31日目
「おっは」
一時限目終了時に、待ち望んでいたかの様に彼女は顔を近づけて会話を周囲に聞かれないように囁く。
「どだった? 」
言う彼女は声と一緒に吐息まで感じるくらいの距離で、俺は思わず呼吸を止めた。
「え? あ?? 」
思わず、瞳が逃げようとするけど、脳内が彼女の表情を視界に納めよと指令を出すから必然俺の眸はいそいそと動き回る。
「作品、放課後に図書室で返してね? その時――書評聞かせて」
ニコッと笑うと、そそくさと彼女は離れていった。
――書評……。
「……え~~?? お前、いつからそんな手が早くなったん? え? マジ?
え? なんで? 俺にカノジョいないのに? 」
それと同時に、猿殺がネチネチとめんどくさく話しかけてきたので「トイレ」とだけ言って、席を立つ事にした。
そして、あっという間に放課後。
俺は、図書室に向かうと窓際の席に向かう。図書室は生徒もまばらで静かだ。
「おや? 今日は自習かい? 感心感心」
席に着くと、丁度横の本棚の所に居たレーコ先生が隣に座って話し掛けてきた。
「いえ、ちょっと人を待ってて」
それを聞くと、レーコ先生は優しく微笑み
「お姉さんか? 」
と尋ねる。
「えっと……」違うんだけど、否定して情報を詳細に伝えるのも何か変だな。と思うと口が上手く動かない。
「ふふ、野暮な事を訊くものじゃないな……元気そうでよかった。身体を大事にするんだぞ」
そう言うと、レーコ先生は立ち上がると顎を動かす。その先にはポカンと口を開けた彼女が立っていた。そのまま、彼女とすれ違う様にレーコ先生は奥の受付の方へ去っていった。
「……君って、レーコ先生と親しいんだね? ちょっと意外」
真直ぐな瞳で、彼女はそう尋ねてきた。
「親しいって言うか……1年の時、レーコ先生が担任だったから。それで」
俺の返事を訊くと、彼女は「ふぅん」とだけ言って近づく。
「そんな事は置いといて‼ 感想聞かせてもらおうじゃないか‼ 」
と、勢いよく机に手を付けて俺の方へ顔を近づける。
「う、うん」近くで見ると宝石のように瞳が光っていた。
そして、間もなく――俺の書評で、その双眸が湖の如く潤まってしまうのだった。
――異世界転生まで
あと69日――
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