第63話 ほう、これがダンジョンですな。

 今日から早速王宮のダンジョンに挑戦することになった。小説などでは定番のイベントだが、ここではどうなるのやら。期待半分不安半分というのが正直なところだけど、私にはマーブルも居ればジェミニもライムもいる。仮に最悪の結果が待ち受けていようともこの猫達と一緒に過ごす日々はとても楽しかったので悔いはない。そんなことを考えながらアンジェリカさん達を待つ。



 結構時間がかかるかと思っていたが、そんなことはなく思ったほど待つことなく戦姫の3人がやってきた。



「アイスさん、お待たせしましたわ。では、早速行くとしましょう。」



「いえ、丁度覚悟を決めていたところでしたので、思った以上に早かったですよ。先程も申し上げたとおりこちらの準備はできております。」



「じゃあ、アイスさん達、私に着いてきてね。あ、このメンバーだから隊長と言った方がよかったかな?」



「ははっ、今は戦闘準備ではないので、その呼び方は無しで。というより、あれはノリみたいなものですからね。私は隊長だと思ったことないですし。まあ、それはそうと、案内よろしくお願いします。」



 セイラさんを先頭に戦姫、私達の順で進んでいく。はい、道順さっぱりわかりません。わかっているのは、とにかく階段を降りている、ということだけです、はい。今でこそ、基本移動は徒歩なので、それに慣れているから大丈夫だが、前世の体力の状態でこんな場所を移動したら、途中で動けなくなるか、動けたとしても次の日は行動不能になること請け合いだ。



 移動中、マーブルとジェミニが話し込んでいた。会話の内容はわからない。聞こえてくるのは、「ミャア」とか「キュウ」とかそういった感じのもので、耳的には非常に至福の時でもあった。マーブル達は話ながら方向を指し示したり頷いたりしていたので、どうやら今お世話になっている部屋からダンジョンまでの道順を確認しているようだ。ホントありがとうね。道順さっぱりわからないからとても助かるよ。



 しばらく進んでいると、ようやく頑丈そうな扉にたどり着いた。どうやらここが王宮ダンジョンの入り口らしい。ここを守っているっぽい衛兵が、アンジェリカさん達の姿を確認すると、声をかけてきた。



「アンジェリーナ様、国王陛下からお話は伺っております。くれぐれもお気を付けて。護衛の方、王女殿下をよろしくお願いします。」



 そう言うと、衛兵が扉を開けてくれた。これが入り口かな。しばらく一本道になっているようだ。入り口に入ると、衛兵が、「王宮の安全のため扉は閉めさせて頂きます。各階に魔方陣が設置されております。魔方陣に魔力を流すとここに転送されます。ご武運を。」と言って扉を閉めた。意外にも中は明るかった。



「さてと、アイスさん、わたくし達は今回、できるだけこのダンジョンの奥深くまで探索するつもりでおりますの。いつも通り戦闘指揮はお任せしますわ。」



「承知しました、と言いたいところですが、正直ダンジョンは初めてなので、お役に立てるかどうかですね。」



「そうでしたのね、でも、わたくしは大丈夫だと思いますわ。実はわたくし達もここは初めてですの。お互い初めて同士ですので、情報不足はお互い様ですわ。」



「そうでしたか、って、情報不足というのはいささかまずいのでは?」



「そうおっしゃいましても、いつも、アイスさん達はどうにかなっているではありませんの。ですから今回も大丈夫だと思いますわ。」



「確かにいつもどうにかなっていますが、その論法はかなり強引ですね。まあ、来週はともかくとして今回はしっかりと気張りますのでご安心を。」



「そのお言葉心強いですわ。もちろん、わたくし達も足を引っ張らないように頑張りますわ。」



 アンジェリカさんがそう言うと、セイラさんもルカさんも頷いた。まあ、正直この3人がいい加減にやるわけないか。では、こちらも気張るとしますかね。というわけで、何が起こるかわからないので、気配探知をかける。こういうとき、魔力を消費しないでできるスキルっていいよね。ってか魔力ないけど(泣)。



 気配探知をかけると、魔物の気配がした。とはいえ、それほど強そうな印象はない上に数も少ない。また、期間も1週間くらいしか猶予がないので、ここでのんびりする必要もないからさっさと片付けますかね。



