第12話 突然の訪問者 act 2
いよいよ突然の事だったけど、間宮家のお好み焼きパーティーが始まった。
それぞれ一枚づつお皿に盛られたお好み焼きから凄くいい匂いが立ち込めている。
そういえば、大阪って1人一枚ずつ食べるんだね。
東京じゃピザみたいにシェアして食べるから、驚いちゃったよ。
「なんやそれ!? ピザちゃうねんぞ? お好み焼きはこうして食べるのが世界の常識やで!」
いつもの食べ方を話したら、お父さんにそう言われて笑われてしまった。
う~ん。私だけの食べ方じゃないんだけどなぁ……。
それに世界の常識ってお好み焼きってそんなに世界的な食べ物だったっけ?
「おっと! そういえばまだ自己紹介してなかったなぁ」
お父さんがそう言うと、お母さんが「そういえば」と笑ってる。
うん……本当は始めにする事だと思ってたのは間違ってなかったみたいでホッとした。
康介さんなんて呆れてるもんね。
「俺は良介の親父で、
「私は良介の母親で、
「あ、えっと、改めてですけど、良介さんの友人の瑞樹志乃です。私の方こそ、良介さんにはいつもお世話になってます」
雅紀さんと涼子さんか。
これからはそう呼んでいいんだよね?
「俺はさっき買い出しの時に自己紹介したから、ええよね」
康介さんがそう言ってニッコリを微笑む。
あぁ……康介さんのその顔見たら、物凄く間宮さんに会いたくなっちゃうよ。
「んじゃ! 自己紹介も終わった事やし乾杯しよか!」
雅紀さんがそう音頭をとるから、皆ビールが注がれたグラスを手に持った。勿論、私は烏龍茶なんだけどね。
「瑞樹ちゃん、今日は世話になった。ありがとう! 大したもんちゃうけど、腹いっぱい食べたってや! 乾杯!」
「ほんまに助かったわ! ありがとう、瑞樹さん」
「ありがとな、瑞樹ちゃん!」
「えっと……あはは、御馳走になります」
皆でグラスを突き合わせた後、早速お好み焼きを口に運んだんだけど……
「お、美味しい! え? 何で!? 凄く美味しいです!」
「美味いやろ! ウチのは市販の粉に間宮家オリジナルの出汁を混ぜて焼いてるからなぁ!」
本当に美味しい。お世辞抜きで感動する程に美味しい!
え? なに? 本場のお好み焼きってこんなに美味しいの!?
「本当に美味しいです。こんなに美味しいお好み焼き食べたの初めてです」
「はっは! 嬉しい事言うてくれるやん! 生地はようさんあるから腹いっぱい食べてや!」
既に缶ビールを一本空けてる雅紀さんは、嬉しそうにそう言ってくれるんだけど、え? 大阪の人ってこれを一食で何枚も食べるものなの!?
美味しいお好み焼きに、底が抜けたように明るい雅紀さんのおかげで緊張が解けてきた。
何か間宮さんのイメージとはかけ離れてる気がするけど、こんなに賑やかな食卓は初めてで、凄く楽しい。
ワイワイとお好み焼きを食べながら、間宮さんの近況とか色々訊かれた。本当に間宮さんは雅紀さん達と話をしてないのがよく解る程に……。
「そうかぁ! あいつも東京で頑張ってるんやなぁ! あいつ大学出てから全然帰って来んくなって、何にも知らされてないねん」
「ほんまに困った子やわぁ」
「あはは、合宿の挨拶の席でも3年くらい親の声を聞いてないって言ってましたよ」
元気でやってるんなら、それでいい!って話す雅紀さんのホッとしてる様子を見て、何でこんな素敵な家族に連絡すらしなかったのか疑問に思った。
「それが聞けて安心したわ。優香ちゃんがあんな形でおらんくなってもうて、どうなるかと心配してたんやけどな……」
「え? 優香……ちゃん?」
優香ちゃんって名前に即反応したら、涼子さんが雅紀さんの頭をバシッと叩いた。
「痛った! 何すんねん!」
「アホか! 何で瑞樹ちゃんがおる前でそんな事言うんよ!」
何で私の前で話したら駄目なんだろう……なんて理由は明白だ。
多分だけど、雅紀さん達は私と間宮さんが単なる友人と思っていないから、気を遣えと涼子さんは言いたいのだろう。
間宮さんの気持ちは解らないけど、少なくとも私の気持ちはここにいる皆にはバレてるって事だ。
それを直ぐに否定出来ない程に、驚いた顔をしてしまってたんだと思う。
優香……さんって誰?
そういえば、私って間宮さんの事何も知らない。
何度か訊いた事はあるけど、やんわりとはぐらかされてきたから……。
「そ、そうやったな! 瑞樹ちゃん堪忍や! この事は忘れたってな」
そんなの無理だよ。
家族である雅紀さんが優香さんの事を知っているって事は、それだけ間宮さんと深い仲だって事……だよね。
それから雅紀さん達が色々フォローしてくれてたみたいだけど、そんなの全然耳に入ってこない。
――そうだよ。今まで何で考えなかったんだろう。間宮さんの現状ばっかり気にしてて藤崎先生をライバル視してたけど、間宮さんの過去を気にした事が殆どなかった。
間宮さんの年齢考えたら、恋人の1人や2人……ううん!
!もっと沢山の恋愛とかしてきたはずじゃない!頼り甲斐があってあんなに優しい人なんだもん……女の人が放っておくわけないじゃん!
多分、優香さんって人は間宮さんの元恋人だったんだ。
雅紀さん達が知ってるって事は、もしかしたら結婚とか考える仲だったのかもしれない。
いなくなったって言ってたんだから、今も付き合ってるって感じじゃないけど、雅紀さんの言い方だと普通に別れたわけじゃないの?
「あ、あの! 優香さんって良介さんと……その」
声を絞りだしてそこまで雅紀さん達に訊こうとした時、皆の表情が曇っていた事に気が付いて、最後まで言い切る事が出来なかった。
私のせいで空気を重くしてしまった。
きっと私にとって凄く大切な事だとは思うけど、折角の楽しいご飯の席を重くする必要はない。
「え、えっと……あはは! ホント美味しいですよね」
「あ、あぁ……そ、そうやろ! 今度はイカ玉いっとくか!」
白々しい空気になっちゃった。
前の私なら言っちゃいけない事を口に出す前に、空気を変えるのを嫌って止める事が出来たはずなのに、今は全然出来てない。
もう空気や周りの見る目を気にして生きてきた術が、使えなくなってる。
変わりたいって本気で思った事には後悔してないけど、自分のせいで空気が悪くなってしまうのは申し訳なく思う。
下手くそな振る舞いに雅紀さんが乗ってきてくれたから、このまま行くしかないんだけど、正直もう帰りたいよ……。
――優香さんって人の事、間宮さんに訊いたら話してくれるのかな……。
そんな白々しい空気になってしまった時だった。
玄関の鍵穴に鍵が差し込まれてカチャンと回す音が聞こえた。
この場に現れる事が出来るのは1人しかいない。
タイミングが良いのか悪いのか……。
こんな時、私はどういう顔して間宮さんに顔を合わせればいいんだろう。
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