第3章ー1

      七瀬 光①


 七瀬光ななせひかりはその日、スマホ開いて小さく嘆いた。

「何故、何の連絡もないの」

 夏休みが明けて学校が始まり、早三週間経とうとしているが未だに何も進展も連絡もないままだった。 

 あの夏の日に出会った男の子は何故もう一度会いに来てくれないのか。

 私のことなんて、もう忘れてしまったのかもしれない。

 一体どうしたら?そうだ!昔のご学友に助けを求めましょう。


      叶 真澄①


 夏休みの間に起きたアレコレが終わり、季節は秋になろうかというところ俺の日常は平穏を極めていた。

 夏休みの間に四六時中連絡を取っていた(機械的に返信していただけだが)、一条も佐光も夏休みを空けてからパッタリと連絡をとらなくなっていた。

 元々自発的に何かをするタイプではないので、あちらに用がなければ連絡が途絶えるのは当然のことだった。

 このまま何もなく、平穏な日々を過ごせればいいと考えながら帰路を歩いていると着信音が聞こえてきた。

「はぁ」

着信画面に出てきた名前を見て、思わずため息が出る、一条とは別の厄介者からの電話だった。

 できることなら見なかったことにして電話を切りたいが、ここで切れば電話の主は自宅まで押しかけかねない。とにかく些細な用事であれと祈りながら応答する。

「お久しぶり、真澄君」

あいもかわらず、高貴で美しい声だ。

「久しぶり、七瀬」

七瀬光。彼女も放課後恋愛倶楽部のメンバーの一人。

 一年ほど連絡もなく、音沙汰もなかった彼女が何の因果で今更連絡してくるのか。

どうでもいいが、倶楽部は俺と佐光と七瀬の三人がメンバーで全員となる。サポート役はいたがメインのメンバーは三人のみ。

 倶楽部での七瀬は主に雑用全般を引き受けていて、俺や佐光のサポートをしていた。

 依頼人への聞き取りから、得た情報の整理に次の計画の段取り等、その献身的なサポートに俺達も非常に助けられたのを思い出す。

「私の運命の殿方が会いに来てくれないんです。どうしてだと思います?」

とはいえこの調子である。時折見せる天然な一面で大変困らせられたことも思い出してげんなりする。

 詳細を聞くまでもなく面倒くさい。

「七瀬、俺より佐光の方が殿方の気持ちは分かると思う。佐光に相談してみな」

夏に依頼を持ってきたのは佐光。ならば秋に依頼を送り付けても文句はないだろう。

「私もそう思って佐光君に連絡したら、『今、忙しい』と門前払いでした!だから真澄君しかいないんです」

佐光へのカウンターは決まらず、七瀬からもいらぬ一撃を貰った。信頼度は佐光>叶の図式が頭に浮かんで悲しくなる。

「でも七瀬、俺なんかに頼らなくても学校の友達がいるだろ?普段仲良くしてる友達に相談してみたらどうだ?」

「叶君、とぼけても無駄です。私の学校が男女交際禁止なのはご存じでしょう?そんなこと相談できるわけないじゃないですか」

知らんがな。

 七瀬がお嬢様学校に進学したことは知っているが校則までは知らない。さてどうしたものか。

「叶君、私は佐光君に魔法の言葉を教えてもらいました」

「魔法の言葉?」

歌でしか聞いたことないぞ、その単語。

「就葉ちゃんって言えば、協力してくれると聞きました。そういえば就葉ちゃん元気ですか?」

「分かった七瀬、協力するからその話は終わりだ」

就葉とは成沢の名前。佐光には一生これで揺すられる気がしてきた。

「ありがとうございます!叶君はやっぱり頼りになります!」

七瀬はこちらの憂鬱とは裏腹に無邪気に喜んでいる。

 

 さて一体どんな厄介事が舞い込んでくるのだろうか。



      叶 真澄②


 土曜の休日というのに空は朝から雨模様で、しとしとじめじめとあまりいい気分にはなれなかった。

 気分がのらないのも、そもそも七瀬からの謎のSOSが原因でもあるのだが、当の本人は優雅に紅茶をすすっていた。

 昨日連絡を受けてから翌日には、早速七瀬行きつけのお店に呼び出しがあった。

何も考えず七瀬呼ばれるまま店に入ったが、メニューを見て椅子から転げ落ちそうになった。飲み物のメニューが四桁に届きそうな値段で、アルバイトもしていない高校生には厳しい値段だった。

