第105話 死者からのバレンタインチョコ

 スタバで待っていたのは、僕と同じ年頃の少年。


 蒼白な顔をしているな。


 何かよほどの事があったようだ。


 僕は少年の前に進み出た。


荻原おぎわら あらたさんですね?」


 少年は僕の方に顔を向けた。


「そうですけど……」


 僕は名刺を差し出す。


「霊能者協会から派遣されたやしろ 優樹まさきです」

「え? 君が……」


 いつもの反応だな。


「言っておきますが、僕は小学生ではありません」


 高校の生徒手帳と原付の免許証を差し出す。


「それで、今回の相談したい事とは?」

「はい。実は……」

 

 荻原君は先月の十四日、クラスメートの飯島いいじま つゆさんからチョコをもらったそうだ。


 ただ、この日は日曜日だったので、彼女はバイクで彼の家まで届けにきたという。


 しかし、無理に当日に渡さなくても……


 僕の場合、バレンタイン当日にチョコをくれたのは樒 (家が近いから)ミクちゃん(式神を使って)ヒョー(やはり式神を使って)の三人。クラスメートや先輩たち、先生は翌日の十五日にくれた。


 まあ、それはいいとして、問題は飯島露さん。


 彼女は当日に渡そうとして、荻原君の家までバイクで駆けつけたらしい。


 ところが、彼の家を目前にして、事故に遭ってお亡くなりになってしまった。


 気の毒に……


 ところがこの時、事故の勢いで飛び出したチョコが偶然にも荻原君の家の前に落ちてしまった。


 事故の事を知らないまま、荻原君は玄関前に落ちていたチョコを拾ってしまう。


 その時に彼の前に飯島露さんの幽霊が現れ『付き合って下さい』と告白。


 彼女が幽霊だとは気がつかないまま、彼は承諾してしまったのだ。


 しかもその時に『三月十四日のホワイトデーの日には、あたしと一緒にいってくれるかな?』と頼まれて承諾してしまう。


 この時、彼はそれをデートの誘いだと思っていた。


 ところが……


「これが、毎日届くメールです」


 荻原君はスマホを差し出した。


 その画面には……


『荻原新君。愛しています。三月十四日には迎えに行くから、私と一緒に逝きましょうね』


 ……と。


「このメールが毎日届くのですか?」


 荻原君は、無言で頷く。


 日本語ってややこしいね。

 

 ただ『いこう』と言われたら、普通は『行』の字を思い浮かべるだろう。

 

 だからデートの誘いだと思っても仕方ないが、彼女のメールには『逝』の字が使われていた。


「あの……このメールの意味って」

「荻原さん。これは一緒に霊界に逝くという意味です」

「やっぱり」


 しかし、普通の幽霊にこんな事ができるのだろうか?


 もちろん、悪霊化してたたりをなす幽霊は確かにいる。


 しかし、これは祟りとはちょっと違うような気が……


 そもそも、飯島さんは荻原君をうらんでいたのではなく愛していたはず。


 愛する人を祟るだろうか?

 

 愛するからこそ、現在生きている人を霊界に連れて行きたいとしても、そもそも、こんな事を死神しにがみが許すのだろうか?


「とにかく、これだけでは分かりません。現地にいきましょう」


 とは言うものの、もし飯島露さんの霊が悪霊化していたら僕だけでは対処できないな。


 樒にも来てもらおう。

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