「みなさん、この先に魔物の気配があります。それほど強くない上に数も少ないです。さっさと片付けて先に進む方がいいと思いますが、どうでしょうか?」



「そうですわね、わたくしは、できればこのダンジョンを攻略したいと思っておりますので、先を急ぎたいと思いますので、賛成いたしますわ。」



「では、魔力の温存も含めて、しばらくは私が倒していきます。」



「承知しましたわ。しばらくお願いしますわね。でも、わたくし達の訓練になるような戦闘でしたら遠慮なく仰って下さいませ。」



「どうですね、その時はお願いします。」



 話を終えて、私は先行する。先にはゴブリンが4体いたが、こちらには気付いていない。こちらもさっさと片付けたいので、バーニィを無言で起動しバンカーショットを放っていく。そういえば、無言で起動するのは久しぶりだな。放った氷の槍が次々にゴブリン達に刺さる。爆破するまでもなくゴブリン達は倒れた。今回は依頼ではないので、部位証明は必要ないかなと思っていると、ゴブリンの死体が消えて何か石が出てきた。これはひょっとして魔石というやつでは? というわけで、早速拾ってみる。うん、小さい。大きさ的にはBB弾くらいかな、よく見ないと見逃すやつだな、これって。困ったときの鑑定かな。鑑定も久しぶりだな。



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「ゴブリンの魔石」・・・見ての通りゴブリンの魔石じゃ。魔石は基本的にはダンジョンでしか手に入らないぞい。魔石は魔導具という道具に使うもので、強い魔物の魔石ほど大きくなるようじゃ。とはいえ小さいけどもの凄い魔力を秘めたものもあるし、またその逆もあるから一概には言い切れぬが、基本的には大きいほど多い魔力が蓄えられていると思っておれば問題ないぞい。もちろん、これはゴブリン、しかも通常のやつじゃから見た目通り魔力は少ないの。じゃが、ちりも積もれば何とやらという言葉もあるように、数集めればそれなりの魔力は得られるはずじゃ。また、この魔石は消費した魔力を補充できるからできるだけ集めておいた方がいいぞい。あ、一つ言い忘れておったが、これらの魔石は同じ種類であれば一つにまとめることができるようじゃぞ。


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 やはり小説通りの魔石だったか。なるほど、王宮で管理する理由がこれだな。とりあえずアンジェリカさん達に見せるとしますか。



「アンジェリカさん、ゴブリンを倒したら死体の代わりにこんなのが出てきました。」



「それって、魔石ですか? なるほど、このダンジョンは魔石が出てくるから王都で管理しているというわけですのね。まあ、確かに魔石は希少価値が高いので貴重な財源になりますわね。とはいえこれだけ小さいと価値があるかどうかは微妙ですわね。」



「いえ、この魔石って同じ種類であれば一つにまとめることができるそうですよ。試しにまとめてみますか?」



「ええ、興味ありますわね、早速まとめて下さいませんか?」



「わかりました、では。」



 4粒のBB弾を一つにまとまるように握りしめると、魔石はきれいに1つにまとまった。適当に握っただけなのに綺麗な丸い形になった。どうなっているんだろ、これ。まあ、深く考えてもしょうがないかな、これはそういうものだと思っておきますか。



 まとまったBB弾、いや、ゴブリンの魔石はBB弾3つくらいの大きさになった。それでも小さいけどね。



「本当に一つにまとまりましたわね。魔石は貴重ですので、小さくても集めましょうか。恐らくお父上もそれを期待されていると思いますの。」



「承知しました。では、できるだけ集めていきましょうか。とはいえ、わざわざ探し回ってまで集める必要はなさそうですが。」



「ですわね、通りがかりに出会いましたら倒して手に入れることにしましょう。」



「それがよさそうですね。」



「ところで、アイスさんはこのことをどこでお知りになりましたの?」



 しまった。戦姫にはあまり隠し事してなかったから思わず説明してしまった。とはいえ、鑑定スキル持っていること言ってないしな。しかもこのスキル、通常とは違って神様直接の説明だからなあ。よし、ここはマーブルが知っていたことにしましょうかね。とりあえずマーブルにアイコンタクトを取って合わせてもらおうかな。うん、マーブルも承知してくれたな。



