第102話 呪殺師ヒョー7

 私は先に部室を出て駐車場に向かった。


 神森樒は、優樹キュンの代わりに、霊子ちゃんの憑代を引き受ける事になったので、それが済んでから私の車をバイクで先導してくれる事になっている。


 スマホの呼び出し音が鳴ったのは、駐車場に入った時の事。


 相手は国税局のエージェント。


『今、電話して大丈夫かしら?』


 聞こえてきたのは女の声。今朝、権堂屋敷に入って来た女だな。


「少しの間なら、大丈夫だ」

『そうですか。では手短に済ませます。先ほど、今回の報酬をあなたの口座に振り込みました。ただし、かなり減額してあります』

「なぜだ?」

『違約金が、発生したのですよ』

「違約金? 何か問題があったのか?」

『無かったと、思っているのですか?』


 はて? なんかあったかな?


『今回の件、霊能者協会の上層部とは、協力の見返りとして助成金を増やすという事で話が付いていました』

「なら、問題はないだろう」

『協会側は『霊能者には、危害を加えてはならない』という条件を出していた事は、覚えていますね?』

「もちろん覚えているが、怪我はさせていないだろう?」

『未成年の霊能者に、キスを強要しましたね?』

「え? いや、あれは……危害になるのか?」

『なります。立派なセクハラです。むしろ、なぜあれが危害にならないと思ったのですか?』

「いや……男の子なら、むしろ気持ちいい思いができて、よかったと思うのではないかと……」

『なんですか? それは! OLにセクハラをやった上司の言い訳と、同じではないですか』

 

 う! 言われてみれば……


 実際あの時、優樹キュンは涙を流していた。


 エアガンを捨てられたせいだと言っていたが……やはり、嫌がられていたのだろうか?


『まあ、相手が高校生ぐらいなら、その言い訳も通用しますが』

 

 そうだろう。優樹キュンは高校生だから大丈夫だな。


『先ほど、私も現場で被害者の男の子を見かけましたが、あれは完全にアウトです』


 え?


『小学生の男の子に、手を出すなんて』

「いや待て! 彼は一見小学生に見えるが、本当は高校生なんだ」

『はあ? あれが高校生?』

「本当だ! 信じてくれ」

『まあ、あなたはそんな下手な嘘をつくような人ではないし、事実なのでしょう』

「事実だ」

『しかし、キスだけならまだしも、ワイシャツにキスマークを残しましたね』

「いや、それは私では……」

『男の子は、学校で女性教師にそれを見られたショックで、泣いて家に帰ったそうです。母親はワイシャツを見て、激怒しているそうですよ。あなたを捕まえて、強制修行場に送れと息巻いています』


 それはマズイ……


『今回は慰謝料を払うという事で、母親には怒りを収めてもらう事になりました。その慰謝料は、あなたの報酬から引いた違約金でまかないますが、納得していただけますか?』

「納得した」

『そうですか。それにしても、キスマークさえ残さなければ、ここまで大事にならなかったのですけどね』


 そうか。キスマークがなければ……


 という事は……


 闇子ぉぉぉ! おまえのせいだ!


 絶対呪う!


(「呪殺師は可愛い男の子が好き」終了)



 その後、闇子は原因不明の高熱により、一週間生死の境を彷徨さまようことに……

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