82日目

 種類は解んないけど、小鳥のさえずりでその日アタシは目覚めた。


 6月も後半を過ぎた今は多分初夏と言って差し支えない。短針がまだ5の位置にいるのに、窓を開けると朝がもう今日を既に迎えている。


 そんな清々しさを感じる様な事だけど。

 胸の中で嫌に何かが揺れている。


 希望に満ちた今日がはっきりと教えてくれるのは

 不確かな明日と

 確かな昨日だけだ。



 家の電話が鳴った。

 こんな時間に。

 携帯ではなく。

 家の電話に。


 すぐにその音は止む。

 両親の部屋に子機が置いてあるから、きっとどちらかがとったのだろう。


 アタシはいつもなら二度寝をするその時間なのに。

 部屋を出て恐る恐る両親の部屋に向かった。


 と、同時におとうさんがドアを開けるものだから、身体がビンと伸びる。


「起きてたかい。丁度良かった。お姉ちゃん。

 服を着替えて。

 病院へ行くよ」


 おとうさんの声は、いつも通りの優しい声。

 ドアの前に立っているのは。


 多分、おかあさんの様子をアタシに見せない為だ。


 車に乗って。

 病院へ向かうまでの間。


 アタシはただひたすらに小説の話を考えていた。


 弟が入院している病院へ着いても。


 慌てる様に足早なおかあさんとおとうさんについて行っている時も。




 病室は変わらず入室出来ない。

 大きな窓越しに会う弟。


 その瞬間おかあさんが両手で口を押えて、膝を付いた。

 弟の周囲には、沢山の機械が囲うように置かれていて。それが、なんなのかはアタシには全く分からなくて。



「息子さんは今朝明け方に、重大な呼吸困難状態になりまして。

 入院時にアナムネでお聞きしていた人工呼吸器を付けさせて頂きました。

 非常に危険な状態でしたので処置を優先致しました、事後に連絡となってしまい、申し訳ありません」


 お医者さんの言葉は


 いつまでも、アタシの周りを漂っていた。


――異世界転生まで

  あと18日――

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