第19話 そうです! 私が噂のびっくり!ちゃんです!
しまったぁっ!!
私が脳内で慟哭しながら、馬車の御者台でのたうち回ってると、背後から2尾の心温まるスキンシップが繰り広げられた。
「良かったわね~、びっくりちゃん」
「いやあ、イカサマびっくりちゃんで御座ったわ」
ぐぬぬ……どうして……どうしてこうなったああああっ!!?
◇
この日は、いよいよ人間の港街、カラシメンタイコ公国の都、ブラックサンへ侵入を試みる日。
私達、ラミア3姉妹は、幻影の茂みに馬車を隠し、人里近くで一夜を明かした訳ですが……
私頑張ったよ! 本当だよ!!
軽い朝食を済ませた私達は、さっさと片付けを済ませ、そそくさと今日の打ち合わせを開始しました。
「じゃあ、改めて今回の作戦を確認します」
こう切り出した私は、2尾の姉妹の顔を交互に見据え、同意を求めた。
「私達は、人間の町中に拠点を確保する。
その為にも、先ずは門で手続きを済ませ、公的に商人の一家として滞在の許可を得ます。
その上で、予め顔見知りの商人を通じて手配して貰った代行屋を通じて、店舗の仮契約、肉屋ギルドの仮登録、軽食ギルドの仮登録、最低でもこれは済ませてしまいたい」
「オーケーオーケー」
「肉屋だけでは無いで御座るか?」
「肉を売りながら、調理したちょっとしたものも売って行きたいのよね。それで、今回、店舗候補を探して貰う条件に、本格的なオーブンがある店舗を居抜き出来ないか打診していたわけ。だって、ただ肉を売ってるだけじゃつまらないでしょ? 何の肉のどの部位かって知らないと、素人には美味しく調理出来ないじゃない?」
ピッと人差し指を立て唇に触れた。2尾もうんうんと頷いてくれた。
「わかったわかった」
「ふむ……そういったものでござろうか?」
実際問題、みんなその辺、結構無頓着な気がする。
ここは港町。魚介類の料理が本場。予め聞いた話では、それ専門の肉屋は小さな店舗が一つあるだけの独占状態で、毎朝水揚げされる魚介類が市の大半を占めるそうな。海鳥などは勝手に取って、勝手に売ってるらしい。
大概は、焼いて海水から採った塩を振りかける。
「塩焼きも美味しいけどね~それだけじゃね~」
「だよね~だよね~」
「実際問題、楽しんでるで御座ろう?」
「という訳で~」
ここで軽くウィンク。
後ろ手に隠していた荷物を前に出しました。
「およよ?」
「これは?」
「じゃじゃ~ん」
それは、今回の作戦の為に用意しておいた、変装道具。
パッと広げてみると、一気に場の空気が華やいだ。
赤、青、黄色と原色くっきりとした、大きくスカート部の膨らんだワンピースに、つば広の麦わら帽、そして……
「腕輪?」
金の腕輪に、赤、青、黄色とコイン程の大ぶりな、薄いガラス玉がはめられていた。
「これこそ、今回の為に私が錬金術を駆使して用意した魔道具。認識阻害の腕輪よ!」
2尾は最初、ワンピースに伸ばしていた手を止め、それぞれに腕輪を手にした。
「認識阻害?」
「そう!」
「魔道具で御座るか?」
「そう!」
私はちょっと自信満々。胸を張って鼻息も荒く、ぶふ~と頷いた。
「これは、裏面に魔力の吸いだす文様と、それを循環させるサークルが彫られているでしょう? そこから吸い出した魔力を、表のガラス板の裏にある発動体で常に拡散させる感じかな? 認識阻害は、幻影系の魔術では初歩的なものなのだけど、違和感を感じる心に干渉して、そこを忘れさせるって感じかな? だから、ちょっと目にしてあれ?って思っても、次にはそのあれ?を忘れているという」
「何それ!? 面白いんじゃない!?」
早速、腕にはめて、くっと胸元で構えて見せてくれた。
「で、この服と帽子は? やはりその為のもので御座るか?」
「うん」
私は、その服を胸に当てて見せ、帽子と腕輪をはめて見せた。
「印象の誘導を、この原色ばりばりの服と、麦わら帽子で行うわけ。パッと見た瞬間、どこに目を奪われるか、そこがこの際、重要な訳よ。ま、流石に普段通りまっぱだかで街中をうろついたら誤魔化し様が無いから」
「え? 服、着るの!?」
「当たり前で御座ろう?」
