最強のアンドロイドが女神の勘違いで猫耳メイドに転生したら~アスタリア大陸記1~

テツみン

プロローグ

プロローグ(前) 人類は滅亡しました。


 二二三八年三月


 もし人類が生存し続けていたら、こんな西暦になっていたことだろう――


 人類が滅亡してから、既に百五十年近い年月が過ぎようとしていた。

 荒野となってしまった地球上では、今でも二体のアンドロイドが戦闘を続けている。二体が最初に接触してから、八一二〇三時間と三十二分が経過したところだ。


 小国の内戦にS国とF国という大国が介入し、AI技術を駆使した戦闘用アンドロイドが投入されたのは西暦二〇六八年のことである。


 当初はS国が支援する政府軍が優勢だった――が、F国が衛星軌道上にあるスーパーコンピュータと直接通信可能な新型のアンドロイドを反政府軍に投入すると、形勢が一気に逆転する。それが、衛星軌道に兵器を投入しないという条約に反すると訴えるS国と、情報伝達のみで兵器に値しないと主張するF国で真っ向から対立した。

 交渉は決裂。

 S国も同じシステムを衛星軌道上に投入。他の国の内戦や、紛争に介入すると、F国もその敵対勢力に戦闘用アンドロイドを投入した。


 しだいに戦局は両大国の本国や同盟国にも飛び火し、核施設を含む軍事施設の破壊にアンドロイド兵器が暗躍する。そして、S国で要人が暗殺されると、急速に事態は悪化していった。


 アンドロイドによる殺人許可をS国が発令、すぐにF国も追従したのだ。


 例え相手国がアンドロイド兵器を送り込んでも国民を守れると自負していたのだろう……しかし、AIはその一歩先を読む。膨大なデータから相手国の防衛ラインをくぐり抜ける手段を見付け出し、殺戮を繰り返した。


 そして、一年も経たずに人類は地球上から滅亡する。


 当時、宇宙にも千人規模の人類が活動していたが、まだ自立できるまでに至っておらず、地球からの供給が止まると、五年ほどで餓死した。


 その時点で稼働していたアンドロイドは両国合わせて一万機ほど。それからは、アンドロイド同士の争いが百年以上続いた。


 時には一体ずつ、時には数百体がまとめて破壊される。そんな不毛な戦いののち、ついに両国各一体のアンドロイドが残った――




 F国側で残ったアンドロイドは、個体IDをLP八七〇三七〇という。F国の戦闘用アンドロイドとしては後期型になり、二本の腕に重粒子ビーム銃を一本ずつ装備した奇襲型となっている。


 二足歩行タイプだが時速二百キロメートルに一秒で到達可能で、垂直ジャンプ力は最高三十メートルに達する。

 奇襲型のため軽装甲だが、それでも超々々ジュラルミンとダイヤモンドファイバー複合素材にタングステン表面加工されたボディは、六十口径の弾丸が当たっても貫通しない。F国側の泣き所であった肩部の関節も後期型で改良され、十キロ級爆弾で吹っ飛ばされても耐えられる。

 頭頂部には、獣類の耳を思わせる大きな二つの突起があり、そこには、衛星軌道上のコンピューターとの送受信はもちろん、長波から超短波まで全ての波長に対応した高性能アンテナを装備。他にも一キロ先の音まで聞き分ける超指向性のステレオマイクや、百キロ先の物体まで感知可能な対空レーダーを内蔵している。

 そのエンジンとなる超小型核融合炉は設計上、三百年燃料供給無しで連続稼働が可能とされた。

 そして、人工知能は本体に搭載された十六コアCPUとペタバイトクラスのメモリ。それだけでなく、衛星軌道上のスーパーコンピューター「ハーミット」と高速通信することで、あらゆる情報を瞬時に利用可能だ。


 散っていった仲間が残した億を超える戦闘データと、ディープラーニングの高階層化よって、「ハーミット」はS国製戦闘用アンドロイドの行動パターンを小数点以下に十個の九が付く精度で予測できている。ただし、それはS国側も同じだろう。このため、両個体とも自機の安全を最優先とした戦闘パターンとなり、決定機を作れないまま現在に至っている。


 個体ID、LP八七〇三七〇は倒壊したビルに隠れていた。

 「隠れる」という表現は正しくないかもしれない。

 間違いなく相手にこの位置は見通されている。この場所に居るのは障害物を挟むことで相手との実質的距離を取るためだ。どちらもビーム銃を有しているため、両機体の間に障害物がなければ双方とも無条件に打ち合いとなる。しかし、障害物があってもビームの反射や屈折を利用して攻撃してくるので、実はあまり関係ないのだ。

 ただし、重粒子ビームは大気の不純物等により、百メートルほどの距離でも減衰率が五十パーセント程になる。反射や屈折では尚更だ。反射が増えれば相手を貫通する威力が無くなる。

