第48話 錬金術と元素魔法


 魔法は技術だ。


 完成された魔法は、工芸品に近い。


 魔力の流れを操作し、その方向性を与え、現象を引き起こす。如何に大きな流れを、少ない魔力で生じさせるか、そのロスを抑えるか。


 高度な魔法は、凄まじい工程を経て実現するもの。


 シュルルの扱う魔法は、小さく単純なものがほとんど。だが、干渉する素材への理解度を高めているのが、それ以前に習得した錬金術に依るものが大だ。



 目の前に掲げてみる、輝く黄金の腕輪、4つ。


「よん……」


 新たにこの街へ連れて来れる姉妹の数。


「誰が来るのかしら?」


 ごろり、自分の尻尾の上で寝転がるシュルルは、1尾1尾、姉妹の面差しを思い浮かべてみた。

 一応、ここに向かう際に希望を聞いて、選抜したメンバーが三日月とジャスミン。

 何となしに興味ありそうだったのも居たには居たのだけれど。うまく行く様なら呼ぶと……

 当初、考えていたより上手くない状況ではあるのだけれど。


 一応、誰のか判る様にと、魔力のプールでもある水晶を合成するのに、配合を変えて違う色にしてある。


 濃い翡翠の様なライトグリーン。


 夕日を詰め込んだ様なパッションオレンジ。


 煌めく透明なウォーターブルー。


 深く深淵なるディープパープル。


 色のイメージで渡すべきか、誰が来てくれるのか、夜明けが待ち遠しい心弾む一時の筈が、これら鮮やかな色彩ですら褪せて想える。


 呪詛は、樹木に似ている。


 その想いの丈程に高く、広く、そして深く根を張り、破棄しようにもそう簡単では無い。

 破壊したとしても、根が残る。欠片が残る。そこから、新たな呪詛となり、吸い上げ、絡みつき、縛り上げる。


「これが負ける、という事……」


 負けは死を意味した。

 ダンジョンならば、死は餌になるという事。これまで多くの者を、餌として来た。

 だのに、生きながら拘束を受けているという事実。知らず、張り巡らされた呪詛により、上書きされていく自分を認識した時、立ち上がろうにも頭が付く、低き屋根の如き息苦しさ。


 自分に、最早、自由は無いのか?


 そんな自分が、姉妹を巻き込む。それはして良いのだろうか?


 そう思う、自分の心も、既にあいつの支配下にあるのではないか?


「いいえ! これからやろうとしている事は、私達にとって必要な事よ!」


 不安に揺れる心に、否と打ち付け、立ち上がったシュルルは、傍らに脱ぎ捨ててあった赤いワンピースへと袖を通す。


「変身!」


 左右の腕輪を交錯させ、淡い光を身にまとうと、そこには幻影たる人の姿を重ね着した1尾のラミアが立っていた。

 やるという意志に奮い立ち、シャランと4つの腕輪を手に持ち。


「あら?」


 不意に、階下の気配に違和感を覚え、シュルルはすうっと目を細めた。


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