エピローグ2 麗狩りの始動

 全員がメールを読み終わった頃を見計らい、小柄な少年は愉快そうな声で言った。


「そこにあるURLの動画観てみろよ……面白いもんが見れるぜ」


 それは数カ月程前に行われた麗と飛詫露斗アスタロトの喧嘩の風景だったが、そこに映し出された一人の少女を見て、阿蘇と柏の表情が変わった。


「へぇ~周佐ちゃんって今を時めく麗のメンバーだったのか……


「……アイツには恨みがあるからな……あの時の屈辱は一日たりとも忘れた事はねーぜ」


 阿蘇と柏の険しい表情を見て、メールの件名で「ファントム」と書かれていた少年は意地悪く二人に訊ねた。


「お前らが中防の時、東京から逃げてきたきっかけが周佐だったよな?」


「ああっ。そうだよ。ワリィかよ。伊吹」


 気分が悪そうに阿蘇は地面に唾を吐いた。


「そうだね……僕達は地元の不良や高校生としうえにまで目をつけられていたのに女の子にやられたからね。あの後、怪我は治っても地元に居られなくなったんだ」


 柏の表情も膳夫を脅していた時の様な作り笑いは無くなっていた。


「俺もコイツの事はずっと会ってみたいと思っていたが、想像以上の化け物だな」


 伊吹と呼ばれた少年は二人と違い、勝子の闘いを面白そうに見ていた。


「で、リーダーっぽい金髪女もお前らの関係者か?」


「そうだよ。以前は周佐ちゃんのボディーガードというか王子様みたいな感じだったけれどね。今は周佐ちゃんが親衛隊長ポジションなのかな?」


「この女は雑魚だ。この程度の奴、俺なら30秒でヤレる」


 阿蘇は麗衣とキックボクシングの使い手である武諸木多君たけもろきおおみのタイマンを見て嘲笑った。


「そうだねー。昔は。でも、動画を観た限りではそこそこ強くなった感じはするけど、まだまだ僕らの敵じゃないかな?」


「そうだな、俺は周佐と、織戸橘環デカイおんな以外は特に強そうとは思わなかったな」


 柏と阿蘇の意見を聞き、伊吹は鼻で笑った。


「お前らの目は節穴か? このチビ、面白いと思わねぇか?」


 伊吹はスマホに映った武と麻剥三あさはぎみたりのタイマンを見せた。


「そうかな? 相手の空手使いは多分中防の時の僕ぐらいのレベルじゃないか? そんなのに苦戦しているんじゃそこまで強くないと思うよ?」


「俺もそう思うぜ。さっき観た美夜受の方がまだ強い」


 柏と阿蘇は二人とも武を軽く見ていたが、伊吹は不意に笑い出した。


「ハハハハッ! 馬鹿だなぁ……そんなんだからお前等二人とも周佐に不覚を取ったんだぜ!」


 伊吹の一言で二人は拳を震わせたが反論はしなかった。


 いや、反論出来なかったというのが正しい。


「コイツは強い。取石鹿文とろしかやが言っている格闘技歴2ヶ月って言うのが本当ならモノホンの天才だぜ」


 伊吹は舌なめずりをして動画を眺めていた。


「で、……何でこの動画を俺達にまで見せるんですか?」


 膳夫が恐る恐る伊吹に聞いた。


「お前等オッサン達がコイツ等に負けたって本当か?」


 伊吹は舌を出しながら横から覗き込むようにして膳夫を見ていた。


「はっ……ハイ。本当です」


「ハハハハッ! それで解散したくなったって訳かよ! 良いぜ! 恥ずかしいもんなぁ~許可してやるよ! 足抜けの金も免除してやる」


「あっ……ありがとうございます!」


 膳夫の表情はぱっと明るくなったが、伊吹の発した次の言葉でその表情はすぐに困惑の表情に変わった。


「でもよぉ……今までオッサン達が払うべき守料みかじめが足りてねーんだ」


「え? 毎月全額払っているはずですが……」


「俺が嘘を吐いているっていうのか? なぁ、柏、阿蘇。オッサン達の守料みかじめ足りてたか?」


「いやぁ、全然足りないね」


 柏はまたわざとらしく首を振った。


「膳夫のオッサン。払った証拠でもあるんか?」


 阿蘇は膳夫の襟首を掴んで凄んで見せた。


 守料みかじめは毎月現金で伊吹達に直接渡されていた為、証拠と言うべきものが残されていないのだ。

 毎月守料が払われている事を知りながら阿蘇は膳夫を脅したのだ。


「そ……それで幾らぐらい払えば良いんでしょうか?」


 涙目の膳夫は伊吹に訊ねた。

 伊吹は指を三本立てながら質問に答えた。


「三千万」


「なっ! じょ……冗談でしょ?」


「嘘じゃねーぜ。不払い分の利子合わせるとこれでも負けている方だぜ? それを柏は穏便に足抜け代の一千万で済ませてやろうって言うのに――」


「ふざけるな!」


 年下にここまで舐められて流石に怒り出したのか?


