46話 ひとつ(洞窟の)屋根の下
全ての肉を『制土』で作った陶製フックで小屋の中に吊るし、『送風』で風を送り続けること数時間。
肉の表面が完全に乾いたことを確認したチロは、ゴルジやヒナが枯れ枝を砕いて作ってくれた木屑を小屋の地面に敷き詰めると、火を入れた。
あとは扉を締め、待つだけだ。
「チロの兄貴。結構な煙が出てやすが、小屋が燃えたりしやせんか?」
「…………床に木は張ってないから岩肌のままだし、木屑は壁から離したから大丈夫…………なはず、です」
「なら、いいんですがね……」
自信なさげに答えるチロに、ゴルジが心配そうに呟いた。
ゴルジが心配しているのは、小屋が燃えて中の肉がダメになることではない。
小屋そのものを心配しているのだ。
それもそのはず、この燻製小屋は、実はゴルジが建てたものだった。
ゴルジはゴブリンの集落で、その腕っ節の強さと忠誠心の高さからゴーダの右腕として働いているのだが、だがその他にも大工の棟梁みたいなことを兼任しているのだ。
力が強くて手先が器用。
それがゴルジというゴブリンなのである。
ゴルジ本人も「たぶん、近い先祖に人間とドワーフがいたんでやしょう」と、自らの頑強さと器用さを認めているくらいだ。
燻製小屋の目的を理解してはいるゴルジだが、建てたばかりの小屋からモクモクと煙が出ているのを見ると、さすがに心配せずにはいられないのだろう。
「だいじょぶ、ゴルジ。チロを信じて」
「お嬢……へい、もちろん、チロの兄貴のことは信じておりやす。なんたって、お嬢の惚れたお方ですからね」
「えへへ」
なおも心配そうに小屋を見続けるゴルジを、ヒナが慰めた。
それに対し、ゴルジが口の端に笑みを浮かべながら言葉を返すと、ヒナもまたゴルジの言葉に照れたような笑みを浮かべる。
このひと月で、ヒナとゴルジの関係もかなり改善されていた。
ヒナの護衛という重責が下りた為、ゴルジが以前よりも肩の力を抜いて話せるようになったからだろう。
(仲良きことは、美しきかな……)
まだ互いに少しだけ遠慮のある二人を『まるで両親が再婚したばかりの義兄妹みたいだな』と微笑ましい気持ちで見守りながら、チロは腕を組み、うんうんと無言で頷くのだった。
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