第35話 緑色の893
「さ、お嬢。帰りますぜ」
数匹のうち、他の者よりも一回り大きいゴブリンが前に出て、近寄りながら声をかけてきた。
「…………(ふるふる)」
それに対し、ヒナは無言で首を振りながら、チロに体を寄せる。
柔らかいものが腕に押し当てられ、緊迫した状況にも関わらず、チロは少し喜んだ。
「なんでぇ、お前は」
そこでようやく気づいたかのように、ゴブリンがチロに視線を合わせてきた。
実際、ヒナが寄り添うまで、一見して貧弱そうなチロなど眼中になかったのだろう。
「俺は、チロって言います。この洞窟に住んでる者です」
「そうかい。どきな、
聞かれたので自己紹介をしたが、返ってきたのはあからさまな言い間違いと恫喝だった。
「だ、だけど、ヒナも嫌がってますし、無理やりに連れてくってのは……」
「あぁっ!? てめぇ、なにお嬢のこと呼び捨てにしてやがるっ!」
「っすぞコラァ!」
「バラされてぇのか!?」
なんとか話し合いに持ち込もうとしたが、ヒナの名前を口にしただけで、後ろに控えていたゴブリン達から怒声があがった。
言い回しといい、沸点の低さといい、まるでVシネマに出てくるヤ○ザである。
緑色で全裸のヤ○ザだ。
「お前ら、そこまでにしとけ」
怒鳴り続けるゴブリン達を止めたのは、チロのことをチビと呼んだゴブリンだった。
もしかしたら、
「なぁ、チビさんよ。見ての通り、俺の部下はあんまり気が長くない。素直にそこをどいてくれねぇかな。お嬢の前で、血は流したくねぇんだ」
若頭は静かな声で、しかし明確な脅しを口にした。
本気であることは、睨みつけてくるその目を見れば疑いようもない。
すぐに実行しないのは、チロのすぐ横にヒナがいるから、という理由だけだろう。
「……ゴルジ、チロにひどいことしたら、許さないから」
一触即発の空気が流れる中、それを破ったのはヒナの声だった。
若頭────ゴルジと呼ばれたゴブリンが、驚いたような顔でヒナを見る。
そして、何かを言いかけた口をグッとつぐむと、チロに視線を戻し、これまでにないほどの強さで睨みつけてきた。
「てめぇ……お嬢を
ゴルジが、牙を剥き出しにして叫んだ。
それに呼応するように、手下のゴブリン達も牙を剥き、チロを威嚇し始める。
どうやら、戦いは避けられそうにないようだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます