第32話 宝の山

 ブリンガランの聖女ルナリスがここに来た理由はランガートルの討伐である。ランガートルは何世代か前の聖女が唯一討伐出来た魔物だということで、話を聞きつけてやってきたとのこと。


 シナノガワ曰く、ルナリスは討伐した栄光と大金が欲しくて専門の業者を連れてきたという。


 この聖女様、神聖なイメージを覆す人間性をお持ちのようです。


 で、その聖女様はソロモンが魔物の解体に協力し出すと何故か馬車から降りてきた。腕を組んでソロモンにガンを飛ばしだし、ヴィクトルが過剰に反応。ソロモンとシナノガワが慌てて止めに入る事態になった。


 獲物を取られた形でお怒りなのは分かるが、それにしても怒りすぎじゃね?

 

 聖女様は今、ソロモンの後ろで仁王立ちをしている。相変わらず目付きが悪いが、戦闘の意志は今の所見せていない。


 プレッシャーが半端じゃないことこの上ないぜ。


 夜の帳が降り、空に星の光が輝き出す。そんな時間になっても、大きめの照明器具で手元を照らしながら、ソロモンと学者と業者達は作業を続けている。

 彼等は元々野営するつもりで準備して来ていた。それにソロモンが参加する形になっている。ソロモンの同行者のリーダー――実はあだ名みたいなもので本名はランド――とシナノガワは帰った。


「ほい、剥がしたぞ」

「いやぁ手慣れていますな」

「まぁね」

 彼等の刃物が通用しない堅い外殻を、ブロジヴァイネで引っぺがす。外殻さえ剥がせれば、本体の解体は容易い。


「ソロモン卿、この外殻ですが魔力検査に反応が出ました!」

「おっあったか。待ってたぜ」

 業者の一人が外殻の一部を持ってきた。素材鑑定に使う携帯用の魔力検査器も持っている。検査器は魔力を照射して対象の反応を見る魔装具。その大きさは元の世界で例えると、電動髭剃り機に似た形状でそれより二回り程大きい。


「外殻自体に反応は出ませんでした。しかしこの部分に検査器を当てるとですね、反応が出るんです」

 実演してもらう。すると外殻の表面に青白い光が現れた。外殻全体では無く少し蛇行した線状。検査器を動かすと動きに付いてくるように現れたり消えたりする。


「拡大鏡で分かったのですが、外殻に僅かに色が違っている部分があります。何か別の性質の物が混ざっているようですね」

「成る程……。攻撃魔法の時の光り方に似ている。この部分が変質材になっているのか」

 攻撃魔法を使う魔物は存在する。そのメカニズムは基本的に魔装具と同じだ。魔力を変質材で別のエネルギーに変えて撃ち出している。


 体の一部が変質材になっていて、その性質と組み合わせで魔物は攻撃魔法を繰り出す。


「これは持ち帰って詳しく調べたいな。切り出すか」

 ブロジヴァイネで反応が出た部分を切り取る。城に持ち帰る労力を考えて、小さめに切り取る。


「おいソロモン。貴様は魔法や魔装具には詳しいのか?」

「……それなりには。一応専門家から習った」

 ルナリスはまた黙り込んだ。ソロモンは特に気にもせずに作業を続ける。


 食事休憩と小休憩を挟みながら夜通し解体作業は続く。彼等はこの仕事が好きらしくランガートルの解体作業を嬉々として続けていた。その中で新たな発見があった。


「両前足の爪の部分とその周り、ここも変質材になっているな」

「はい。一通り調べてみましたが後ろ足にはありませんね。外殻の一部とここだけが攻撃魔法に関わる部分でしょう」

「部位から考えると、地面スレスレを通った無音の遠距離攻撃は両前足からで、魔力照射破壊を起こす光線は胴体の外殻からか……。取り敢えずここも持ち帰りだな」


 朝方近くになると流石に眠くなったのか、ルナリスは馬車の御者席で座ったまま眠っていた。疲れ知らずのヴィクトルは休み無く素材の運搬等の仕事を手伝っている。

 夜が明けて二時間後解体作業は完了した。妙にテンションが上がったソロモンは結局徹夜をしてしまった。


 朝ご飯を胃袋に放り込んでいると、解体業者の仲間が合流。彼等に状況を簡単に説明すると、運搬用の馬車に解体した素材を積み込んでいく。テキパキと迅速に積み込まれていく所をみると、彼等も手慣れている。


 昼前には全員この場を後にした。流石に疲労がピークを越えたので、ソロモンと解体にあたった業者達は全員帰りは眠っていた。

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