第27話 落雷とイケメンエリート②
迫りくる重力波。
練っていた魔力を切り替えた。
「
花火を撃ち出すイメージで雷を展開する。“
“
凄まじい勢いで“
さらに俺は“
再度、動物が叫ぶような音を発しながら、電光が真っ正面へ突き進み、ボーンリザードに直撃する。“
“
「アリアナ! 耳を塞いで!」
彼女は咄嗟に頭の上にある狐耳を両手で押さえた。
急激に魔力を練り、“
跡形も残さないぐらい破壊しなければまた復活してしまう。
狙いを定め、腕を振り下ろした。
食らえクソ骨野郎ッ!
「
パチッ……
パチパチッ……
ババババババババババババババババリバリバリバリバリィッ!!!!!!!
顔を背けなければ目が潰れてしまいそうな閃光が草原を包み、先ほどより遙かに太い雷がボーンリザードの体を蹂躙する。
突如として降り注いだ強大なエネルギーが大草原の地面をえぐり返し、衝撃を吸収しきれなかった大地が粉々になって爆風を巻き起こして、熱風と一緒に土や石を四散させた。
アリアナが俺たちを守るように、咄嗟に“ウインドブレイク”を唱えてくれたおかげで、若干であるが二次被害は緩和された。
だが近くにいた俺は相当数の飛んできた石がぶつかって地面になぎ倒され、したたかに体を打ちつけた。
一瞬の静寂のあと、遠くから色んな音が聞こえた。
ギャーギャー
バサバサバサバサ
ヒーホーヒーホー
ブシュワーーー
かなり遠くのほうにいたであろう大型の鳥が何事かとあわてて飛び立ち、不運にも近くで休憩していた臆病者のヒーホー鳥がびっくりしてヒーホーヒーホーと呼吸困難になり、そして封印があった大岩の割れ目から一筋の水が噴き出した。湯気が出ているから温泉だろう。寝そべったまま、その光景を見ていた。
温泉出すぎッ!
「エリィ……」
魔力切れ寸前のアリアナがふらふらとこちらに近づいて、へたり込んだ。
「大丈夫?」
健気にもこの狐人の少女は俺を気遣ってくれているようだ。
重い体を頑張って起こし、アリアナに向かってうなずいた。
「さすがに。死んだわよね?」
「最初から死んでる…」
「骨だけだったからね」
「うん……もう動いてないから大丈夫だと思う」
目を凝らしても骨の残骸すら見当たらない。
魔力切れ寸前と打撲でぼろぼろの体をなんとか動かし、気絶している亜麻クソの鞄をむしり取って、魔力ポーションの入っている小瓶をすべて拝借した。さすがに“
五本あったので、俺が三本、アリアナが二本飲んだ。
オロナ○ンCみたいな味で、疲れた体に染み渡る。うまい。
しばらくすると、魔力がほんの少し戻ってきた。
まずアリアナに“
アリアナは治癒魔法が使えないため申し訳なさそうにしているが、闇魔法適正者は光の習得が難しいのだ、適材適所でそんなに気にすることはないと思う。それを伝えると、目を輝かして、うなずいていた。
俺たちはテントを張り、倒れているメンバーを移動させ、治癒魔法を施した。
もちろんスカーレットはその辺に転がしておいた。
アリアナは冷たい目線を向けぼそっと「足手まとい…」と言う。
大けがをしたスルメは、“
魔力切れを起こすと、個人差はあるものの三時間から四時間ほどで目を覚ます。アリアナが言うには「黒」の下級魔法に魔力を譲渡するものがあるらしい。使えたら便利、でも使えない、と言って彼女はがっくり肩を落としていた。すぐできるようになるわ、とまた彼女をなぐさめなければならなかった。
大草原はようやく静けさに包まれた。
「エリィ、救援を呼ぼう…」
アリアナは合宿の冊子にある最終ページをこちらに見せてきた。
『緊急の場合、または引率担当者が行動不能な場合、担当者の持っている
なんか最後命令口調になってるな……。
「
「これ…」
野球ボールぐらいの煙玉だ。
アリアナは躊躇せず
「アリアナ……」
「エリィ……」
「臭いわね」
「鼻が曲がる…」
くさやと硫黄を大量に混ぜて煮詰めたような、とてつもない香りが周囲に充満する。
俺たちはたまらず鼻をつまんで距離を取った。
そして救援を呼べたことにほっとし、ようやく肩の力が下りた。
「念のため確認しておきましょうよ」
ボーンリザードの残骸を指さした。
まさかとは思うが、倒したかどうか確認したい。
「うん…」
俺とアリアナはボーンリザードいたところまで歩いて、残骸を確認した。
“
骨の残骸らしきものはまったく見つからない。
「あれ、何かしら?」
大穴の中心点で、赤い石が光っていた。
