第47話 逃がすものか!1
「いでで!」
満員電車の中で男の悲鳴が上がった。
悲鳴と同時に、さっきまで僕の尻を触っていた手が引っ込む。
ミクちゃんの式神が痴漢の手に噛みついたのだ。
同時に僕はスマホで『痴漢がかかった』と書いた一斉メールを送った。
そのすぐ後に、小山内先輩が悲鳴を上げる。
「キャー! 痴漢よ!」
事前の打ち合わせで、痴漢が出たら誰が触られていても、小山内先輩が悲鳴を上げる事にしてあったのだ。
僕は元々男だから、いくら声変わりしていなくても『キャー』という悲鳴はちょっと上げにくい。美樹本さんも、いざとなったら声を上げる自信がないのでこういう役割分担を決めていたのだ。
「誰か痴漢を捕まえて! 私を触っていた手にはカッターで切りつけたから手に怪我をしているはずよ」
そして次の駅で、手に怪我をした男が捕まった。カッターの傷にしては若干変だが、それを気にする人はあんまりいない。
「ごめんなさい! 出来心だったのです! あんまり可愛い子がいたのでつい……」
ホームの上で三十代半ばの男が涙を流し、僕たちに向かって土下座していた。
今日はこの男で四人目。ちなみに四人の内二人は僕を触り、二人は美樹本さんを触りに行って捕まった。
三人の先輩たちは触られていないのだが、なぜか六星先輩は機嫌が悪い。
今も捕まえた痴漢に向かって『なんで私の方へは来ないのよ。地獄に落とすわよ』と凄んでいる。
これまでに捕まえた三人には『警察に引き渡されたくなかったら質問に答えろ』と言って、水上先生の事件の時のアリバイを聞き出していた。
その結果、三人とも事件の日はアリバイがあったので、約束通り警察には引き渡さなかった。
ただ、代わりに引き渡した駅員の手で警察に引き渡されるかは分からないが……
え? やり方が汚い?
何をおっしゃるウサギさん。僕たちの手で警察には引き渡していないのだから嘘ではないぞ。
そもそも痴漢などやる奴が悪い。
某ラノベの女主人公も『悪人に人権はない』と言っていた事だし……
「人が減ってきましたね。痴漢はもう出て来ないんじゃないかしら?」
美樹本さんがホームを見回してそう言ったのは、五人目の痴漢を駅員に引き渡した後の事。
ちなみにこの男は僕たちでなく、女子大生に痴漢しているところを式神が見つけて、五人掛かりで取り押さえたのだ。
そしてこいつも、僕たちの探している男ではなかった。
「まだ、分かりませんわ」
スマホを見ながら華羅先輩がそう言った。
「空いている電車でも被害に遭ったという実例があります」
僕たちは上り電車で四つの駅の間を移動。そこから下り電車に乗り込み、何もなければ八名駅で解散という事に決まった。
電車の中はかなり空いていた。席もかなりあいている。
僕たち五人は、関係者と思われないように一つの車両の中でバラバラに席に着いた。
まあ、今日はこのまま何もなく解散ということになるだろうな。
と思っていたのだが……
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