第46話 いい友達を持ったな

 学校からの帰り道。


 午前中のモヤモヤを修斗に晴らしてもらってからは、むしろスッキリした気持ちで残りの学校生活を終えることができた。


 ”大きくなった自分が、今どう思っているのか”、それを伝える。

 やるべきことが明確になったからだ。



 しかし、今。

 自転車を漕ぎながら、一つ悩みのタネを思い出していた。



 夏織ちゃんの妹さん、咲さんの『間違っても、今のお姉ちゃんに焦って告白なんてしないこと』って言葉だ。



 要するに、もっと夏織ちゃんの気を引いてからにしなさいよ、ってことだと思うんだけど……。


 ここ数日の朝バスケだけじゃ足りないかな?

 こんな手紙も渡してくれたし、もういいんじゃないか?


 いや待て。

 この手紙だって、今朝俺が勝たなかったら貰えなかったわけだし。


 俺のやる気を引き出すためのもので、言わば馬の前にぶら下げる人参。

 別に夏織ちゃんがオッケーって言ってくれてるわけじゃないんだよな?


 でも、この手紙を渡す意味は昼に高木と予想した通りだと思うんだけどなあ。



「ああーーー!」


 ああ、わからんわからん。


 頭がこんがらがって爆発しそうだ!


 人の気持ちを考えるって、どうやればできるんだ。

 これまでのどの科目のどんな問題よりも難しい。



 結局。

 俺は何をするべきなのか。



「わからない……」



 赤信号に阻まれ、頭だけでなく足も止められてしまう。


 ハンドルに頭を突っ伏してうなだれる。


「はあ」


 難題に苦しめられて出てくるため息。

 自転車を止めて、体を撫でる風がなくなることも余計に不快感を煽る。



 すると、そのため息に呼応したかのように、ポケットの携帯が振動する。



「メッセージ? 修斗からだ」


 ”——

 お疲れ!

 今頃どうしようか頭を悩ませてる頃だろうと思ってな!

 ——”


「……まじかよ」


 高木との個人チャットの最新メッセージは、俺をどこかから見ているんじゃないかと疑いたくなるものだった。


 うなだれていた体を引き起こすと、素早く次のメッセージが送られてくる。



 ”——

 昼は俺も好き勝手なこと言っちゃったけどよ、どれが正解かなんて誰もわかんねえもんからさ。

 自分のやりたいことをすべきだと思うぜ!

 誰かに言われたことじゃなくてな。

 ——”


 ”やりたいこと”……。


 そして、締めくくる最後の言葉。



 ”——

 後悔だけはするなよ!

 ファイト!

 ——”


「後悔……」



 特に返信もせず、携帯をポケットにしまう。




 ……俺はいい友達を持ったな。




 悪い方に考えて、すぐ足を止めてしまう俺を導いてくれる。


 今日の昼もそう。

 遊園地でもそう。

 それより前にも何度もあった。



 けど、そんな俺とはここでおさらばできそうだ。




  全部うまいことやろうなんて思わない。


  後悔しないように。

  自分のやりたいことを。

  大切な人と一緒に。


  もちろん傍若無人なことはしないけど。


  そんな風に生きていきたい。



 青信号に変わった交差点を、自転車で走り抜ける。



 ……いつか修斗にお礼をしよう。


 これも、俺のやりたいことだ。



 けど、まずは夏織ちゃんだ。



 一人日本に残る俺を受け入れてくれた優しい夏織ちゃん。

 いつも笑顔で俺に元気をくれる夏織ちゃん。

 毎日美味しいご飯を作ってくれる夏織ちゃん。


 ずっと待っててくれた夏織ちゃん。




 俺の思っていることを伝えよう。


 そして、夏織ちゃんの思ってることを聞こう。



 迷いの晴れた俺は、前だけを向いていた。



⭐︎—⭐︎—⭐︎

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失礼いたしました。

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