#6 【初コラボ】黒猫さんをみんなで愛でる日【雑談】

【初コラボ】黒猫さんをみんなで愛でる日【雑談】

 9,023 人が視聴中:夏波 結 チャンネル登録者数 4,349人


:ドキドキしてきた

:何事もなく終わりますように…

:黒猫さん迷惑かけちゃだめだよ

:ゆいちゃがんばえー

:2期生コラボ第一弾期待!

:いったい何がはじまるんです?


「こんゆいー」


:こんゆいー

:コラボの時間だぁ!


「はい! 今日は告知通りコラボですよ、コラボ!」

「………」

「黒猫さーん。黒猫さん? おーい」


:おっと

:敵前逃亡きちゃ


 気持ち悪い。吐き気がする。全身からは血の気が引いている。

 わたしは通話画面を呆然と見つめながら鯉のように口をパクパクとさせていた。

 大人数の前で通話……?

 無理だろ……。


「あれれぇー? 通話は繋がってるのになぁ。マイクの調子が悪いのかな」


:放送事故?

:事故は黒猫さんとこじゃ日常なんだよなぁ

:けどマイク事故は初じゃ?


 段々とコメントは夏波結ファンのわたしを心配する声と、黒猫燦ファンの「はよ出ろ」の声で埋め尽くされていく。

 あぁ、デビューして数日だけどうちのファンは完全にわたしの扱いを心得ているようだ。

 きっと彼らの頭の中には初配信の光景が蘇っていることだろう。

 ならば、やるしかないだろう……っ。


「こ、こんばんにゃぁ……」

「黒猫さん!? 音ちっちゃいよ!?」


:ちゃうちゃう声がちっちゃいんや

:そして背がちっちゃい

:何より胸がない


 ぷっちーん。


「誰が胸なし金なしクソザコメンタルコミュ障か!?」


 言って良いことと悪いことがあると思いますが!?

 

「はい! というわけでー、今日は黒猫燦ちゃんとコラボでーす。わーぱちぱちー」

「よ、よろしくおねがいします」

「黒猫さん暗いよーもっと上げてこー」


 こ、こいつッ。

 この前自分はコミュ障とか言ってたのに、どう考えても進行慣れしてるし素人じゃない!

 絶対前世はプロだ!


「いやぁ、今回のコラボって私から声かけたんだけどね? 実は初配信見たときからコラボしたいなーってずっと思ってたんだよー」

「うぇっ!?」

「だってみんな緊張してた初配信であんなことする新人なんていないじゃん!」

「あ、あんなこと……」


 カンペ流出。15分強制終了。キャラ設定無視。ちやほやされたい。

 あれ、なんでわたしまだバーチャルユーチューバー続けてられるんだ……?


「絶対この子とコラボしたら楽しくなる、って確信してたよ!」

「あ、ありがとうございます?」


:べた褒めで草

:破裂寸前の水風船投げ合うのは楽しいからな

:↑ひどすぎワロタ

:しかし黒猫さんいつも以上に口数少ないけど大丈夫か?

:コミュ障にコラボは早すぎたんだ……


「じゃあ早速! マシュマロの方に移りましょうか!」


 そう言って夏波結は画面を切り替えた。

 事前に彼女がマシュマロの選別をしたらしいのだが、その内容はわたしには伝えられていない。

 つまりわたしは進行不明の台本なしのぶっつけ本番、夏波結主体のアドリブで対人戦を乗り切れというあまりにも高難易度なミッションを課されているわけだ。

 人生2周目だからって縛りプレイが過ぎるのではないだろうか。


「はい! まず1通目! 『黒猫さん結ちゃんおはこんにちばんわー。コラボ用の質問ということでズバリ相手の第一印象を本音でお願いします!』だって。私はさっき言った通り楽しそうで可愛い子だなーって思ったよ。黒猫さんはどう?」

「あー、えっと。第一印象。第一印象……」


 全体通話の時はわたしは端の方でひっそりと息を潜めていたので誰が何を言っていたかすらロクに覚えちゃいない。

 そしてデビューの時はマネージャーさんにお説教を受けていたのでちょうど彼女の配信は見逃している。

 つまり絡みは完全にこの前の通話が初めてということになる。

 だったら……


「茶髪乳デカ陽キャ……」

「は?」


:アカン

:コラボで思ったことすぐ口に出すのやめえ!

