第54話 一週間限定マンツーマンレッスン 前編
「55点かー。確かに、このままだとちょっとまずいかなー」
「うう、すみません……」
「大丈夫大丈夫! まだ一週間もあるんだから! それに、私も教えられるところは教えてあげるし」
「よろしくお願いします。先生……」
只今、月曜日の午後七時よりちょっと前。
普段なら部活から帰ってきて夜ご飯を食べている時間帯だが、今日はもう食べ終わり自室の机に向かって夏織ちゃんと並んで座っている。
そして俺は夏織ちゃんを”先生”と呼んでいる。
なぜ今日はもう夕食を済ませているかというと、授業後の部活がなくて俺が帰ってきた時間が早いから。
なぜ俺が机に向かいながら横に座る夏織ちゃんを先生と呼んでいるかというと、夏織ちゃんが想像以上に勉強できる人だったから。
そう。
今はテスト週間、学生にとって巨大な壁だ。
……これは夕食後のこと。
俺がテスト範囲の問題を見て頭を抱えていると、夏織ちゃんが覗き込んで解き方をささっと教えてくれた。
夏織ちゃんは、高校時代は理系で大学は工学部、今のお仕事でも数学はもちろん物理も使う仕事をしているらしい。
俺は夏織ちゃんにこれまでとは違う尊敬の念を抱いていた。
「これまでは家で勉強する時間も撮ってたんだけど、最近はあまり……というか全然……」
「うーん、確かに。孝太くんが勉強してるところ見たことないかも……。ごめんね、私がリビングにできるだけ来て欲しいなんていうからだよね……」
「いやいや、リビングに行ってたのは、俺が夏織ちゃんに会いたいからで、夏織ちゃんのせいじゃないから! 悪いのは俺なんだ」
”俺が夏織ちゃんに会いたいから”という言葉で、夏織ちゃんの顔が綻ぶ。
夏織ちゃんのせいじゃない、って言いたくての弁明だったけど、意図せず口から出た言葉に自分で恥ずかしくなり、俺は視線を落とす。
「ま、まあ。孝太くんが悪いとしても、その要因は私でもあるみたいだし? 今回は特別だよ」
そう言う夏織ちゃんは、嬉しそうだ。
「え? 特別、って……。もしかして、勉強を教えてくれる、ってこと?」
「うん、この内容なら私もわかるところあるし、多分役に立てると思う! じゃあ、今日から毎日夕食後は勉強ね!」
こうして、夏織先生は誕生した。
そして今は、問題集についている章末問題やったところだ。
結果は55点。このままだと間違いなく平均以下だ……。
「ごめんね夏織ちゃん。お仕事で疲れただろうに、俺の勉強まで見てもらって」
「ううん。私と暮らした途端成績が下がった、なんてことになったら孝太くんのご両親に合わす顔がないし。何より孝太くんのためにならないから」
くう。
心配させてごめん。
全て近頃家での勉強を疎かにしていた俺の責任だ……。
夏織ちゃんと一緒に暮らすようになって、頭の中は夏織ちゃんでいっぱい。
勉強なんて二の次、三の次だった。
そのせいで夏織ちゃんの負担を増やしてしまって、申し訳ない気持ちが当然ある。
けれど、不謹慎かも知れないけどそれと同じくらい嬉しい気持ちも湧いてきてしまう。
なんたって、勉強を見てもらって学力が上がるうえに、夏織ちゃんと一緒に居られるんだから。
「じゃあまず、間違えた最初の問題から解説してくね」
「はい! お願いします!」
まずは先ほど解いた数学の章末問題から、夏織先生の解説を聞きながら復習をする。
夏織ちゃん、初夏の一週間限定マンツーマンレッスンが始まった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。