99日目

「このような結果になって我々もとても残念です。

 ご遺体は、特別な袋に包み指定の火葬場に送られる事になります。

 本当はご家族の面会は1名と国から指示されていますが……

 是非、ご家族皆さんで彼を見送ってあげて下さい。それが彼にとっても望んでいる事でしょう」


 丁度、あの日と同じ様に夜明け直ぐにその電話は鳴った。


 おとうさんは起きれなかったようで、アタシが受話器をとった。


 ――初めて、あんなおかあさんの声を聴いた。


 いっつもアタシと弟の前では弱音を見せなかったおかあさん。


 正直、その言葉を聴いても。


 宇宙服みたいな防護服越しに


 すっかり痩せて別人みたいに白くなった肌の弟を見ても。


 これはまだ見ている夢の中の事なんだと思った。

 でも

 この数日間にどこかで「予感」していた現実が


 足元からじわじわと昇ってくる。


 ――ああ。


 ようやっとわかった。


 今まで15年間。

 ずっと同じ場所に居た。


 だけど、これからは。


 アタシには弟が居なくなってしまうのだと。


 気付いた時。

 涙よりも先に嗚咽が漏れた。


 漫画の事も

 映画の事も

 小説の事も。


 もうどれだけ話したくても

 弟と話す事が出来ないのだ。


 なんて、辛いのだろう。

 なんて、寂しい事だろう。


 だけど、もうどれ程願ったとて。


 それは叶わない事だから。


「ありがとう」


 続く言葉は胸に留めておくから。


 いつか、直接


 あんたに伝えれる時まで。


――異世界転生まで

  あと数時間――

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