#10 【オフコラボ】口下手2人で初オフってマジにゃ?【黒猫燦/世良祭】・前

 集合場所は地元の駅前になった。

 というのも祭先輩は一人暮らしの大学生でわたしは実家住みの高校生。

 その辺りは年上の余裕というやつなのか祭先輩の方から合わせてくれた。

 そういう配慮ができるのなら無許可丸投げオフコラボなんて非常識なことはするな、と声を大にして言いたい! 言えない、悲しいなぁ。


 そして集合時間30分前。

 既に口の中はカラカラになって変な冷や汗が出て手足は冷たく痺れて全身が震えていた。

 昨日はあまり寝れなかったし朝からお腹も痛いし日差しは強い。

 この世の全てがわたしの敵になった気分だ。


【Twitter】

【黒猫燦@あるてま2期生/@kuroneko_altm】

 逃げていいか?                          


【キャベツ次郎五郎/@xxxxxx】

 @kuroneko_altm

 逃げるな


【ズバババン/@xxxxxx】

 @kuroneko_altm

 オ フ コ ラ ボ 0 人


【夏波結@あるてま2期生/@natunami_yuiyui】

 @kuroneko_altm

 さっき通話で頑張るって言ってたのに…

 

【世良祭/@Sera_Matsuri】

 @kuroneko_altm

 ついた


 んぁああああ!

 逃げる暇もないじゃん!

 知らない人に話しかけられるのはビクッってなる。けど話しかけるのはそもそも無理ゲー。

 だから今日は事前に自分の服装だけ伝えておいた。


【LINE】

12:34:黒猫燦 黒のワンピース着て改札の前にいます


 こうしておけば向こうから声を掛けてもらえるという陰キャテクニックだ。

 ただし欠点は絶対に相手より早く到着しなくちゃいけないし、相手より先に服装や特徴を伝える必要がある。視聴者に教えてもらった。


「くろねこ、さん……?」

「ひゃっ」


 今すぐ逃げ出して吐きたい気持ちを堪えて待っていると声をかけられた。

 この声、配信画面で何度も聞いたことあるやつだ!

 そんな視聴者根性を抑えて地面に固定された視界を上げた。


「あ、あ、あ、その」


 綺麗な人だ。思わず目を逸らしてしまう。

 自分は美少女であると自信を持って言えるわたしから見ても、その人は下手なモデル顔負けの凄い美人さんだった。

 しゅごぃ……。


「黒猫さんじゃ、ない?」

「えっと、その、黒猫です……」

「………なるほど」


 そう言って彼女──世良祭はわたしの体の一点、主に胸をじーっと見てきた。


「あの、」

「おっきい……黒猫さんなのにおっきい。にせもの?」

「ほ、ほんもの」

「………なるほど」


 な、なんだこの空気!?

 いや前から配信を見ていたので物静かな人だとは知っていた。

 そして突飛な行動をする人だとここ1週間で嫌というほど理解させられた。

 だからって初対面でイキナリ胸をじっと見るか普通!?流石のわたしも恥ずかしいんだが!?


「黒猫さんはペッタンコなのにおっきい……。解釈違い」

「ぼ、ぼいんぼいんでスミマセン」


 か、帰りたい!

 この2人でオフコラボって土台無理な話だったのではないかと、今更ながらに思えてきた。

 せめて間にゆいままを挟まないと会話が持たない!そして足も進まない!助けてゆいままぁー!!


「あ、あの!」

「ん」


 しかしこういうときのためにマシュマロで特攻デッキを用意来てもらった!

 くらえ、祭デッキ!


「先輩は好きな祭り、ありますか?」

「?」

「わたしは断然……世良祭、ですねっ!」

「??」

「ソイヤッ」

「???」

「そ、ソイヤッ」

「????」

「わっしょい!」

「?????」


 ッぁあああああああ!!!

 なんだよ!なにが特攻『祭』デッキだよ!全然だめじゃん!!いざってとき使えないじゃん!!!

 めっちゃ微妙な空気じゃん!

