第9話 工場秘話/ドラッヘ誕生

兄弟は工場にいた。

恐ろしく天井が高く、奥行きもかなりのものだ。だが深夜の為か他に誰もいない。

生理的にぞっとする数の、数え切れない幾多の管が床を這いずり回っている。

蒸気があちこちから立ち上がり、薬品の臭いが鼻につく。


照明はあるが薄暗く、やっと歩ける程度の光の中、管も床に引かれ、足場はとても狭く悪い。

柵はあるが、丈夫とはいえない。大男のこの兄弟は特に危ない。慎重に歩かなければ滑り落ちてしまう。


兄弟がさる多大な権力を持つ男の仕事を執り行い、報酬として手にしたのは石の塊の山だった。

石の正体は未知のエネルギー放射体である。


石の内部から毎秒凄絶なエネルギー量が繰り出され、手を加えようとして何人もの学者が命を絶った。


兄弟も「エネルギーを動力に変換する装置」の製造に手を焼いたが、漸く実験が成功し、実用化に光が見えた段階に来た。


階段で四階分ほど上がり、足場の下にアーチ状の屋根の上が見える。

屋根のすぐ下の部分に、床を這っていた管達が無数に繋がれていて、管が脈打つのが見えた。

目が慣れるとアーチ屋根が幾つも連なっていた。



「戦車の完成はもうじきだな」と弟。

「ああ」言葉少なく答える兄。


「兄貴が得意なエネルギーと動力回路を担当して、俺が操縦系統と車体を作る」

「後地下の連中に武装を手伝って貰えば何も不足が無い」と兄。


「エネルギー収束に成功したとなれば、後は俺の仕事だな」

次の瞬間、兄は叫び声をあげ、16メール下の床に落下した。


弟は独り呟く。

「兄貴がいるとやりにくいんだよ」

そして

「兄貴がいなくなって奥のあいつは動かせないが、こいつが有ればあの一族と戦える」

と締めくくった。


工場の奥に、距離と暗さのせいでぼんやりとしか見えないが、でかい白いひとがたに見える物が立っていた。

手前の連なるアーチ屋根は、巨大な竜の様に見えた。

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