 叛逆之守護者ガーディアン・オブ・ザ・リベリオンの連中は全員立ち上がると、三人の少年を囲んだ。


「確かにお前等には借りがある……だが、もう我慢ならねぇ! たった三人で俺ら三十人を相手にするか!」


 膳夫は数の優位で気を大きくしていたのか?


 更に挑発するように言った。


「お前らがこういう話をする事は予測していたからなぁ、今日は最初からお前らクソガキどもをリンチする事は決めていたんだよ! それなのにたったの三人で来やがった間抜けが! お前等馬鹿すぎだぜ!」


 膳夫の勝ち誇っていたが、伊吹は額に手を当てて膳夫の声がかき消されるぐらい大きな声で笑い出した。


「ヒャハハハッ! オッサン達哀れに成る位滑稽だなぁ……テメーラの考えている事なんか直ぐに見抜いていたぜ」


「何だと!」


 膳夫が伊吹に殴りかかろうとすると、高い銃声が鳴り響き、膳夫以外の全ての者が動きを止めた。


「ぎゃああああああっ!」


 太腿を撃ち抜かれた膳夫が血を吹き出しながら地面に転がりまわった。


 涙き叫ぶ膳夫を冷然と見下ろしながら伊吹は事も無げに言った。


「コイツはヤー公と揉める前にポリ公から一寸ばかり拝借した銃だぜ」


 伊吹が手にしているのはM360J SAKURAという警察が所持する5連発の回転式拳銃リボルバーだった。


「確かに30対3じゃあ、流石の俺達も分が悪い。でもよぉ……コイツにはあと4発弾が込められているぜ」


「ひいっ!」


 銃を突き付けられた当摩は悲鳴を上げた。


「どーすっか? あと4発撃てるから、俺達がやられちまう前に後4人確実にぶち殺せるぜ? それでも喧嘩してーんならかかって来いよ?」


「わっ……分かった! 三千万なんとか準備しよう! だからソイツをしまってくれ!」


 すっかり恐れおののいてしまった当摩は自尊心をかなぐり捨て、伊吹に屈服した。


「ああ。テメーラ貧乏人でも金を集められるように期限は一ケ月やるよ。柏、阿蘇。オッサンどもから金受け取ったらゴールデンウィークのお楽しみは麗狩りに決めたぜ」


 伊吹の提案で柏と阿蘇は冷酷な笑みを浮かべた。


「大・賛・成♪ ついに周佐ちゃんにリベンジ出来るんだね♪」


「アイツは俺の獲物だ。テメーが手ぇ出すんじゃねーぞ」


 柏と阿蘇はそれぞれ暗い復讐心に燃えていたが、伊吹は一人違う事を考えていた。


「まぁ、後は今となっちゃ如何でも良いけど、俺が中古にしちまったアイツまでまさか麗に入っていたとはな……本当に面白そうな玩具見つけてくれたぜ? 取石鹿文とろしかや……いや、川上」


 動画を直視している伊吹は乱戦となった喧嘩の様子の中、戦っている香織の姿を確認して口元を釣り上げた。


(2年生編に続きます)


◇◇


 柏、阿蘇は『魔王の鉄槌~オーバーハンドライト 最強女子ボクサー・周佐勝子の軌跡』に登場していますので宜しければご覧ください。


 長い話となりましたが、『ヤンキー女子高生といじめられっ子の俺が心中。そして生まれ変わる?』は一旦完結致します。


 ここまでご覧頂きありがとうございました!


 続きをご覧になりたい方は評価して下さると次作への励みとなります。


 悪ガキどもの活躍はタイトルを改めて2年生編として投稿予定なので暫くお待ちください!


◇追記

 4月5日より本編の続編を掲載開始しました。↓


『イリュージョンライト~伝説覚醒~ヤンキー女子高生の下僕は〇〇になりました』

https://kakuyomu.jp/works/16816452219169549510


 宜しければこちらもご覧ください!

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ヤンキー女子高生といじめられっ子の俺が心中。そして生まれ変わる? 麗玲 @uruha_rei

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