 七瀬には悪いが、店を変えてもらおうとしたが「もちろん私がご馳走します」とにこやかに言われた。

 依頼がある手前、素直にありがとうとは言い難いが、依頼料の一部と言われてしまえば一口飲めば、もう戻れない。小さな反抗心で注文した、目の前にある良い香りのする紅茶は、七瀬から話を聞き終わるまで手を付けないことにした。

 注文した品がくるまでの間は、昔の話や近況を簡単に話していた。しかし、注文したものが来ても、中々本題に入らないので自ら聞いてみた。

「それで、七瀬。殿方の話を聞かせてくれる?」

七瀬は飲んでいた紅茶を置いてこちらをまっすぐに見る。前から思っていたが一つ一つの所作がとても綺麗だ。

「そうでした。その話をするために叶君を呼んだのでしたね」

そう言って七瀬は少し笑って改めて話を始める。

「殿方のお名前は北条清隆ほうじょうきよたか君、私立不知火しらぬい高校の生徒だそうです」

不知火高校と言えば、偏差値が高くかつ各種のスポーツでも実績を残しているような名門校だ。

 学力が良いのかスポーツができるのか、それとも両方なのか。いずれにしろ七瀬に見劣りするような相手ではなさそうだ。

 七瀬もせいアネモネ女学院じょがくいんという有名なお嬢様学校に通っている。

 小等部からあるような学校だが、高校に入るまでは普通の学校に行きたいという、七瀬の希望で中学までは近所の学校に通っていたという。

 そうでなければ、俺達と出会うことなんて本来ないような人だ。

「北条さんとは私がお友達と街でショッピングをしている時に、声をかけてきてくれて知り合いました。俗に言うナンパというものらしいというのは友人に教えてもらいました」

個人的にナンパに良いイメージはないが、俺の感想は二の次なので黙って続きを聞く。

「その時に私のことが大変タイプで、是非とも連絡先を教えて欲しいとお願いされました。私も悩みましたが、北条さんはハンサムでしたし、彼の印象は良かったので連絡先を交換したのです」

七瀬は懐かしい思い出を大切に引き出すように話す。

「それから?」

「それから音沙汰はありません。連絡先を交換した時にちょっとメッセージのやりとりをしてから、何のお誘いもないのです。叶君、こういうのは大体男性から言うものではありません?」

「俺はナンパしたことないからわからないけど、確かに男の方から連絡してくるのが自然だと思うよ。そもそもあっちからナンパしてきたんだし」

「そうですよね。それなのに何故なんの連絡も頂けないでしょう?」

七瀬に問われて考えるが正直ナンパをする男の気持ちはわからない。

 ただ、考えられるのは忘れているか他に彼女ができたのか、なんにせよ七瀬に連絡しないことはそれほど不自然ではない。

「ナンパなんてそんなものじゃないの?色んな女の子に声をかけて手ごたえある子と遊んで、その内付き合ったりとかして、いずれ次に行く」

「それはありえません」

七瀬は自信満々に言う、何か確信があるようだ。

「何でそう思うの?」

「彼は私が人生で初めて自分から声を掛けた女性と言っていましたから」

思わず目を瞑る。七瀬はいい意味でも悪い意味でも純粋だ、ただ純粋すぎる面がある。

 人は嘘をつくし自分の理の為に他人をだます人間もいるということをあまり理解していない、ように見える。倶楽部の活動でそういう人間を、何人か見てきたはずだが、自分のこととなると鈍いようだ。

