第24話 戦闘とイケメンエリート①
リザードの最上位種が魔力の溜まりやすい場所で五百年ほど放置されると、ごく稀にボーンリザードとして復活するらしい。凶暴凶悪、防御力は折り紙付き、破壊の限りを尽くす魔物。
byアリアナ談、ってなんでこんなところに封印されてんだよ?!
封印した奴空気読んでもっと草原の奥でやれ!
いい迷惑だよコレほんと!!
「集え水の精霊よ。穿て青き刃よ。
亜麻クソが格好を付けてズビシィッ、とポーズを取ると鮫の背に酷似した水の刃が地面を這うように滑った。ふわさぁ、と前髪をはね上げ、ドヤ顔でウインクする。
“
ボシュン、という水のぶつかる音がし、水滴が飛び散る。身体で五メートル、尻尾まで入れると十メートル以上あるボーンリザードには傷一つ付かず、ダンプカーにホースで水をかけるほどの効果しかないようだった。
「な、な、な、なんだって……このぶぉくの
亜麻クソが驚愕した顔でボーンリザードを見つめた。
上級攻撃魔法が効かないってやべえ。
そしてウインクまでした亜麻クソが最高にダセぇ。
「キシュワーーーーーーーーッ!!!!!」
強烈なボーンリザードの雄叫び。
魔力の波動が周囲に伝播し、俺たちは後ずさった。
ボーンリザードがもう一度叫ぶと、草原に不気味な影が集まり、どこからともなくリトルリザードの群れがこちらに接近した。太い腕で四足歩行をし、赤い舌をちろちろと見せ、爬虫類特有の無機質な眼が光っている。あの腕で殴られたらデブの脂肪を持つ俺ですら吹っ飛ばされるだろう。
背筋に寒気が走った。
その数はざっと数えて二十強だ。
これ絶対やべえやつだよな。
上級の魔物の中には下級の魔物を従えることのできる奴がいるってクラリスが言ってた気がする。うん、そんな気がする。アハハハ、嘘だと言ってくれクラリス。
「ライトニング!」
ハルシューゲ先生が杖を頭上へ上げると、光の玉が上空へ上がり、半径十メートルほどを照らした。
「みんな、ライトニングの中へ!」
我に返った俺たちは素早く光の中へ転がり込んだ。
間一髪、俺たちのいた場所に、ボーンリザードの尻尾が叩きつけられた。そのままの勢いで横に一回転すると、再度ボーンリザードは尻尾によるなぎ払い攻撃をしかけてくる。
「きゃあ!」
スカーレットがあまりの迫力に、思わず頭を抱えてうずくまった。
骨だけの尻尾はハルシューゲ先生の唱えた“ライトニング”の光にぶつかると、壁があるかのように弾かれた。
「ボーン系の魔物は凶悪だが光魔法に弱い! 奴は光の中には入って来れん! 私が抑えているうちにリトルリザードを!」
ハルシューゲ先生の指示が飛ぶ。
その間にも、二メートルほどの身体に深緑の鱗を持ったリトルリザードが、“ライトニング”なんぞおかまいなしで三匹同時に飛び掛かってくる。奴らにとって光魔法は脅威ではない。迎え撃つしかねえ!