 そのために障害物を利用するのだ。


 LP八七〇三七〇が現在の敵と接触してから八一二〇三時間と三十五分。状況は動く。


S国のアンドロイドが移動を開始した。相手側のスーパーコンピューターが効果的な解を導き出したのだろう。

 前の戦闘から三百四十八時間二十二分経過後のことだ。

 それまでに双方のスーパーコンピューターがシミュレーションした回数は百桁を余裕で超えている。そこまで計算して、相手にダメージを与えられる確率は小数点以下ほどのパーセントだろう。それでも、アンドロイド同士の一騎討ちとしては高い確率なのだ。


 接近するのかと思えば、S国のアンドロイドは敵から遠ざかるように移動する。F国のスーパーコンピューター「ハーミット」は、これを陽動か罠の何れかと判断した。そのために十分な距離を取り、相手の動きを見定める。

 約五キロほど移動し、ビル群の廃墟に辿り着く。その一画に入り込むと、S国のアンドロイドがビルの影に隠れる。

 もちろん、その動きは衛星軌道上から確認されている。これにどのような意図があるのかを探るべく、LP八七〇三七〇はS国のアンドロイドからは死角となる廃墟ビルに進入する。


 しかし、この廃墟ビルこそがS国のスーパーコンピューターが導き出した罠だった。


 今から十二分前。S国のコンピューターは衛星軌道上から、この地域に微妙な画像の揺れを観測した。それは偶然観測されたものだったが、それを解析し、廃墟ビルの一つが十三分から十五分後に倒壊すると導き出したのだ。


 そして、その廃墟ビルにLP八七〇三七〇が進入してしまう。

 S国のコンピューターは、倒壊するビルへ敵が進入するよう、緻密な計算により誘導し、そして見事に成功した。


 後は倒壊を待つだけ。倒壊に巻き込まれてしまえばそれで良し。倒壊から逃れようと、ビルから出て来たところを狙い打つ。そういう算段だった。


 そして予測された十三分を経過した時。


 ここでF国のアンドロイドが思いも寄らない行動を取るのをS国のコンピューターは確認する。

 周囲を警戒していたLP八七〇三七〇は全速力でビルを飛び出したのだ。そして、あるフィギュアの前で敬礼する。


 F国の軍事用AI開発が始まった二〇一九年の頃。開発者が私物として持っていた幼女なのに軍服姿のフィギュア。開発者はそれである実験を行っていた。他の評価中や休憩中でも、そのフィギュアを目撃したら急ぎ敬礼する。敬礼しないとペナルティを与えるというちょっとしたラーニング評価だった。

 本来なら、その評価の後、フィギュアに関するデータは消去するところだが、開発者は消去し忘れた――いわばバグである。


 LP八七〇三七〇は、廃墟ビルに進入後の周囲視覚確認でたまたまそのフィギュアを見付け、昔のラーニングデータから、全速力でフィギュアに向かったのである。


 そのタイミングでビルの崩壊が始まった。

 S国のアンドロイドはビル崩壊に合わせて、F国のアンドロイドが飛び出すであろうエリアを射程に入れるため移動を開始したところだった。


 計算が狂ったのはS国のスーパーコンピューターである。F国のアンドロイドが崩壊するビルから出で来る無防備のタイミングを狙う筈が、崩壊前に回避して、しかもデータにない動作を行っている。

 待ち受ける筈が、逆に後手に回った。S国のコンピューターは作戦の中止をアンドロイドに指示するが間に合わない。S国のアンドロイドはその身を相手にさらけ出してしまったのだ。


 S国のコンピューターは急ぎF国側の狙いを再計算する。〇・三秒後にはそれがバグだと導き出せたのだが、それは相手が重粒子ビームを射出するのに十分な時間だった。

 S国のアンドロイドは装甲の薄い首関節部に重粒子ビームを受け、センサーと通信機が使用不能になる。LP八七〇三七〇はその後も数発のビームを打ち込む。


 そして、S国のアンドロイドは沈黙した――

 

(敵アンドロイドに致命的損傷を確認。電子機器の停止を確認)

 敵破壊をハーミットに報告すると、戦闘モードから警戒モードへ移行するよう指令が届く。

(警戒モード移行指令を受領)


 八一二〇三時間と四十七分五十二秒間続いた最後の戦闘はこれにて終了した。


(光学撮影による敵影の確認……敵影なし。音波による索敵……敵と思われる機械音は確認されず。電磁波による索敵……電子機器の電磁波は確認されず。「ハーミット」からの敵情報ダウンロード……周囲二万キロメートルに敵情報なし……これより、警戒レベルを一段階下げ、哨戒モードに移行。次の指示があるまで維持……)


 その時――

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