第10話 いつもの日常、親友との会話
"キーンコーンカーンコーン"
昼休みのチャイムが鳴り響く。午前中の授業がやっと終わったせいか、二年教室にいるクラスメイトの表情は皆晴れやかだった。
……のだが、隣にいるくるみは机に上半身を投げ出してぐったりしていた。
「あうー、つっかれたぁ……! 斗真ぁ、お昼ご飯食べたらさっきの古文のノート見せてー」
「ん、別に構わないけど、答えだけ見てもくるみの為にならないぞ。ラ行変格活用とか動詞によって文章の意味も変わるんだから、その部分もちゃんと復習してないと今度の期末テストでまた赤点とる羽目になるからな?」
「ぜ、善処しまーす……」
そっと目を逸らしたくるみは、明るい声を震わせながらそう返事した。
あれから席替えで隣の席がくるみになって数日が経過した。自分の席でもある一番後ろの窓側の席から教室を観察してみると、最初こそ男子は女子と隣の席で若干浮き足立っていた感じではあったが現在ではそれが薄れ、軽い挨拶や会話など気兼ねなく出来るようになっていた。
高校ではポジティブに振る舞うくるみが他のクラスメイトから聞いた情報では、なんと隣の男子を好きになったという女子までいるそうだ。女子がそうならば、きっと単純な男子も言わずもがなだろう。
そういった恋愛話が好きな氷珂先生の思惑通りだということは胸の内に秘めておこう……。
「よぉ斗真、昼メシ食おうぜー」
「おう」
因みに幸助は一番前の席に加えて隣の席は男子だ。周りはほぼ男女ペアになっているのに残念だったなぁ(ニタリ)。……あ、ごめん田中君ご愁傷さま。今は幸助の隣でも次の席替えではきっと良いことあるって。頑張れよ。
心の中で励ましながら昼食そっちのけで男子数人とスマホゲームに熱中している田中君を暫しの間見つめていたが、側でくるみを呼ぶ女子の声が聞こえた。
「くるみちゃーん、一緒にゴハン食べよー!」
「うん、わかったー! じゃあまたあとでね斗真! あ、白鳥君、私の机使う?」
「あ、あー……、その、うん……。
「―――。あ、あー、そうだよねー……! あははー、ごめんね気を遣わせちゃってー!!」
表情が固まるもそれは一瞬。可愛く元気な声でそう言うと、クラスの中心で机をくっつけていたクラスメイトの女子たちの方へぴゅぅっと走り去ってしまった。
そうしてそのまま幸助は「よいしょっと」と俺の前にある逢沢君(男子)の席に座りながらコンビニの袋を机の上に置いた。
……………………。
「な、なんだよ斗真……、そんなアスファルトの地面に張り付いてる他人の噛んだガムを見るような目ぇしてよ……」
「いやに例えが的確だなこのクソイキリパツキン野郎が。そこまで言うなら自慢の髪にガムをひっつけてやろうか?」
「スイマセン、マジで勘弁して下さい」
俺の据わった目を見て本気度を察したのだろう、珍しく幸助は背筋を正しながら真面目な口調でそう言った。
何故俺が突然幸助に暴言を吐いたのか、それは先程のくるみとのやり取りにあった。
「はぁ、曖昧に理由を返してくるみの席に座るの拒否んなよ。あれ絶対勘違いしてるぞ」
「え、勘違い? 何が?」
「もしかして自分の席に座るのが嫌なんじゃないか、ってさ」
そう、俺は見逃さない。悪気はないとはいえ幸助がくるみの可愛い顔を一瞬でも曇らせたからだ。しかもせっかく勇気を出して言葉に出した申し出を断るなんて言語道断。よってギルティ。
内心でそう思いつつ俺がそう指摘すると、一瞬だけぽかんとした幸助だったが、すぐに破顔した。
「えぇ、あのいつもポジティブ陽キャな柴崎さんが? あっはっは、おいおい斗真、いくら小さいときから一緒にいる幼馴染だとしても考えすぎだろー? 人の気持ちなんてそう簡単には分からねぇし、いつも近くにいるから以心伝心ってワケには―――」
「へぇ、流石いつも愛する
「あっ、ハイ。オレももっと精進ガンバリマス」
遠回しに"心当たりがあるだろう?"と俺が笑い掛けると、幸助は俺の言いたいことをすべて理解したのだろう。引き攣った笑みを浮かべながらそっと目を逸らした。
因みに"那月ちゃん"というのは、言わずもがな幸助の一年後輩の清楚系彼女のことである。幸助との幸せの為ならばあらゆる障害を跳ね除けあらゆる努力も
幸助のストーキングが趣味なのは
「ま、俺からくるみにフォローしとくから気にすんな。幸助なりに那月ちゃんと向き合ってるのは知ってるからさ」
「すまねぇ、頼むわ……。オレが他の女子の席に座ったらアイツそれだけで嫉妬するんだよ……。『私で上書きです』とか言ってしばらく抱き着いて離れなくなるんだ……」
「うわこの流れでまさか彼女自慢されるとは思わなかったわ死ね」
「直球!?」
俺だってくるみにそんなこと言われてみたいわ。言葉に反してそんなに嫌がっていない表情の幸助に対し思わず本音が漏れてしまったが、『あ、でも柴崎さんに後で一言謝るわ……』と言っていたのでここは大人しく引き下がるとしよう。
このまま昼食を食べる為に持ってきた弁当を開けようとした瞬間―――、
「
「はい、わかりました」
教室の扉から顔を出した氷珂先生が、何か用事があるのか気だるげな表情と声でそう俺のことを呼ぶのだった。
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