第78話 一時休戦

 壁から出てきた猿式神に向かって、樒が九字を切った。


 猿式神はたちまち消滅し、その後に憑代よりしろがヒラリと舞い落ちる。


 鳳凰ほうおうのような姿の鳥式神に、僕はエアガンを撃ち込む。


 ほとんどのBB弾は外れるが、連射していくうちに数発が命中。


 羽や胴体にボコボコと穴が開いたが、まだ飛び続けている。


 どうやら、式神は飛行するのに羽は必要ないみたいだ。 


「クワワワ!」


 鳥式神が僕に向かって来た。


 連射!


 式神の顔が消滅する。


 だが、その勢いは止まらない。


 だめだ! ぶつかる!


りんびょうとうしゃかいちんれつざいぜん」 


 ぶつかる寸前で、樒の九字が鳥式神を消滅させた。


「優樹。貸しね」


 高くつきそうだな。


 それはともかく、ヒョーの式神が十二支にちなんでいるのなら、まだヘビとネズミとウサギがいるはず。


 いや、最初に樒が姿を確認しないで倒したのが、その三体のどれかだから残りはニ体。


 ミクちゃんの方を見ると、まだ虎式神とアクロの勝負が付いていない。


 アクロは、何とか虎を押さえつけているが……


 今のところ次の式神は現れていない。


 僕はエアガンを虎に向けた。


 連射!


 虎式神の体に、小さな穴がボコボコと開くが、今までの式神ほど効果がないみたいだ。


 樒も九字を放つが、尻尾が消滅しただけ。


 この虎式神、強い。


 しかし……


 ミクちゃんは、僕たちの方を向いて微笑ほほえんだ。


「ありがとう。樒ちゃん、優樹君。すきができたわ」


 ミクちゃんはふところから、もう一枚人型の紙を取り出して床に叩きつけた。


 そういえば、ミクちゃんは三体の式神を操ると言っていたな。


 という事は、三体目を出すのか。


いでよ! 式神」


 人型の紙は、みるみるふくらんでいき竜の姿になった。


 竜の体に、ミクちゃんが飛び乗る。


「やれ! オボロ!」


 オボロというのが、この竜の名前らしいな。

 

 オボロの頭に生えている、二本の鹿のような角が輝いた。


 角と角の間から光の玉が飛び出すと、アクロに押さえつけられている虎式神のわき腹に当たる。


 そのまま光の玉は、反対側の腹から飛び出した。


 次の瞬間、虎式神は光の粒子となって消滅。


 光の玉は、開いている窓から外へ飛び出して行った。


 あの光の玉はいったい?


「ふう。疲れた」


 ミクちゃんは、そのままへたり込む。


 アクロとオボロも消滅した。


 よほど疲れたのだろう。


「ミクちゃん。今、何をやったの?」

「オボロのプラズマで、虎式神の憑代を焼いたのよ」

「そんな事ができたの? それなら最初から……」

「だってうっかり使ったら、百八十万の絨毯じゅうたんに焼け焦げができちゃうじゃない。絨毯に傷を付けないように戦うのは疲れるのよ。だから、次はお外で迎え撃とうよ」


 そんな事を気にして戦っていたのか。


 そりゃあ、疲れるはずだ。


 それを聞いていた権堂氏が、ミクちゃんに歩み寄る。


「なんじゃ、嬢ちゃん。そんな事を気にしていたのか。心配しなくても、嬢ちゃんに弁償しろ、などと言わんよ。もし、損害が出ても、損害賠償は……」


 そこで権堂氏は、部屋の隅で縛られている侵入者の男女を指さした。


「こいつらから、取り立てるから何も心配はない」

「ひい! そんな! あたしたち、この戦いとは関係ないのに」

勘弁かんべんして下さい。だんな」

「黙れ! 呪殺師なんぞの手先になった、おまえらも同罪だ」


 なんか、ちょっと可哀想な……


 それはそうと、次の式神はまだか?


 ん? ズボンのすそを何かが引っ張った。


 足下を見るとそこにいたのは、ネズミ!?


 こいつも式神か!


 エアガンをネズミに向けた。


「わあ! 待って下さい。あたしは、ただのメッセンジャーです」


 ネズミがしゃべった?


「ヒョー様からの、メッセージです」


 メッセージ?


「今夜のところは、このぐらいで勘弁してやる」


 おい……


「明朝六時に再び攻撃する。今夜は、ぐっすり眠って朝に備えろとの事です」

「眠っている間に、攻撃する気じゃないだろうな?」

「大丈夫です。ヒョー様も副業を抱えているので、今夜はもう寝なければなりません」


 副業のために早く寝なきゃならない呪殺師って……なんか、ヒョーのイメージが音を立てて崩壊していくような。


「しかし、明朝と言われても、僕たちは学生だから、朝になったら学校に行かなきゃならないし」


 一応、泊まり込みになる事も想定していたので、明日授業で使う教科書やノートをカバンに入れて持ってきたけど。


 ちなみに、うちの高校はバイク通学OKなので、僕も樒も通学の足には困らない。


 ミクちゃんは、芙蓉さんが明日の朝、車で学校へ送ることになっている。


「大丈夫です。ヒョー様も副業があるので、午前七時以降は手が出せません。なので、皆様が学校へ行った後に攻撃するなどという事はありません」


 信用して大丈夫だろうか?

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