「ふふふ……人の街だからね。荒野とは違うし。まあ、これは、私達を人に見せかけている幻影の中から、外へ出てしまったうっかりさん用といった感じかしら? すぐに戻れば、あれ? 見間違いかな? おっかしいなあ? 程度で済むと期待しています!」
「そこは期待!?」
ワッと破顔して大笑い。
そんな様を横目に、しれっと青を手に。
「いやはやなんとも……じゃあ、拙者は青で……」
「わわわ! 私は黄色!!」
「え? 赤、綺麗でしょ!? 何で!?」
「じゃあ赤で良いでしょ?」
「イカサマ左様」
「うわ~、赤はちょっと自信無いなあ~……」
赤、それはどうにも情熱的過ぎて。
「じゃあ、何で用意したのよ!」
「全くで御座る。今に罰が当たるで御座るよ」
じろり見返して来る2尾の瞳が、ちょっと怖い。
「あはははは……はい……」
思えばこの時辺りから、私の中の歯車が狂い出した、そんな気がしてました。
◇
馬車を中心とした幻影に守られ、パッと見、ちょっと派手目な服装の若い三人娘と言った風情の私達が、都の正門前に並んだのは、太陽が昇ってから結構すぐだったけれど、最初からかなりの人数が並んでいて、手続きを受けられるまでにかなり時間がかかりました。
馬車と言っても、2頭だての荷馬車で、後ろに防水加工された幌があり、旅の行商人としてはスタンダードなもの。でも、荷台に荷物は三人の着替え程度。これ、税金対策也。
お供の2尾は、後ろの荷台でとぐろを巻いているのだけれど、覗き込めば二人の女性が座っている様が見えている筈。
何しろ、前後に並んでいるおっさん連中の目が、これまたいやらしいったら……
散々、そいつらに御断りをしながら、ようやく私達の番が回って来て、緊張を隠したまま、にこやかに街の兵士と挨拶を……
私達の担当は、小奇麗な革鎧をまとった、清潔感のある若い男でした。これだけで、ポイント高いよね?
年の頃は二十歳前後位しょうか。襟章が、ちょっと多いから、平の兵士ではなさそう。
ヘルメットの下から、淡い金の巻き毛と、青い瞳が揺れています。
「ブラックサンには、何の御用で?」
「いえね。うちの旦那さんが、商売を始めるって言うものですから、その下見に……」
静かな落ち着いた雰囲気の声。耳障りも良く、私の緊張も少し和らぎます。
あれ? でもこの声、何か聞いた事がある様な……
「身分を証明するものは?」
「あ、はい……実は人里離れた所に住んでおりまして、知人の商人を頼って参りましたの……」
前もって一筆戴いていた、旅の行商人の紹介状を見せた。
すると、う~んと唸りだす。
「荒野住まいで、どこにも属さない自由民ですか……所持金は……ああ、その心配はなさそうですね。良いお金の香りが、貴方からは感じます」
ふひいっ!!?
震える私の手を取り、その兵士は手の甲にそっと口づけを。
「奥様、税金の支払い等々の細かい説明は、あちらの者に引き継ぎますが、その前にお名前を伺っても宜しいでしょうか?」
シュルル!
うわあ、考えて無かった!! 思わずヘビ語でびっくりした時の声が!!
「ああ、シュルルさんですね。珍しいお名前だ。ちなみに、旦那様のお名前は?」
「え、は、はい。シューレスで……す」
「スペルはこちらで?」
「……は……い……」
ガックリ……
すると背後から、2尾の声が。
「ねえ、シュルル~。あたし達の名前は~?」
「拙者、ミカヅキで御座る」
「じゃ、あたしは~、ジャスミン♪」
(何それ!? 2尾ともずるい!!)
そんなシュルルをからかう様に、二人はその両肩に顔を載せてにっこり。
「いやあ~、びっくりよね~? お姉ちゃん」
「びっくりくりくりで御座るよ、お姉ちゃん」
そんな様を兵士は、微笑ましく眺め。
「お二人は同じ御用件で?」
「はい、開店のお手伝いに!」
「それと、それがし、人を探しており……」
「なるほど、定住をご希望で?」
「「はい!!」」
ほどなく、私のあだ名はびっくり!ちゃんに決定していた。
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