウスが氷魔法中級“氷塊狙撃アイシクルスナイプ”を正面から二発放ち、後方には同レベルの“氷傷噛付アイシクルバイト”を出現させ、逃げ道を塞ぐ。彼は激昂しているが、冷静さは失っていない。


 このまま攻撃へ移ろうかと逡巡したものの、さすがのポカホンタスでもこれまで消費した魔力を考えれば、身体強化“上の上”の維持は魔力枯渇の危険がある。すぐさま“上の中”へと一段階下げて前進し、“氷塊狙撃アイシクルスナイプ”を破壊せずに手を軽く動かす最小の動作でいなし、イカレリウスの眼前まで飛び込んだ。


 そして、腰のひねりや振りかぶる動作のない、ただの拳打をイカレリウスに向かって放った。

 端から見れば、棒立ちのまま腕を突き出したように見える。


 イカレリウスは“拡散空弾ショットエアバレット”の補助もない拳打だったので、“氷結塊壁アイシクルブロック”を一枚だけ出現させてガードする。

 これを防いで反撃する。そうイカレリウスは思った。


「……ぐっ」


 結果、イカレリウスの腹部に深々と拳がめり込んだ。


 身体強化“上の中”の拳打で上位中級“氷結塊壁アイシクルブロック”を破壊すれば威力が激減されるはずであった。


 イカレリウスの身体が意図せずくの字に折れ曲がったところを見逃さず、ポカホンタスは身体強化“上の中”+“拡散空弾ショットエアバレット”で左腕を振りあげ追撃をかける。


 顔面めがけて掌打が繰り出されたため、氷の双腕がオートガードを発動。

 “氷結塊壁アイシクルブロック”が二重展開される。


「がっ……!」


 だが、掌打が二重防御を破壊し、かち上げるようにしてイカレリウスの顎にクリーンヒットした。

 二メートル近い体躯が強烈な掌打によってふわっと浮き上がる。


 視界が点滅する中、イカレリウスはなぜガードを破壊してこれほどの威力が出せるのか逡巡するが、原因がわからない。とにかく回避しなければ、と頭と全身が警鐘を鳴らし、肉体を動かそうと躍起になる。


「“氷十字架アイシクルーシファイ”…」


 攻撃を受けながらも、自身とポカホンタスの間に高さ二メートル氷の十字架を出現させた。あくまでもイカレリウスはポカホンタスをここで仕留めるつもりで、その意志は執念といってもよかった。


 あの攻撃はなんだ…?


 イカレリウスは飛びかけた意識の欠片をかき集め、経験や知識を総動員して原因を探ろうとする。


 ポカホンタスの今までの攻撃はすべて布石だ。

 イカレリウスに身体強化“上の中”+“拡散空弾ショットエアバレット”を見せ続けていたのも、これ以上の攻撃はないと思わせ、土壇場で秘中の秘である技を使って相手に深刻なダメージを与えるためだ。



 ポカホンタスが使った技は、魔力循環と魔力操作を極めし者のみが使うことのできる、十二元素拳奥義・『魔力内功』だった。



 通常、身体強化を行うまでの流れは、魔力を発生させる→魔力循環→魔力を集める→一カ所に留める→身体強化、という経過を辿る。

 魔力を持っていない地球人にどのくらい困難な作業か説明する場合、部屋にある加湿器から発生する霧を魔力と見立てるとわかりやすい。


 部屋に充満させた霧の一粒一粒が魔力であり、それを操作して循環させる。

 循環させた後、霧を一点に集中させれば身体強化が完成する。全身を強化する場合は、霧を結露するほど発生させ、すべてを操って部屋中の壁を霧で覆う。何十万という魔力の粒を己の意志で操作し、少しのブレも起こしてはいけないため習得が非常に難しい。


 だが十二元素拳奥義・『魔力内功』は大きく異なる。

 魔力を循環させず、爆発的に発生させて身体強化を行う。

 一気に魔力を発生させ、コンマ数ミリの狂いもなく指定の場所に魔力を押しとどめ、強引に身体強化をする、という方法だ。魔力が少しでも外に出ると霧散し、内側すぎて強化場所に届かないと身体強化がされない。


 スピード百五十キロのボールを投げて、それに追いつき、コンマ数ミリの狂いなく指定の場所でキャッチする。それぐらいの離れ技である。



 魔力内功で攻撃すると何が起きるのか――



「打ッッ!!!!!」



 “氷十字架アイシクルーシファイ”をさらりとかわし、『魔力内功』“上の中”+“拡散空弾ショットエアバレット”の一撃がイカレリウスのオートガード、二重展開された“氷結塊壁アイシクルブロック”を突き抜けて本体に突き刺さり、骨が砕ける鈍い音を響かせ、遙か後方へと吹き飛ばした。


「ぐがっ…」


 通常の身体強化より一・五倍ほどの威力を持った拳打が発生する。

 “上の中”の威力が一・五倍されれば、威力は絶大なものになり、パンチ一発でビルの一つは吹っ飛ばせる。しかも恐ろしいことに予備動作が不要という驚くべき技だ。まさに奥義といえる。


