68日目

「ええ。ええ。陰性? よかった。

 いつ帰れるの? あと1週間? うん。大丈夫。2人とも元気よ。あれはただの風邪だったみたい」


 その後も、しばらく電話で言葉を交わしお母さんはようやっと受話器を置いた。


「……お父さん、まだ帰れないって? 」

 アタシが尋ねると「うん」と言ってお母さんは微笑む。


「仕方ないわ。昨年のウイルスと一緒だったら、潜伏期間が長くて症状も出ない事があるから。さ、ご飯にしましょ。お姉ちゃん手伝って」


 お母さんは、無理をしてる。

 こないだのアタシと弟の風邪騒動の時からあまり休んでいないのだ。


 早く、お父さんに戻ってきてほしいけどそれも出来ない。


 だから、せめてアタシ達がしっかりして少しでも負担を減らしてあげないといけない。

 でも――どうしたらいいのか分からない。


 ごめんね、お母さん。こんな娘で。


「ううん、そんな事無いよ」


「え? 」

 お母さんはいつの間にかアタシの髪の毛を撫でていた。


「貴方達が、元気でいてくれるのがお母さんは一番嬉しいのよ。元気がでるわ」


 言葉で交わしてないのに。


 お母さんの娘で本当に良かったよ?


 だから、もう泣かないでね。


 アタシも弟も。


 一生懸命気をつけて生きるから。

 お父さんよりも

 お母さんよりも。


 絶対長生きするから。


――異世界転生まで

  あと32日――

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