第59話 ほう、迷子探索ですか。頑張りますよ。

 昨日無事謁見を終えた私達は宿でのんびり過ごしていた。昨日の件で何かに巻き込まれそうな予感がしたが、特にそういったこともなく平穏に過ぎていった。



 王都ではミノタウロスの襲撃の話と戦姫の話で持ちきりだった。わざわざメラちゃんが話しに来たくらいだからよほど反響が大きかったのだろう。もちろんミノタウロスは王都にたどり着く前に冒険者達が迎え撃って殲滅したので王都に被害はない。そしてそのミノタウロスのボスをアンジェリカさんが倒したことを冒険者ギルドが発表したので王都で大きな話題になったというわけだ。



 王都でも戦姫の名は知れ渡っており、アンジェリカさんは王位継承順位こそ低いが、人気度では圧倒的の1位となっている。無理もない、美人でスタイルもよし、性格は貴族特有の上から目線もない、ハッキリ言って控えめに言ってもチートだ。



 逆に、冒険者ギルドに厄介事を押しつけて何もしなかった王都の兵士や騎士達への評判は冒険者達への評判と反比例するように下がっていた。王都の兵士や騎士は基本貴族の子息達しかなれない、というより、騎士はともかく貴族が多すぎて職がないので剣や魔法の才能が低い者が兵士になっている。そのため兵士達は普段から威張りくさるだけで王都民に迷惑しかかけない存在と認識されていた。そんな状態の上にさらにミノタウロスの件も相まって兵士や騎士という存在、いや、貴族という存在について否定される状態になっていた。



 今日は特に予定もなかったので、王都散策の続きをすることになった。出発の準備が完了すると、マーブル達は何も言わなくとも定位置に飛び移った。左右の肩にはモフモフ、腰の辺りには柔らかい感触、これを至福と言わずして何と言おうか。



 散策といっても、最初は冒険者ギルドへと向かう。何か短期間でのクエストがあるかどうかだ。時間も早いわけではないので、冒険者もそれほどいなかった。掲示板を見ると、かなりの数が残っていた。流石は王都だ、っと思ってみていると、内容は両極端で、報酬は高めだが拘束期間が長いものと、すぐに終わりそうだけど報酬がショボい。討伐依頼についてはほとんど見かけなかった。それでも何かないかな、と思って探していると、「わたちのねこちゃんをさがしてください」というものがあった。何? 猫だと? これはやらずばなるまい、ということでこれを受けることにした。



 受注窓口へと向かい、この依頼票を受付に手渡す。ギルドカードを見せると受付嬢は驚いていたが、すぐに気を取り直し念を押した後、説明してくれた。



「えーっと、この依頼はFランクやGランクの冒険者が受けるような内容ですが、アイスさんはCランクですよね? 本当に受けるんですか?」



「ええ、この依頼を受けるつもりですが、ひょっとして受注不可ですか?」



「いえ、受けるのは問題ないのですが、報酬も銅貨1枚ですし、数日放置されている状態なので、むしろ受けて頂けるとありがたいのですが、本当によろしいのですか?」



「もちろん、かまいませんよ。しかし数日も放置されているのであれば急ぎませんと。」



「はい、では受注完了しました。依頼主はアマデウス教会の孤児院の子供です。詳細はアマデウス教会でお聞き下さい。」



「わかりました、それでは行って参ります。」



 依頼を受注して冒険者ギルドを後にする。アマデウス教会か、ある程度勝手のわかる場所だったから丁度良かったかな。早速向かうとしますか。



 アマデウス教会に到着すると、シスターが出迎えてくれた。



「アイスさん、ようこそいらっしゃいました。それで本日はどのようなご用件ですか?」



「あ、どうも、今日はですね、冒険者として、ここの孤児院の子からの依頼を受けたので伺いました。」



「あ、あの依頼を受けられたのですか? あの子達がいないいないと大騒ぎだったので、それを鎮めるために依頼を出したのですが、本当によろしいのですか? 報酬も最低額の銅貨1枚ですが。」