 な、なにか、何か話題を変えなければ。


「え、えっと、配信まで時間あるので、どうしましょう……!」


 出来れば帰りたい。今すぐ。


「配信はなにするの?」

「あ、と。か、か、カラオケっ……とか、どうですか」


 人前で歌なんて絶対に歌いたくない。

 けど昨日夏波結に相談して最終的に決定したのはカラオケ配信だった。

 彼女曰く、せっかくのオフコラボでマシュマロ読んでハイ終わりは視聴者が納得しないらしい。

 せっかくのオフならオフらしいことをしないと勿体ないし、それなら敢えて苦手なお歌配信にして少しでも弱点のトークの負担を減らそうというわけだ。

 問題はカラオケもトークも両方口を使うから苦手、ということだが。


「一昨日カラオケは嫌いって言ってた」

「オフ会も嫌いです……」


 どっちが手痛いかという話だ。

 人と会話することか、人とカラオケすることか。

 確かに自分の歌声を他人に聴かれるのは地獄みたいなものだけど、会話に失敗するのが地獄というのは人生で痛いほど理解してきた。

 だったらわたしは一時の恥の地獄を選ぶぜ!


「じゃあカラオケ行こう」

「あ、は、はい」

「この辺りのカラオケ屋さんはどこ?」

「え、っと……」


 カラオケ屋なんてヒトカラをしたことすらないからどこにあるかなんて分からない。

 でも駅前なら雑に歩いていてもそのうち見つかるだろう。

 適当なところに入って適当に歌えば祭先輩も満足してくれるはず。


 あ、でも夏波結がお店はちゃんと運営が契約してるところに行けって言ってたっけ。

 そうじゃないとウチは企業所属だから音源の無断使用とかなんか色々面倒なことが起きて、最悪チャンネルがBANされるとか。 

 幸い、大手チェーン店なら許可無しでも配信して問題ないらしいし、スマホでお店を探しながら移動するか。


「こ、こっちみたいです」

「ん」


 噂によると元々は契約なんかしていなかったんだけど、祭先輩が自由に歌えるように運営にお願いしたところ翌日には契約が結ばれたとかなんとか。

 まああくまでも噂だし本当のことはおえらいさんにしか分からない。

 それでもわたしとしては隣で無表情なのにウキウキした気分を隠しきれていない祭先輩を見ていると、運営グッジョブと言わざるを得なかった。


 ◆


【オフコラボ】口下手2人で初オフってマジにゃ?【黒猫燦/世良祭】

 32,491 人が視聴中:黒猫 燦 チャンネル登録者数 23,529人

 #黒猫さんの時間 #ふぇすてぃばるたいむ


「はじまりはじまり」


:おっ!

:祭ちゃん!

:無事合流できたか!

:黒猫さん生きてる?


「黒猫さんは、うん」


:あっ(察し)

:惜しいやつをなくした…


「黒猫さんはトイレ」


:コラボ相手にトイレをバラされる女

:なんで帰ってくるまで待たなかったの

:黒猫ォー!早く帰ってこいぃ!!


 帰ってきたら祭先輩が配信を始めていた。

 なんで?


「ま、まつりせんぱい?」

「あ、帰ってきた」


:おかトイレ

:スッキリした?

:初オフ初手トイレスタート


「は、はぁあああああ!?!?」


 な、何してくれてんのこの先輩!?

 天然にも程がある!?

 もしかして新人潰しか!?狙ってやってるのか!?


「黒猫さんも来たことだし、配信始めようか」

「は、配信はもう始まってます、けど」

「たしかに」


:黒猫さん声遠くない?

:てかどこ?

:これは…カラオケボックス?てことは燦ちゃん端の席に座ったな

:カラオケ!?ついにお歌配信きちゃ!?

:待望の初歌が初オフ!?やるやん!!


 チャットがすごい勢いで流れていく。

 速度はいつもの倍以上だろうか、夏波結との初コラボの比じゃない。

 え、つまりこんだけの人間の前で歌うの?死じゃん。


「あ、あぅ、その、ま、まずマシュマロ、読みます」


 これもゆいままのアドバイスだった。

 歌う前にいつもの調子でマシュマロを消化すると口の動きが滑らかになる、と。

 まあ本音は少しでも歌うのを遅らせたい!