「このことなんですが、実はマーブルが知っていたらしく、マーブルがジェミニを通じて私に教えてくれたんですよ。私はマーブルとは言葉の遣り取りはできませんが、ジェミニとは可能ですからね。」



「なるほど、マーブルちゃんは物知りなんですね。それで、アイスさんはジェミニちゃんと会話ができるのですか。ますます羨ましいですわね。」



「何だかんだ言って、マーブルには助けられていますからね。ジェミニがマーブルと会話ができるので、さらにいろいろ教えてもらえたりするんですよ。ライムに至っては2人と会話出来る上に、人語を話せますからね。本当に私には過ぎたる息子達ですね。」



 私がそう言うと、マーブル達は照れたような表情を出す。うん、可愛くてしょうがないな。戦姫の3人もほっこりしていた。



 ありがたいことに、この階層は1本道のため、迷うことなく進むことができている。途中でゴブリンの集団に何度か遭遇しているが、そのたびに倒してはBB弾、いや、魔石を回収してはまとめている。当初は私だけで倒していたが、魔石を集める必要性を感じた戦姫の3人が自分たちも倒すと言ってきたので、ローテーションを組んで倒すようにしていた。マーブル達は野営時の見張りを頼みたいので、今のうちに休んでもらっている。本人達は1週間程度なら休養は必要ないと言っていたが、親として甘えすぎてはいけない、ということでしばらくは戦闘に参加せず休んでもらっている。小説ではダンジョン内には安全地帯が存在するというものが多かったが、ここではわからない。まして、人の出入りを制限しているようなダンジョンでは余計にわからないので、万が一に備えてというわけだ。



 更に進んでいくと、下り階段があった。下り階段の近くに魔方陣が見つかった。なるほど、ここから扉の所に転送できるんだな。では、次に参りましょうかね。階段を降りて地下2階に来たが、構造は地下1階と変わりなかった。地下1階ではゴブリンしか出てこなかったが、ここではどうなるのやら。



 道も地下1階と同じく一本道だった。魔物だが、ゴブリンはもちろんいたが、ケイブバットというコウモリみたいな敵も出てきた。コウモリなので、物理攻撃は当たりづらい印象がある。印象があると言ったのは、こちらの攻撃に対処できるスピードではなかったからだ。仮にこちらのレベルが低い状態だったら、攻撃を当てるのも一苦労だっただろう。しかし、こちらはミノタウロスやら倒せるくらいにはレベルが上がっている。ちなみにケイブバットの魔石もやはりBB弾程度の大きさだったが、この魔物は魔石の他にも羽を落としたりしていた。鑑定結果だと、この羽は薬の材料に使われたりするそうだ。一応持っていきますかね。ちなみに、美味しくないらしい。残念。



 1階から2階に降りると、敵の種類は2種類に増えた程度だったが、大きな違いがあった。それは1階と比べると2階はかなり大きいことだ。通路は長いし、馬鹿みたいに広い部屋はあるしで大変だった。幸いにもここも分岐点がなかったのが救いかな。とはいえ、ほぼ単純作業なので地味につらい。



 この単純作業もようやく終わりが見えてきた。階段が見えたのだ。それにホッとしたのも束の間、その隣にはさっきの魔物達とは違う魔物が待ち構えていた。いわゆるボスというやつだろう。やっぱりいたのね、ボスって。この大きさはホブゴブリンかな、取り巻きにいるゴブリンの数は20くらいかな。とはいえ、ホブゴブリン+@程度では正直役不足だ。戦姫の3人が立候補してきたのでお任せすることにした。予想通り相手にならず瞬殺されたゴブリン達は魔石を残して消滅した。



 魔石を集めて一つにまとめようとしたが、ゴブリンの魔石とホブゴブリンの魔石はまとまらなかった。まあ、いいか。ちなみにホブゴブリンの魔石はBB弾、いや、ゴブリンの通常種の魔石の3つ分ほどの大きさだった。


ここまででゴブリンの魔石は握りやすい位の大きさにまでなっていた。なるほど、ちりも積もれば何とやらだ。



 とりあえず、ボスも倒して階段への道が開けたので、地下3階に降りていった。

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