52日目

「ただいま」

 俺の言葉に、母親はリビングのソファから返事した。

「あ、おかえり~

 今年もやっぱりまた新しいウイルスが出始めてるみたいよ~」

 どうやら、テレビのニュースを観ていたらしい。


 母が心配そうにその情報を調べているのには二つ大きな理由がある。


「お父さん、大丈夫かしら」

 一つ目がこれだ。

 去年の正月くらいに世界中で大流行したウイルス。

 俺の父親の仕事は会社の輸出業を担っていて、去年の今頃は家に帰れない状態が続き、母親も気が気でなかったと思う。

 今年に入り、ようやく海外輸出や出張が再開したばかりというのにこのニュースはまた母の心配と不安の胤となる事だろう。


「大丈夫かしら」

「んー、解らんけど薬も色々出たし、父さん今、欧州? まあ、流行り出したら流石に今年はすぐに帰国させんかねぇ? 」

 男として、はっきりと勇気づける方が良かったかな、と後になって思った。


 さて、母親がここまでこのウイルスに危機感を抱いている二つ目の理由が――。


「かーさん、ただいまぁ! はら、へったぁ! なんかなぁい? 」

 大きな足音を鳴らして、慌ただしく乙女? が帰宅した。


「もー、お姉ちゃんたら、プリンが冷蔵庫にあるから、ご飯までもたせて。その前に感染症予防の手洗いうがいよ」


 姉は「はーい」といい返事をして洗面所に向かった。


 ……何の話だったっけ?


――異世界転生まで

  あと48日――

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