 とてつもない集中力を要するため、三撃しか放っていないポカホンタスの額からじっとりとした汗が吹き出てくる。


 ここで、ポカホンタスは気を抜いたりはしない。

 敵がどんな隠し玉を持っているかわからないため、油断せずに追い打ちを掛ける。


 イカレリウスは相当のダメージを負ったはずであったが、杖を地面について何とか体勢を立て直し、ポカホンタスを視界の端で捕らえる。ポケットから素早く魔力結晶を取り出して魔力を回復させると、気力を振り絞って詠唱を始めた。


「氷の涙はすべてを憎み、氷針の処女は表裏を一体とせん……」


 氷魔法上級の大魔法“氷姫の拷問具アイシクルメイデン”再度行使し、決着をつけようと試みるイカレリウス。


 魔力が少ない今、この魔法を撃たれたら危険だ。

 ポカホンタスはここが勝機と、くわっと目を見開いて、右足部分のみ身体強化を“上の上”まで引き上げ、得意の“拡散空弾ショットエアバレット”を最大出力にして地面を蹴った。

 大型地雷が爆発したかのように後方へ砂がまき散らされ、瞬時にイカレリウスへと肉薄した。プラスしてポカホンタスは次の魔法のために小声で詠唱を開始する。


「“氷姫の拷問アイシクルメイ”――」

「貫ッッ!!!!!」


 右手の指先を五本すべてくっつけ鳥のくちばしを模した形にし、ポカホンタスが右腕を振った。


 『魔力内功』“上の中”の攻撃がオートガードによって現れた“氷結塊壁アイシクルブロック”を粉々に破壊し、ポカホンタスの右手がイカレリウスの左耳に突き刺さる。さらには呟いていた詠唱を完成させ、右手を左耳にぴたりとつけたまま、一気に開放した。


「“空児の百鳴琴トレーラーシャイン”!」


 音を一点に集中させる空魔法上級・音魔法“空児の百鳴琴トレーラーシャイン”がイカレリウスの鼓膜を破壊し、三半規管を狂わせる。魔力内功と上位上級魔法を防ぐことができず、彼の耳からはどろりと血が流れ、完全な酩酊状態になってたたらを踏んだ。身体強化“上の中”以下であれば間違いなく死んでいた一撃だ。


 ポカホンタスは身体強化“上の中”を維持したまま右腕を大きく時計回りに回してイカレリウスの両足をすくい上げる。空中に投げ出され、身体が壊れた時計の針のように空中でぐるんぐるんと回った。その勢いで氷の双腕“絶対零度の双腕復体アブソリュート・ゲンガー”が粉々に砕け散った。

 さらにポカホンタスは腕を回して、何度も何度もイカレリウスの両足を弾いて回転スピードを上げた。


「ちぃとばかしキツイおしおきをしてやろうかのぅ」


 空中で磔になったかのようにイカレリウスが青髭を空圧で直角にさせながら、ルーレットみたいにぐるぐると回る。小橋川が見ていたら「イカレリウスルーレット、スタート!」と司会者のように手を上げて叫んだだろう。


 魔力内功による三半規管を狙った「貫」の一撃と空魔法上級・音魔法“空児の百鳴琴トレーラーシャイン”、そして空中でぶん回されているせいでイカレリウスは魔力が少しも練れず、意識を飛ばしかけた。視界が赤と青に点滅し、目の前で無数の円が描かれる。


「巧妙な手管によって隠蔽され…決したるは因果応報……座したるは名楽の楽士……」


 能を舞うかのような節をつけ、ポカホンタスが浪々と魔法を詠唱する。

 この戦いで一番の魔力が集約されていき、彼の周囲の砂が逃げるように跳ねる。


「いにしえから伝承される詩は誰がために唄われる……」


 詠唱の時間はおよそ五十秒。

 ほぼすべての魔力をつぎ込み、ポカホンタスはその魔法を完成させた。


空理空論強制異動ゴーン・ウィズ・ザ・ウインド!!」


 空魔法の超級“空理空論強制異動ゴーン・ウィズ・ザ・ウインド”が発動し、ルーレット状態のイカレリウスの背中に五十メートルほどの魔法陣が蜘蛛の巣のように張り付いた。次に彼の後方に三メートルの魔法陣が夜空にかかった橋のように、延々と星空の向こうへ伸びていく。


「おぬしの敗因は、おなごの尻を愛でぬことじゃ」


 イカレリウスは空中で未だに回され続けているため、ポカホンタスの声が聞こえない。

 彼が女性のどの部位に興味を抱いているのか? それは彼しか知らないことであり、そのような自身の趣味を赤裸々にポカホンタスへ語る日は来ないだろう。


 ボシュッ、と真空になった瓶の蓋を開けたときに発する音が鳴り、逆バンジージャンプの要領でイカレリウスが強烈な勢いで後方へ引っ張られ、数珠つなぎで繋がっている魔法陣を滑るようにして爆進した。