 さて、七瀬にそのナンパ野郎は嘘を言っているとも納得しないだろう。

 確かに嘘だと言い切るのは早計ではあり、連絡をしてこないのは単純にその暇がないからとも考えられるので結論を出すのは難しい。

「七瀬はその人と付き合いたいの?」

「そうですね、彼と仲良くなって好意をもてばお付き合いしたいです。ただ彼のことを何も知りません、でも容姿はタイプでした」

七瀬のお眼鏡にかなう人間がいることに少し驚いた。そもそも今まで七瀬から容姿のタイプなど聞いたことがこなかった。

「七瀬がそこまで言うなら相当いい人なんだろう。それでこれからどうするの?」

七瀬が俺を呼び出したということは何か協力して欲しいことがあるんだろう。

「その相談に叶君にきてもらったんです。私は今まで男性と交際した経験がありませんので、これからどうしたらいいのかよくわからないんです」

七瀬は困ったように笑う。俺は再び考え込む。

 ナンパが好きではないという私情を除けば、七瀬に協力する理由は十分にあった。

倶楽部の時にはあらゆる手厚いフォローで助けてもらっていたいからだ。

 今まで恋愛に縁のなかった、七瀬自身が恋するような相手が見つかったのなら、今度は俺が七瀬を助ける番ではないかと思う。

 他にも悩む理由としてはその男がろくでもない男である可能性も十分に考えれる。七瀬が今回のことがきっかけで男性不信につながるようなことは避けたい。

 それを踏まえて俺は心を決めた。

「分かった。七瀬、俺が協力するからその殿方のについて一緒に考えよう」

七瀬はぱっと笑顔になる。

「叶君、ありがとうございます。やっぱり叶君に相談して良かった。これからよろしくお願いします」

丁寧に頭を下げる七瀬に、でも先に声を掛けたのは佐光では?とは言えなかった。

「それで殿方についてなんだけど」

「あ、叶君」

呼ばれて七瀬を見ると、彼女が笑っている。

「何?」

「殿方は冗談です。普通に呼んでいいですよ」

お嬢様ジョークは大変分かりづらい。


      七瀬 光②


 叶に相談したその日の夜、彼のアドバイスに従い北条へメッセージを送ってみた。

あっちからこないのなら、仕方がない。こちらからでもまず行動を起こすことが大事らしい。

『【七瀬と申します】

北条君。お久しぶりです、私のことを覚えていますでしょうか?夏休みにショッピングモール内のカフェで隣に座っていたものです。あの時、連絡先を交換しましたが中々連絡を頂けなかったので私の方から連絡してみました。その後お元気にしてますでしょうか?私は秋になり読書が楽しい時期だなと感じております。北条君はどんな秋になりそうですか?あなたのことを知りたいです』

叶にどんなメッセージを送ればいいのかと相談したが、自分の言葉で好きなことを送ればいいと言われたので思うがままに書いてみた。

 今まで好意を持っている異性に対してメッセージを送ったことはないので、これが良い文章なのかわからない。

 叶に添削をお願いしようかと考えたが、どんな言葉でも思い切って送ってみて相手のことを知るのが大事ではないかと思った。

 それからまた、少し考えてから思い切ってそのまま送信ボタンを押してみた。送信した瞬間、なんとも言えない気恥ずかしさと嬉しさが入り混じって座っていたベッドに横たわって枕に顔をうずめた。

 ふかふかの枕に癒されながら、叶のことを考えた。

 久しぶりに出会った彼は少し背が伸びていたけど、昔に比べて元気がなくなったように思える。

 放課後恋愛倶楽部で活動している時はもっとハッキリと自分の意見を言っていたし、何より自分の考えに自信があった。叶を信じれば間違いはないという、根拠もなく信じられるような力が彼の言葉にはあった。

 高校生になって何が変わったのだろう、思い当たることは一つだけあるがそれなのだろうか。

 枕もとの携帯電話から着信音が鳴り響いて、驚き慌てて着信音を止める。メッセージが届いたようだった。

『【覚えてるよ】

七瀬さん、久しぶり北条です。連絡くれてありがとう、それに連絡できなくてごめん。夏の間は部活が忙しくて中々時間が取れなかったんだ。でもずっと七瀬さんのことは覚えてた。本当は夏の間に少しでも時間が作れたらって思ったんだけど、タイミングを逃してしまっていたんだ。だから連絡貰えて凄く嬉しかった。ちなみに俺はスポーツの秋と食欲の秋になりそう。もしよければ時間作って会えないかな?おススメの店があるから一緒に行って、七瀬さんのことも教えてよ』