:頭にスポンジ詰まってんのか


 夏波結は茶髪をサイドポニーに纏めたJKである。

 わたしと違って制服を今時に着崩して谷間を強調したそれはもうエロエロな見た目のウェイウェイ系だ。

 この見た目こそ、わたしが夏波結を相手にイマイチ踏み込めない原因の一つと言っても過言ではないだろう。

 きっと夏頃になったら日焼けして横ピースした新イラストが運営から供給されることだろう。


「え、えっと。じゃあ次の質問いこっか」


:すげぇ、一言で結たその勢いが落ちたぞ

:本人何も考えてないけどな

:コラボなのになんで戦ってるんですかねぇ

:陽キャvs陰キャvsダークライ


「『JKのおふたりに質問です!ぶっちゃけ好みの男性のタイプを教えて下さい!』今回これ系の質問多かったねぇ〜。やっぱり花のJK2人組だから恋バナとか気になっちゃうかな!?」


:気になるー

:俺だったらどうしよう

:↑ドンマイ

:まだ何も言ってないだろぉう!?


「私はやっぱり頼りになる男子が好きかなー。困ってたらすぐに助けてくれるような人! それでいて見返りを求めないなら尚良!」


:最後シビア〜

:なんかリアル

:俺では?


「黒猫さんは?」

「えっと、男の人好きじゃないし……」


:ファ!?

:キマシタワー?

:衝撃の告白


 たまに忘れそうになるけどわたしは元男である。

 女として生を受けて十数年経つから男としての意識は殆どなく、女であることに違和感を覚えなくなって久しい。

 それでも長年の染み付いた感覚というものは簡単に消えるものではなく、やはり所々に男であった名残が存在する。

 男を恋愛対象として見れないのはそういった名残の1つだ。

とはいえ、じゃあ女を恋愛対象として見るのかというとこれもまた怪しい話で……。


「えーっと。うーん。どーしよう」


:めっちゃ悩んでる

:コラボ相手間違えちゃったね…

:軽く事故ってね?

:今更気づいたか


 いくら最近ポンコツと連呼されるわたしでも分かる。

 この放送の微妙な空気は完全にわたしが引き起こしたものである。

 人と会話することに精神を擦り減らすからって、いくら何でも会話を相手主体にし過ぎた。

 これはみんなが楽しみにしていた配信なんだから、もっとトークを引き伸ばして広げて盛り上げてなくちゃだめだ。


「あ、あの! 今日はいい天気でしたね!」

「え、あ、うん。そうだね」


会話終了。


:天気デッキは使うなってあれほど!

:話しかけようという成長は感じられた

:これは人類にとっては小さな一歩だが、黒猫燦にとっては大きな飛躍である

:アームストロング氏もよう見とる


「はい! じゃあ次行こう次。『初マシュマロ失礼します。2期生のおふたりは尊敬する1期生の先輩はいますか?』先輩方絡みの質問も多かったねぇ〜。てか尊敬する先輩言っちゃうと名前上がらなかった先輩は尊敬してないのか! なんて言われちゃわない? 大丈夫?」


:大丈夫やで

:気にしないほうがいいよ


「んー、取り敢えず尊敬って言うとあれだから憧れてる先輩は来宮きりん先輩だね。元気で真面目な優等生! 癖の強い1期生の中でも埋もれずに皆をまとめるしっかり者! 憧れるよね〜」


