6 会議は踊るよどこまでも

 作戦会議が始まって一時間経過した。しかし、会議は進まない。各々自由に行動をしているからだ。迅は爪のケア、粗野老はワインを飲んでいる。


「このオレンジワインはとても柔らかい、軽やかだ。悪くない品だ」


 粗野老はワインを片手に余韻を楽しんでいた。そこに店長である山田さんが、粗野老に日本酒を持って現れた。


「あーらお客さん、味がおわかる方ね。でしたら、このお酒もどーお?鹿児島産のお酒で、幻の名酒よ。隣のお嬢ちゃんもどうかしら」


「あー、俺は日本酒あんまり好きじゃない。匂いも嫌いだし、味も。それに俺は男だ」


「またまたー、お嬢ちゃんは冗談が上手ね。このお酒はコクがあって、とっても美味しいのに残念ねー。そちらのお兄さんはどうかしら?」


 山田さんのゴツい筋肉がチラッと見えた。女装のテクは素晴らしいが、あの筋肉を見た後では素直に褒めることには抵抗がある。


「俺はあんまりお酒に強くないし、今は作戦会議の途中だ。好意は嬉しいが、すまない」


「そうなのね。残念だわ、また来た時には飲んでってね」


「ワシは一杯もらっていいか?」


「あーら、貴方いける口ね。嬉しいわ、勿論大丈夫よ。さあ、飲んで、飲んで」


 山田さんは日本酒をグラスに注いだ。少し濁っているが、透き通っている。粗野老はコップを掴むと一気に口に運んだ。この日本酒は飲みごたえのある味で、深い味わいがある。


「幻の酒だけはあるな、旨い。キレがあって、苦味がたまらん」


「お客さん、なかなかの通ね。なら、こちらのお酒はどうかしら?」


「おい、お前らいい加減にしろよ、作戦会議中だぞ。やる気ないなら帰るぞ。山田さんも今は邪魔しないで」


 迅は爪の手入れを中断し、針に向き直る。粗野老はグラスを置き、真面目に話を聞くことにした。山田さんは残念そうに苦笑した。


「ああ、悪い。爪の手入れする時間だったから、癖で」


「酒が旨かったから、忘れてたわ。すまんな」


「ごめんなさいね。私達はオカマだと言われるけど。結局、男でしょって言われるのよ。でもね、私達はいつだって中立なの。この場所に訪れた方には楽しんでもらいたいのよ」


「すいません、山田さん。確かにそうですよね。お酒一杯だけ下さい」


「俺も」


「ワシも一杯」


「はーい」


「これ飲んだら、作戦会議を始めるぞ」


「おう」


「酒飲みたいから、とっとと終わらせるぞ」


 そして、ようやく作戦会議が始まった。議題は優しくて美人なお姉さん甘やかし大作戦、男側のデモ隊、女側の殺傷能力のある武器を所持することを認める条約の承認。女側に雇われた殺し屋について話すこととなった。

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