第18話 やるべきこと

 この城には馬用の放牧地がある。正門館の隣、比較的日当たりが良い場所に設けられている。結構広く牧草も生えており三頭ぐらいまでなら餌代はほぼ掛からないという。石造りの馬小屋があるので雨が降っても安心だ。

 今は一頭しか居ないが小さい馬車も含めてソロモンの所有物だ。買い出しには不可欠なお供である。


 定期的にアスレイド王国側の最寄りの町で、生活に必要な食料品や日用品を纏めて買ってくる。相方のヴィクトルの存在も大きく、なんとか自活出来ている。

 一週間もすれば最低限の掃除も終わり余裕がでてきた。


 本来は高校に通う筈の時間。使い方は決まっている。鍛錬だ。

 悪魔から貰った能力は俺自身が強くなる訳じゃない。戦いをヴィクトルに全て任せてしまうとヴィクトルが倒された時に詰む。復活するとはいえライムラグがあるし大人数で攻められる可能性もある。戦いになるのは何も他のプレイヤーだけとは限らない。初日の盗賊がいい例だ。この世界は元の世界よりも物騒で安全じゃないんだし、強くなって困ることは無い。


 動きやすい服に着替えて入念に準備運動を行う。

 戦闘用の防具も一式買っておいたから慣れておかないとな。いきなりフル装備で動き回るのはキツいから、まずはこれに履き替えよう。

 箱から取り出したのは足を保護するグリーブと呼ばれる金属製の靴。膝のちょっと上くらいの長さがあり足の後部まで保護できるタイプだ。足を入れた後、金具で前面と後面を固定する。

 自分にあったサイズを店員に見繕ってもらったから履いた感触は悪くない。動きやすい軽めのグリーブを選んでみたが正解だったな。

 靴底で床を何度か叩いて具合を確かめる。新品のグリーブは小さな金属音を発した。

 これでも元スポーツマン。小学生から野球やってて運動神経には自信があるし、体の鍛え方の基本は分かっている。中学までで辞めたから体は鈍っているけど、軽めのトレーニングから始めていけばいい。


 勝者として生き残る為、徹底的に鍛えてやるよ。まずは準備運動からだ。


 グリーブに慣れる為にウォーキングをする。コースは無人の廊下だ。ヴィクトルには槍の訓練を命じた。武器の扱い方は訓練で上手くなるが腕力等の能力は訓練では強化されないので、ランニングや筋トレは無意味だ。


 休み無く槍を振り回すヴィクトル。ソロモンは時々早歩きをしながら城内を歩き回った後、ランニングを始めた。

 グリーブの重さが負荷になってるのもあるだろうが、想像以上になまってるぞこの体は。

 走り始めて十分もしない内にへばって座り込んでしまった。

 これに剣とか鎧の重さが加わるんだぜ。今の俺なら歩くだけで精一杯だな。


 トレーニングメニューはまずランニングで体力を底上げする。その次に筋トレ。スクワットと腕立て伏せと腹筋で筋力を強化。その次は武器の訓練で、剣の素振りと弓の射撃を。最後にストレッチでクールダウン。

 これをワンセットにし、午前と午後で一回ずつ。自身の体力に合わせてランニングの時間を変えたり、筋トレの回数を変えたりといった調整をする。

 継続してやれば長時間活動する為のスタミナ、相手を攻撃するパワー、武器を扱うテクニック、この三つを身に付けられる筈だ。筋肉を超回復させる為には休みも必要。買い出しに行く日を休みにすればいい。


 次の日は筋肉痛。ソロモンは笑っていた。

 筋肉痛って気持ちいいんだよな。努力したって感じる。運動後はメシが旨いし、風呂は好きな時間に一番風呂だ。

 ここの生活はそんなに悪くない。まあ両親や学校の友達がどうしているかは気になるけども、もう一度会いたいという気持ちがあるなら怠けてなんてしてられない。

 今日もやるぜ。徹底的に鍛えてやる。


 ソロモンは毎日真面目にメニューをこなし続けた。怠けても咎める者は居ないし、ペナルティーがある訳ではないが、決して手を抜いたりはしなかった。屋内での鍛錬なので雨の日でも問題無し。

 休みの日は買い出しの後に図書室の本を読んで過ごす。ジャンルは様々で恋愛小説もあれば魔法関連の本、専門書等もある。


 そんな生活を送り一ヶ月が過ぎた。その頃には武器と軽量型の鎧を身に付けても、長時間歩き回れるくらいまで鍛えられた。防具は防御力では無く機動力重視で選んでいた。兜と盾は無い。

 指導者が居なかったので剣と弓は自己流。剣は相手の動きをイメージしたり、ヴィクトルを仮想的にしたりと工夫した。弓は悪い癖が付いているのかもしれないが、的に当たらないということは無くなった。


「実力が付いてきたかなと感じるとさ。腕試ししたくなったわ」

 いつものように朝食を食べながらソロモンはヴィクトルに言った。

「昨日買い出しに行った時にさ、最近魔物が増えてるって噂を聞いたんだよ。狩れそうなのが彷徨いていないかちょっと様子を見に行こうぜ」

 ソロモンの提案にヴィクトルは大きく頷いた。

「よし決まりだ。早速準備するぞ」

 ソロモンは手早く食器を片付けた。

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