 来宮きりん。

 ある意味わたしがこの世界に足を踏み入れるキッカケとなった先輩だ。

 1期生の中心人物で彼女は告知やイベントに起用されることが多いのだが、実はリーダーではないという損なポジションにいる。

 そういえば、どことなく夏波結はきりん先輩に似ているような気がする。


「私は…祭先輩が気になる、かな」

「祭先輩も格好良いよねー。なんていうかクールでモテる女!って感じ」


:そういえば祭ちゃん、黒猫さんのこと気になるって言ってたよ

:あーさっきの放送


「んに!?さっきの放送緊張してて見れてないのに。そんな恐れ多い、にゃ」


:声デレデレやないかぁ!

:語尾で媚び売るな

:まつねこてぇてぇ?

世良 祭:じー

:祭ちゃん!?

:おるやんけ!


「あわわわ祭先輩がご降臨された!?」

「あ、スパナ忘れてたから付けますね」


世良 祭 ✓:黒猫さん今度コラボしよ


「ゔぇええ!?」

「先輩!?私は!?ここ私の放送なんですけど!?」


世良 祭 ✓:きりんとすればいいと思う 

:(もしかして)すねてる

:かわいいかよ


 そして祭先輩は言いたいことだけ言って去っていった。

 放送で見ていて知っていたけど、とことんマイペースな人だ。

 というかコラボの件、本当だろうか。

 あまりにも急展開すぎてリップサービスってやつを疑ってしまうのだが。


「と、とりあえず気を取り直して次! 時間的にもそろそろ次ラストっぽい。えー『あるてまっ!(挨拶)いつも放送楽しく見ています。特に一昨日の唯ちゃんの1位を取るまで配信が、山も落ちもなく40分で普通に終了したのは逆に面白かったです。さて、華々しくデビューを飾った2期生の皆さんですけど、おふたりは次にコラボするなら誰としたいですか? これからも応援しているので頑張ってください』っと。山も落ちもない配信でごめんなさい! 次は連続で1位とかにするからね!」


:その先は地獄だぞ

:あれはあっさり終わって笑った

:耐久のつもりがただの視聴者参加型レースだったからな


「はい! それで次のコラボについてだよね。って言っても2期生って7人だからねー。あと残ってるのはリース=エル=リスリットさんと終理 永歌さん、十六夜 桜花さんに戸羽 乙葉さんと我王 神太刀さん。わーみんなクセ強いね」

「我王神太刀って名前すご……」


:もしかしてこの2人ってマトモな方?

:黒猫さんがマトモ?

:少なくとも結ちゃんはマトモだろぅ!?

:結たそは常識枠


「あ、あははありがとう。そうだね、私は常識人」


 乾いた笑い声だ。


「次コラボするならそうだね~、リースさん辺りが無難もとい楽しそうかな」


:マインスイーパーみたい

:シッ


「私は別にコラボは……」

「ん??」

「あぅ。戸羽乙葉さんで」


 戸羽さんはこの中では一番おとなしい人だ。

 気が合うかはともかく、あまり気を使わなくて良さそうってのが理由。


 そうこうするうちに放送開始から一時間が経とうとしていた。

 もうそろそろ終了しても誰も文句を言わない頃だろう。


「はい! じゃあキリもいいしそろそろお開きにしよっか」

「いえーい」

「あと1時間延長する?」

「ゴメンナサイ」


 夏波結はやれやれ、と言いながら告知を何点か言ってこっちへ話を振ってきた。

 いや、告知なんてないんだけど……。


「あー、はい。じゃあそういうわけで終わりたいと思います。チャンネル登録、通知、高評価、ツイッターのフォローよろしくおねがいします! 黒猫さんのチャンネルは概要欄にあるからそっちもよろしくねー。じゃあバイバーイ」

「ばいにゃー」


【この放送は終了しました】

【初コラボ】黒猫さんをみんなで愛でる日【雑談】

 15,829 人が視聴中:夏波 結 チャンネル登録者数 7,434人


「まだ、足りない…」

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