「おお~良く飛ぶのぉ~」


 ポカホンタスはロケットのごとく星空の彼方へと消えていくイカレリウスルーレットを研究員のように右手を眉毛の上に当てて眺め、しきりにうなずいた。


「ツギアッダドギハゼッダイニブッゴロズゥゥゥゥゥ――」


飛んでいる途中で意識を取り戻したらしいイカレリウスが叫んで、声と共に星の彼方へとフェードアウトした。


 荒涼とした砂漠の大地に静寂が戻り、辺り一面にまき散らされた氷の残骸が月の光を浴びてきらきらと輝いている。


 空魔法超級“空理空論強制異動ゴーン・ウィズ・ザ・ウインド”は同じ超級魔法“空理空論召集令状エアレター”の逆バージョン。指定した相手を空の彼方まで吹き飛ばす魔法だ。


 “空理空論召集令状エアレター”はアリアナの鞭の先生役としてサキュバスを召喚した魔法であるが、この魔法、SFにあるような召喚魔法ではなく、対象者を強引に空圧で引っ張ってくるだけの魔法だ。通常、召喚魔法と呼ばれるものは、対象者を分子のように解体して出現場所で再構築するようなイメージであり、まさにファンタジー全開の魔法である。しかし“空理空論召集令状エアレター”はあくまでも空気や風を基本とした魔法なので、本当にただ引っ張るだけだ。


 では空魔法超級は大したことない魔法なのか、というとそれは大いに違う。“空理空論召集令状エアレター”の引っ張る力と距離は尋常ではなく、五千キロを十数分で移動させることができる。北海道から沖縄よりも離れた距離を、わずか十数分でだ。しかも対象者には空圧の保護がされ、ほとんどダメージを受けない。使える魔法使いは各国から引っ張りだこになるだろう。


 今回ポカホンタスが使用した空魔法超級“空理空論強制異動ゴーン・ウィズ・ザ・ウインド”は練り込んだ魔力の分だけイカレリウスを移動させる。方角は適当なので、行き着く先が、世界の果てか、暗黒の沼地か、漆黒の海か、飢餓の森林か、それは神のみぞ知るところだ。


 ――ギャア、ギャア


 主を失った使い魔のコンゴウインコがふらふらと飛び立ち、ポカホンタスを見て恨めしそうに一鳴きすると、イカレリウスを追いかけて飛んでいく。魔力が枯渇寸前のため、追撃はせずに、ポカホンタスは赤い鳥を見つめた。


「美しい星空に赤い鳥。うむ、なかなかに風流じゃのう」


 気づけばボロボロになっていた服にはまるで頓着せず、彼はのんびりとした足取りで砂漠に転がっている馬車の残骸へと足を向けた。戦いの余波で二台乗り捨ててあった馬車の一台は木っ端微塵になっている。比較的無事な横倒しになっていたもう一台の馬車に歩み寄ると、ポカホンタスはがさごそと積み荷を漁り、お目当ての麻袋を発見した。


「ひいふうみい…三本は無事じゃな」


 そう言いながら嬉しそうに酒瓶を取り出し、コルク栓を抜こうとする。

 だが魔力枯渇寸前で力が上手く入らず、一度酒瓶を砂の上に置いて両手を開いて閉じ、コルク栓を握りなおした。

 キュポン、という小気味いい音と一緒に酒の匂いが鼻孔をくすぐる。

 満足げにうなずくと、ポカホンタスは静寂に包まれた星空の下、赤い鳥を眺めながら酒を飲んだ。


「さて。魔力もないし、わしゃのんびり弟子の帰りを待つとするかのぅ」


 よっこらしょ、と言いながらポカホンタスは酒瓶を片手に馬車の縁へと腰を掛け、のんびりと空を見上げた。


 空房の砂漠に濃紺の夜空が落ち、美しく星を輝かせる。

 どこか遠くでデザートコヨーテの遠吠えが聞こえると、周囲は静寂に包まれた。


 馬車の縁に腰を掛け、ちびりちびりと酒を飲む彼の姿は、どこにでもいるただの酒好きのじいさんにしか見えなかった。




―――――――――――――――

読者皆さま


 本作をご愛読いただき誠にありがとうございます。

 別作品ではありますが、「転生七女ではじめる異世界ライフ」が第5回カクヨムWEB小説コンテストで大賞を取りました。これもひとえにエリィを公開し始めた頃から応援してくださっている皆さまのおかげです。本当にありがとうございます!


 また、今日から新作をはじめました。

 のほほんとしている眠気たっぷり女性主人公のお話です。

 お暇でしたらぜひお読みください・・・!


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「転生大聖女の異世界のんびり紀行」

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 ここまでお読みくださいまして誠にありがとうございます。

 それでは、引き続きよろしくお願い申し上げますm(_ _)m

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