メッセージを読んでいた私は凄く情けない顔をしていたと思う。

 そして私は確信する、これは恋なのだと。


 メッセージを交換し始めてから数日間、北条とは毎日数回程度だが連絡を取り合っていた。

 連絡を取り合ってわかったことは、北条は前に聞いた通り、不知火高校の二年生であること、ハンドボール部であること、部活は週に五回で水曜日と日曜日にお休みがあること、成績が良く学内五十番以内にいること、それに彼女はいないとのことだった。

 彼女の有無は気になっていたので、最初に思いきって聞いたのは正解だった。どうやら中学生の時はいたが、卒業と同時に別れてしまい、それ以来フリーだと言う。

 それを聞いて安心したが、同時にあれだけ外見に優れている人がフリーなのも意外に思った。

 気になったので疑問を直接ぶつけたところ、『七瀬さんも可愛いのにフリーじゃないか』と返信がきて照れてしまい、それ以上は聞いていない。

 疑問に思ったことは何でも聞ける性格で良かったと思う、おかげで何の懸念もなく彼と会うことができる。

 ついに今日は北条と食事に行く予定を立てた。

 叶にそのことを伝えると良かったねと、頑張れとも言ってくれた。

 叶に背中を押してもらって良かった、この調子なら今後は叶に相談することも無さそうだと思った。


      叶 真澄③


 七瀬から相談を聞いてから数日が経ち、次にきた連絡は北条と会うという。

 正直、展開が早すぎて不安な気持ちはあるが、七瀬が嬉しそうなので余計な口出しをするのもはばかれた。

 北条の人間性が分からない以上、俺がアレコレと言うのもおかしいし、そもそも北条が善人で性格も容姿も優れた人である可能性は十分にありえるのだ。

 なので俺は七瀬が何か言ってこない限りは静観することを決めた。


 さて何事もなければいいのだが。


      ?? ?①


 彼は私を一番だって言ってくれてた。

 私はそれを信じて、彼のことが本当に好きになった。

 これ以上ない大好きな人。

 だからアレを見た時には本当に驚いたの。


      七瀬 光③


 北条と食事に言った日から二日が経った。相変わらず北条とは取り留めのないようなメッセージのやりとりを続けていた。

 彼と実際に会って分かったことは、想像していたよりも彼は恰好よく、自分の好みだったことだ。夏のあの一度きりの出会いだったので、想像が現実を凌駕しているのではないかと、不安な気持ちはあったがそんなものは杞憂だった。

 食事の日は彼と改めて簡単な自己紹介をして、何故自分に声を掛けたのかを聞いたり、連絡をくれなかった事は悲しかったと伝えた。

 素直に悲しいと伝えるのは少し躊躇われたが、言っておかなければまた彼から連絡が途絶えてしまうのではないか、という不安から自分の気持ちをはっきりと伝えたのだった。

 北条は少し申し訳なさそうな顔をした後に、嬉しそうな顔になって『そんなに想ってもらえてると思わなかった』と言っていた。何だか急に恥ずかしくなって北条の顔が見れず俯いていると、彼は『俺も同じくらい七瀬さんのこと考えてた』と言い恥ずかしそうにしていた。

