第75話 さあ、肉食推進ギルドの開店よ! 【エスパーダの場合】


 どっから湧いたか、見知らぬ人間の男達が手際よく肉を荷台から降ろし、建屋に入れてくれるので、エスパーダは馬が怯えて勝手に動かない様、手綱をしっかり掴み、ちょっとの間、誰よりも高い視点を利用して辺りの様子を伺っていた。


 怪し気な黒い馬車が通りの向こうにいる。

 その周りに数名の武装した人間の姿が見て取れた。

 馬車の護衛?

 にしては……他にも数名、建物の影に隠れている様子。


「ふん……怪しいんじゃな~い?」


 何とも物騒な雰囲気に、口元の笑みが隠せない。

 大体の話はシュルルから聞いていた。

 恐らくは、例の肉屋ギルドの連中なのだろう。


 そうこうしている内に肉が降ろし終わり、馬車を裏口へと移動させる事となる。

 馬車が移動した場所に、空樽でステージを作るのだろう。

 そこで、わざとゆっくり馬を進め、その怪しげな連中のお顔をじっくり拝見する事とした。


 ふう~ん……カタギじゃないわね~……。


 北の魔国に居たから、物騒な連中の気配は良く判る。実に懐かしい雰囲気だ。

 御者台の男。

 馬車の周囲に居る護衛らしき男達。

 そして、建物の影に隠れている……あからさまに武装している連中。

 多分、中で大笑いしているのが、連中のボス。


 面白れぇ~。


 思わず舌なめずり。口の端が持ち上がるのが抑えきれない。

 そいつらの眼前を、じっくりと進んでやる。

 ほれ、かかってこいや。

 どうせ、このタイミングじゃ動けね~んだろ?

 ほら、魔法の一発でも撃ってこいや!


 案の定、直接的な動きは無い。

 だが、このひりひりする緊張感がまたたまらん。

 そして、後ろを1人、付けて来る。

 身軽な気配。

 シーフかな?


 この分じゃ、裏手にも人が居るな……


 目を細め、裏手の路地へ馬車を進める。


 おお、いるいる! 5人もいる!

 後ろから付けているのも合わせて、6人か……


 目を細め、ちらり左手首のリングに目を落とす。


 使ってみるか……


 後ろの男が合図を送ったらしく、道を塞ぐ様に立つ5人。

 一見、戦士2人、僧侶か魔法使いが2人、そしてシーフが1人と言った感じの、実にバランスの取れたパーティーに見てとれた。しかも場慣れしていて、結構強い。


 そっちに気を取られていると、背後から、という事もありそうだ。

 だが、しかし……


 馬車を止め、前の連中に声をかけた。


「よお!

 邪魔なんだけどな……

 どいてくんない?」


「ここは通れねぇぜ!」


 リーダーらしき、前に立つ戦士がいかにもなセリフを吐く。

 だが、武器を抜こうとはしない。

 人数を頼みにか、それとも背後の奴の動きをサポートしてか。


「へえ~、何でだい?」


「お前ぇ~、そこのギルドのもんだろ?」


「さあな」


 涼し気に微笑む。

 この程度の圧は、ざらだからな。


「ネタは割れてんだよ!

 命までは取ろうっちゃ言わねぇ!

 大人しく、そっから降りて来な!

 可愛がってやるぜ~へへへへ……」


「可愛がるねぇ~……」


 御者台の上で、少し胸を反らしてみる。

 一応付いてるもんは付いてるからな。無いものは無いし。


「ママのおっぱいが、恋しいでちゅか?」


「手前ぇっ!」


「あんた、かわいいねぇ~」


「ぷ」

「く……」


 あ~あ。仲間からも笑われちゃって、顔真っ赤。

 でも、まあ、遅いんだよなぁ~。


 ようやく相手が剣を抜いた。その時には、もうそいつの背中を見ていた。

 何の事か判らない連中には申し訳無いが、ママの辺りからゆっくりと静かに御者台から降り、静かに連中の背後に回っていたんだな、これが。


 1番後ろに立つシーフらしき男の背後から組み付き、口を塞いできゅっと締めてやったら、たちどころにくてんとなったので、そっとその場に横たえてやった。

 かわいい奴。

 後でたっぷり可愛がってやっかんな。


 つまりは、連中、あたしの幻影とおしゃべりしてる訳。


 次には、そっと魔法使いらしいのを。ああ、女か。メスはいらね。捨てとこ……



「ほんと、かわいいよ……あんたら……」


 その頃には、6人全員地面に横たわっていた。

 誰も殺しちゃいねぇ。

 とりま、身ぐるみはぐ。


 男はとっとく。女は捨てろ。あたしの中の神が、そう囁く。


 それにしても、これはヤバイわ。


 腕のリングを改めて見る。


 こんなん報告したら、取り上げられるの確定だから、こいつは切り札として取っておく事にする。シュルルにも迷惑かかるだろうからな。





 あたしも反省したよ。

 5人全員ってのは、流石に欲張りだったって認める。

 こりゃ、ハーレムだわ~って喜んでたのも束の間、地下室に閉じ込めておいたのがバレて怒られた。


 良い武器防具だったんだけど、全部返した。

 ま、防具は男もんだしね。

 武器も手に馴染むものが一番さ。

 でも、納得がいかないのは、シュルルがそいつらに当座の生活費まで恵んでやった事。

 働きゃいいじゃん!

 働け!


 ……でそうなる前に、取り敢えず、全員食ってみたんだけど、流石に僧侶のぼっちゃんには参った。

 まさか、泣かれるとは思わなかったぜ。

 ま、1番可愛かったんだけどな。


 ……今も付き合ってる……


 居ないタイプだったからな……ホント、参ったぜ……



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