 そしていつものクソマロで心を落ち着かせたい!


【マシュマロ】

 んまつにゃ〜

 日曜に祭先輩とのコラボがあると聞いたので、 勝手ながら話題デッキを組んできました。

 1.今後やってみたいゲーム

 2.好きな女性のタイプ

 3.今履いてるパ○ツの色

 以上です。


「ま、祭先輩どうですか」

「私は皆と遊べるゲームなら何でも。ところで好きな女性のタイプ?」


 うちの視聴者は先輩に何いってんだ!?

 てか下着の色!?


「タイプはわからないけど、黒猫さんは可愛い。ちっさくておっきい」


:キマシタワー

:まつねこ

:ちっさくておっきい?


「にゃぁあああ゛あ゛あ゛あ゛今日の下着は黒の際どいやつ!!!」


:!?

:く、黒猫さん?

:際どいやつ


「通販で気の迷いから買って箪笥の奥に閉まってた勝負下着にゃ!!てか祭先輩にセクハラするな!」


 この先輩はホント何いってんだ!?

 いや常々わたしはぼいんぼいんを公言しているけど、だからってオフコラボの見た目をそのまま感想するやつがいるか!

 思わず何万って視聴者に下着のカミングアウトするはめになったじゃないか!


:祭ちゃんとのオフコラボで勝負下着を履いてくる…なるほど!

:ドスケベ雌猫じゃん…

:もう冷静な目でこの配信見れない

:※只今黒の際どい下着着用してます


「あっあっあっあっあっ、つ、次のマシュマロ」


【マシュマロ】

 お宅のライバーにコミュ症コミュ症うるさいやつがいる。

  正直結たその活動に支障でるのでとっとと引退させてくれませんか?

  いーんたい♪いーんたい♪さっさと引退♪

  凸るぞ!!♪


「あぁ〜心が落ち着く〜〜」


:引退マロで落ち着くな

:黒猫燦って始めてみたけどやべぇ…

夏波 結 ✓:なにこれ…


「つぎ、選びたい」

「あっあ、はい、どうぞ」


 ずいっと寄ってきた祭先輩が肩と肩が触れ合う距離でマシュマロを見る。

 右耳にかき上げた髪の毛がわたしに触れた。

 いい匂いがするしなんか柔らかいしドキドキする!なんだこれなんだこれ!?

 というか密室で至近距離って、これもうえっちじゃん!!!!!


「あ、これ」

「にゃ!?な、なんでしゅか」


【マシュマロ】

 あの、すいません、お願いが。

 見抜きさせてもらえないでしょうか…?


「見抜きってなに?」

「ンンンン、お歌うたいましょうか!!」


:草

:JK燦ちゃん見抜き知ってるのか

:時間停止洗脳催眠調教快楽落ち好きの黒猫さんやぞ!

:なんなら好きな先輩との初オフでドスケベ下着や!

:淫猫(いんきゃ)


「終わるぞ!?配信終わるぞ!?オフコラボ終わるけどいいのか!?」


 言ってない属性までなんか盛られてるしどういうことだ!?


:hai! すいません!

:今日は飛ばしてんねー

:これ最後まで持つ?


「ま、祭先輩はカラオケ来たことありますか」

「この前きりんときた。ポテトがおいしい」

「へ、へ〜」


:話広げて!

:話しかけただけ成長

:黒猫、立派になったな


「な、なに歌います?タンバリンなら、任せてください」


 歌えないなら備え付けの楽器を使って盛り上げる、視聴者が言っていたカラオケテクニックだ。


「黒猫さん先に歌う?」

「え、あ、っと……」


 先輩からの誘いを断るのか?

 いやしかし待て。

 そう、確か昨日ゆいままが言っていた。

 カラオケは相手に先に歌わせるより自分が先に歌うべきだと。


 もしも相手がすごくうまかったらハードルが高くなって緊張してしまう。

 けど先に歌えばたとえ下手でも歌い切ることはできるし、最悪一度歌ったという事実が出来るのでそれ以降フェードアウトしても盛り上げさえすれば許される、と。

 ならわたしが取る選択は一つ!


「う、歌います。黒猫燦、一番槍貰います、にゃ!」

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