 あの日は本当に幸せな時間だった。何度も思い返して幸せを噛みしめる、気を付けないと口角が自然と上がってしまうので表情には注意している。

 本当はあの場で、北条に交際を申し入れたがったが、まだ出会って日も浅いことと彼からその言葉を聞きたいという気持ちが勝ったので、私は何も言わずに我慢したのだった。

 それに昔よんだ純愛小説にもあったが、片想いの時間を楽しむという考え方もあるらしい。

 確かに今のもどかしい時間は、これはこれで幸せだと思う。

「光ちゃん。お昼一緒に食べない?」

物思いにふけっていると突然声がかかり、内心驚く。ふと気づけば今日の授業は半日が終わり、お昼休みになっていた。

 クラスメートは皆、各々購買に行ったり席を近づけてお弁当を広げている。

 声をかけてきたのはクラスメートの秋名佳織あきなかおりだ。彼女とは二年になって同じクラスになり知り合ったが、近い席に座っていたことをきっかけに仲良くなった。

 ただ、普段秋名は同じ部活の子とお昼を食べているはずなので、誘われたのは珍しい。断る理由もないので一緒に食べることにする。

「うん。一緒に食べよ」

「ありがと。今日天気いいし中庭いかない?」

「いいよ、珍しいね。秋名さんがお昼誘ってくれるの」

「光ちゃんに聞きたいことがあって、中庭で話すね」

そう言って秋名は私の少し前を歩いていく一体何の話だろうか。

 聖アネモネ女学院の敷地は広く、食堂にカフェテリア、購買と食事をするだけでも複数場所がある他、中庭や団らんスペース等にテーブル・イスが置いてあり、休憩中にここで談笑する生徒も少なくない。

 これだけ色々スペースが設けられているのは、他クラスや他学年との交流がより積極的に行えるようにして生徒たちの輪を広げていこうというコンセプトらしい。

 中庭のテーブルについて、秋名と私はお弁当を広げて何気なく会話を始める。

 最初は夏休みの過ごし方だったり、これからのテストのことなど他愛のない会話だった。お弁当が半分くらいになった時に秋名が周囲をふと確認してから、少し声を潜めて話始めた。

「光ちゃんこないださ、不知高の北条君と会ってなかった?」

「うん。そうだけど、どうして知ってるの?」

「あの日部活休んで病院に行った帰りだったんだけど、たまたま見かけたの。それで気になって、もしかして付き合ってるの?」

秋名に見られていたことに驚いたが、どうやら話はこのことらしい。

「付き合ってないないよ、食事しただけ。それより秋名さんも北条君のこと知ってるんだね」

「うん、ちょっとね」

歯切れの悪い言い方なので少し気になった。

「もしかして秋名さん、北条君のこと好きだったりするの?」

すると秋名は静かに顔を振る。

「違うの。好きだったのは私の友達。中学の同級生が不知高に行ってるの」

「そっか。好きだったってことはそのお友達は」

ここまで言ってこの先はどう言っても失礼になると、気づいて言葉を飲み込んだ。

「思ってる通りもう好きじゃないみたい。それでその理由が気になったの、光ちゃんに声をかけたのもそれを話しときたくて」

理由と自分の中で繰り返す。確かに彼に交際相手がいないことは気になっていた。

「どんな理由なの?」

おそるおそると言った気持ちで聞くと、秋名も話しづらそうに口を開いた。

「それが、北条君は女癖があまり良くなくていつも違う女の子を連れてるんだって。特定の恋人も作らずに、友達としてね。そうやって色んな女の子を連れている姿を友達も写真を見せてもらったみたいで、それで恋心も冷めたって」

「秋名さんの友達も別の子からその話を聞いたの?」

「うん。私の友達も北条君と連絡先を交換はしたんだけど、それを別の子が見かけて教えてくれたって」

少なからず動揺はしたが、秋名に悟られないように考えた。

「それってその噂を教えてくれた子が北条君を好きで、近づこうとする女の子をけん制したりしてるんじゃなくて?」

北条に会った時に彼はそんな不誠実な行動をとるようには見えなかった。

「友達も同じことを思って写真を見せて貰ったの。それ見たら本当なのかもって、そう思うくらい信憑性のある写真なんだと思う」

「そっか」

七瀬は生返事をしながら困惑していた。突然友人から持ち出された話、それも気になる男子についての悪い噂。

 あまりにも出来すぎているような気がする。

 そもそも北条と会ったのはおとといが初めてなのに、こんなに早く彼についての話が出てくるとは。偶然なのか、それともこの友人は私をだまそうとしているのだろうか。

「光ちゃん?大丈夫?」

不安げな顔で秋名を見たからだろうか、彼女は心配そうに私を見つめている。

彼女は本当に私を心配しているのだろうか。

「大丈夫だよ」

取り繕った笑いは自分でもわかるくらいぎこちないものだった。

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