「ファイヤーボール!」
「おらぁ!!」
「
スルメ、ガルガイン、アリアナが応戦する。
“ファイヤーボール”をモロに食らったリトルリザードが上半身を黒こげにして後方へ飛び込んだ勢いそのままにすっ飛んでいく。さすがに一発で倒せないのかスルメが追撃弾の“ファイヤーボール”を二発放った。
ガルガインのアイアンハンマーが飛び込んできた別のリトルリザードのどてっ腹に直撃し、野球のフルスイングさながら左前方に飛び、ボーンリザードにぶつかる。
ボーンリザードはイライラした様子で、何度も“ライトニング”に向かって尻尾攻撃をし、噛みつき、横殴りし、弾き飛ばされては攻撃を繰り返す。
「くっ……!」
ハルシューゲ先生のつるっとした額から汗が吹き出る。
申し訳程度に生えているサイドの毛からも汗がしたたり落ちる。
「ライトニング!!」
棒きれを上空に掲げ、光の玉を発生させた。
「先生少し休んでください!」
「う、うむ!」
俺の周囲十メートルに“ライトニング”の輝きが広がる。
「おまえら、時間を稼いでくれ!」
スルメが光の効力がギリギリ届く場所で杖を構えて叫んだ。
呼応してアリアナとガルガインがスルメを庇うように応戦し始めた。亜麻クソは自身の最強攻撃である
「うわあああ!」
「
地面から突如として突き出した鋭い円錐状の土がリトルリザードを貫いた。ハルシューゲ先生が杖を向けている。
亜麻クソは泣きそうな顔で尻餅をついた。
「しっかりしたまえドビュッシー君!」
「いくぜ!!」
スルメが叫んだ。
アリアナとガルガインがスルメから飛び退いて距離を取った。
「
スルメの杖から二メートルほどの蛇の形をした火が、五匹飛び出した。
火の蛇は前方へ飛んでいき、遠隔操作のような動きでリトルリザードを追尾して、一匹ずつ、着弾した。
五匹のリトルリザードが悲鳴を上げてのたうち回り、丸焦げになって絶命する。
「すげえじゃねえか!」
「もう一回…」
ガルガインとアリアナが下の下、初歩の初歩魔法で飛び掛かるリトルリザードをいなしながら賛辞を送り、スルメを守るように囲む。
スルメは再度、魔法の準備に入った。
そして魔力が充分に練られると、ふたりに合図を出した。
アリアナとガルガインが絶妙なタイミングで後退する。
「
先ほどより気持ち小さめの火の蛇が四匹、生きているかのように獲物を探し、頭から突っ込んでいった。すべて着弾。四匹のリトルリザードが黒こげのトカゲ焼きに早変わりした。
「いけるか?」
「まだいける…?」
「もう撃てねえ……」
スルメが青い顔で冷や汗をかいてバスターソードを抜いた。
魔力切れ一歩手前だ。
そうこうしているうちに俺もやばい。
魔法は連続使用すると、全速力で走ったみたいな疲労が襲ってくる。まだ魔力は余っているが、これ以上“ライトニング”を使用し続けるのは無理だ。
「スカーレット! 交替してッ!」
“ライトニング”は光魔法の上級。レア適正だけあって、適正者でないと使用が相当に難しい。光適正者が三人いたのは不幸中の幸いだった。
うずくまっているおすまし女は顔を上げた。
再度、俺は叫ぶ。
「これ以上は保たない!」
「あ、あなたごときがわたくしに命令しないでちょうだい!」
「そんなこと言ってる場合じゃない! ライトニングが消えたらあいつに食われるのよ?!」
ボーンリザードは凶悪な顎をがぱっと広げて“ライトニング”を食おうとする。
むき出しの歯が光の壁に衝撃を加え、使用者の俺にその負荷が伝播する。自分の思うようにならないボーンリザードは、怒りでドシンドシンと地面を踏みならした。
「なな、なんであんたの命令を……」
「おい女! 早くしやがれ!」
ガルガインが魔力を相当込めたであろう“サンドウォール”で、後方へ回り込んだリトルリザードを光の中に入れないよう壁を作る。高さ三メートル、横幅十メートルの壁が俺たちの後方に現れた。
そろそろまじでやばい!
早くしろおすまし女!!
「ライトニングッ!」
ハルシューゲ先生が俺の隣に来て杖を振った。
魔力を解放する。体中からどばっと汗が出て、激しく呼吸をした。
もうちょいで魔法が切れるとこだった。
あぶねえー。息を整えるんだ。
落ち着いて深呼吸しろ。
「あ、あ、あんたごとき、ピッグーが……わたくしに…」
「はぁ…はぁ……あなた、できないんでしょ?」
ビクッとスカーレットが身を震わせた。
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