「わからない…」
アリアナが首をかしげる。俺は“
赤い石が地面の上できらめいている。
拳サイズの丸みを帯びた石だ。よく見ると石の中で、小さい火花のような物が散っている。
「これ……魔力結晶」
「なにそれ?」
「魔力を貯めたり、出したりできる…」
「ふうん…」
「この大きさだとたぶん一億ロンぐらいする…」
「一億ッ!?」
「うん…」
「もらっときましょ」
ささっとポケットの中に一億円……じゃなくて魔力結晶を入れた。
こんな石ころが一億円とかまじでやべえな。地球でいうところの宝石と同じ扱いだな。
あとで換金してアリアナにも半分あげよう。
鼻がひん曲がりそうな臭いを発している
ようやく落ち着いて俺たちは腰を下ろした。
まだ魔物が来る可能性はある。
用心のため、眠らないで救援を待つ。
時刻は昼過ぎといったところだろう。俺とアリアナは鞄から鍋を出し、簡単なシチューを作ってぼんやりと空を見上げた。
――大草原が風に揺れ、草の擦れる優しげな音だけが聞こえる。
「エリィ…」
「なに?」
「さっきは……助けてくれてありがとう」
「いいのよそんなこと」
「あと……庇ってくれてありがとう」
「だからいいのよ。わたしってデブだから盾にはちょうどいいでしょ?」
「自虐ネタは……ダメ」
そう言ってアリアナはくすっと笑った。
表情のない大きな目がすぼまり、ほんのちょっぴり口角が上がっただけなのに、何とも言えないほっこりとした気分になった。
やだ何コレ。超可愛い。
「あのねエリィ…。私たち狐人は命の恩人に一生尽くすの…」
「へえ、面白い風習ね」
民族による文化の違いってやつか。
「だから私はエリィに一生尽くす…」
「えっ!?」
俺に?! 確かに命は助けたけど一生っていうのはちょっと重くないか?
「だから私の主になってエリィ…」
「主って……ファンタジーじゃないんだから! それにほら、ハルシューゲ先生だってガルガインだってスルメだって、みんな頑張ったじゃない。私だけがアリアナの命の恩人じゃないわ」
「ううん、そんなことない。あなたがいなかったら全滅していた…」
「た、たしかにそれはそうだけど……」
「それにあなたの落雷魔法、すごかった。伝説の魔導士とずっと一緒にいれるなら私は本望…」
「落雷魔法できちゃったのはまぐれなのよ。たまたま呪文を唱えたらできたの。ほら、だって私、白魔法も空魔法も使えないでしょ!?」
何とか弁解、というか撤回してもらおう。
さすがに一生は彼女に申し訳ないし、主とか無理だ。
「まぐれで落雷魔法は使えない。それに白も空も憶えずにできたのなら、それはまさしく天才。益々いっしょにいたい…」
「ちなみに、狐人の一生尽くすっていうのは具体的にどういうことをするの?」
「雨の日も風の日もいつも一緒。寝るときもご飯を食べるときも一緒」
めずらしくアリアナが強い口調で言った。
「いやーさすがにそれはちょっと……困っちゃうかなぁ」
「……ダメ……なの……?」
瞳に涙を溜めはじめるアリアナ。
俺はあわてた。
今日一番あわてた。
「ダメじゃない! 全然ダメじゃない! ダメじゃないんだけどほら! ああっ、泣かないでちょうだい! じゃあこうしましょ! 友達になりましょ!」
「……………ぐすん…………………ともだち?」
「ええ、そう!」
我ながら名案だ!
「友達になりましょう! 私、一年生からスカーレットにいじめられてて友達が一人もいないのよ」
いじめ、という言葉にアリアナはピクッと耳を動かした。
「エリィ……今ならバレない。あそこで眠っている足手まとい……殺る?」
スチャッ、とアリアナは杖を構えた。
「お願いだから物騒なこと言わないでちょうだい!」
「わかった…」
素直に杖を下ろし、ほっとする。
「じゃあエリィ。私たち友達ね…」
「ええ、友達よ!」
俺とアリアナはしっかりと握手をした。ぷよぷよの手と、かりかりの手がしっかりと組み合わさる。なんだかデコボコな二人だな、と俺はつい嬉しくなって笑った。
エリィ見てるか!
友達ができたぞーーーっ!
これからは学校で一緒に勉強したり、放課後に町へ繰り出して買い食いしたりできるぞーっ!
「よろしくね、私の主様」
「………へ?」
そう言って恥ずかしそうに笑うアリアナに、俺は何も言えなかった。
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