第47話 

「夏織ちゃん!」


「おお! おかえり、孝太くん。どうしたの? 大きな声出して」


「夏織ちゃんに話したいことがあって」


「……そっか。わかった、じゃあちょっと歩こっか」


「うん」



 ◇◇◇



「いつもの公園でもさ、朝と夜は全然違うね」


「うん」


「朝はバスケットゴールしか使わないから、ベンチこっちは初めてだね」


「そうだね」


「……」


「……」


「それで? 話ってなあに?」


「うん。……あのさ、夏織ちゃん。えっと、その……」


「うん」


「……」


「……」


「孝太くん?」


「っ! え、あっ。ごめん! あの、話って言うのは、その……」


「焦らないでいいよ。私、待ってるから」


「……いや、これ以上待たせられないよ」


「……そっか」



「俺さ、十年前、よく夏織ちゃんのおばあちゃんのお店に行ってたじゃん」


「うん」


「それで、手伝いに来てた夏織ちゃんを初めて見て、一目惚れしたんだ」


「……そうなんだ」


「うん。だから、それからは夏織ちゃんのいる土日に行くようになったし」


「へえー。そうだったんだ」


「そう。だから夏織ちゃんと一緒に暮らせるってなったときは本当にびっくりしたよ」


「びっくりなの? 嬉しいじゃなくて?」


「あ、いや。嬉しいのはもちろんあったよ! けど、それ以上に付き合ってもいない男女が一緒に暮らしてもいいのかって思って。夏織ちゃんは、その、初恋の人だから」


「あー……そっか」


「そ。でも夏織ちゃんはそんなこと全く気にしてなさそうだったから、俺も気にしないようにしようと思ったんだ」


「うん」


「でも、やっぱり無理だった」


「……ん」



「スー、ハー……」


「……」


「じゃあ、言うね」


「うん」



「俺、夏織ちゃんのことが大好きだ!」


「……!」


「十年前は俺は小さくて、夏織ちゃんに何もしてあげられなかったけど。今の俺なら、ちょっとは夏織ちゃんの力になれると思う」


「……」


「だから夏織ちゃん。俺と付き合ってください!」


「……グスッ」


「え。夏織ちゃん、どうしたの? ……泣いてるの?」


「う……う、ごめんね」


「俺、変なこと言っちゃった?」


「違う! それは違うんだけど……ごめん。ちょっと待って」


「うん」



 ◇◇◇



「……ふう」


「大丈夫? 落ち着いた?」


「うん、だいぶ。ごめんね、お待たせ」


「それはいいんだけどさ。どうして急に泣いちゃったの?」


「……」


「……夏織ちゃん?」


「その訳の前に、私も少しお話、いいかな?」


「……うん」


「さっき、孝太くんさ。”十年前は何もしてあげられなかった”って行ったけど。それは違うよ。今朝渡した手紙、読んでくれたんだよね?」


「……読んだよ」


「あの手紙さ、すっごい嬉しかったの。お母さんが亡くなったとき、本当に悲しくて、心だけじゃなくて体に穴が空いちゃったの」


「……」


「その穴を埋めてくれたの、孝太くんなんだよ」


「え? 俺?」


「そう。俺。一生懸命描いてくれた手紙と、それを渡してくれた時のまっすぐな目。ああ、こんな小さな子でも他人を思いやる優しさを持ってるんだーって、感動したの。優しくて強い子だな、って。孝太くんは、あの時私のヒーローだったんだから」


「ヒーロー?」


「うん、小さいヒーロー。おかげで、私は立ち直れたの」


「でも、俺。その手紙の約束、忘れちゃってた……」


「そんなこと気にしてるの、孝太くんだけだよ。結果として、こうして大きくなった孝太くんが戻ってきてくれたんだし、今はこの瞬間を喜ぼうよ」


「……うん!」


「それじゃ、さっきの質問に答えるね」


「お願いします」


「さっき泣いちゃったのはね、嬉しかったから」


「……」


「こうして、昔のままの優しい孝太くんが、また私の力になってくれるって言ってくれたから」


「……」


「孝太くん、私も好きだよ」


「……っ」


「こんな私でよければ、よろしくお願いします」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る