「もちろんです。猫探し、腕が鳴ります。」



「そ、そうですか。では、こちらにどうぞ。詳細を説明いたします。」



 シスターから詳細を聞く。特徴や大きさなどを聞いたが、正直に申します。特徴になってねぇ。いや、説明は十分すぎるほど詳しく説明してもらいましたが、まとめてみると、特にこれといったポイントがさっぱり見当が付かない。ぶっちゃけどこにでもいそうな猫であり特定が難しいタイプのやつだ。しかし、マーブル達を見てみると、任せろとばかりに理解していた。君達、違いがわかるのね。とりあえず一通り説明を受けて教会を後にする。



 教会を出てからマーブル達に聞くことにした。



「君達、あの話で迷子猫ちゃんの特徴とかわかったのかな?」



「ミャー!」



「あのシスターさん、説明が上手でしたね。もの凄くよくわかりましたです。」



「ぼくもわかったー!」



「そんなにわかりやすかった? いや、説明は上手だったししっかりと特徴を話してくれたけど、ゴメン、私にはああいうタイプは数が多すぎて特定できない。」



「わたし達に任せるです! マーブル殿も場所など特定できたと言ってますです!」



「ボク達におまかせー!!」



 そう言うと、マーブルは早速肩から降りて移動しだす。いつもの散策するペースで進み出す。ジェミニも肩から降りてマーブルの隣を歩き出す。ライムは下手すると騒ぎになるから腰袋でおとなしくしててね。



 歩くこと20分、何か訳のわからない場所に来てしまった。木々が生い茂っているところで私的には迷いの森に入ったような気分だったが、マーブル達は全く問題なく進んでいく。マーブル達が動きを止める。それに合わせて歩くのを止めて耳を澄ますと、弱々しく鳴き声が聞こえた。上の方を見ると、特徴通りの猫が震えながら鳴いているのに気付いた。定番だと木に登ったりして助けるのだが、生憎私は木登りができない。では、どうするか? もちろん見捨てるという選択肢はない。よし、猫ちゃん救出任務開始だ。



「では、これより猫ちゃん救出任務を開始します。まず、マーブル隊員はあの木に登って猫ちゃんとコンタクトを取って、落ち着かせて下さい。できますよね?」



「ミャッ!」



 問題ない、とばかりに敬礼でもって応える。



「猫ちゃんが落ち着いたところで、少し強引ですが、ジェミニ隊員、猫ちゃんを咥えて降りて下さい。少し無茶かもしれませんができますか?」



「その程度楽勝です、任せるです!」



「ライム隊員は万が一に備えてクッションとなって猫ちゃんを保護して下さい。」



「まかせてー!!」



「よし、では、作戦開始です!」



 私の号令の後、すぐにマーブルが木に登って猫とコンタクトを取る。最初はおびえていた猫も、マーブルのおかげで落ち着いているようだ。ジェミニはまだ待機している、ということはひょっとしたら作戦の全容を説明しているのかもしれない。端から見ると猫2匹が仲良く木の上でのんびりしているようにしか見えない。モフモフ好きとしては眼福以外の何物でもない。



 少ししたら、ジェミニが動き出した。あっという間に木に登りジェミニが猫とコンタクトを取っている。作戦では猫を咥えてもらう予定だったが、何と猫がジェミニの背に乗った。ジェミニ達がゆっくり降りるとマーブルが風魔法で2体を覆った。なるほど、風魔法だとビックリしてしまうと思って少々強引な策を出したが、そこまで説明済みだったのか。流石は私の猫達だ。着地地点にはライムが待ち構えていたが、どうやら必要なさそうだ。無事に猫は下に降りることができた。



「猫ちゃん、頑張ったね。偉かったよ。ご褒美にこれをあげよう。」



 恐らくお腹が空いていると思われたので、塩漬けされていない干し肉をあげた。猫は最初こそ戸惑っていたが、マーブル達が声をかけると途端に良い勢いで食べ出した。うんうん、まだまだあるから、たくさん食べてね。



 何枚か食べて満足したのだろうか、猫が食べ終わって少ししてから手を出すと、飛びついてきてくれた。おお、やはりこの世界の猫もモフモフだ。いや、マーブルも猫なんだけど、元は魔獣だから確証がなかったんだよね。迷子猫を抱きながら任務完了の号令を終えると、マーブル達は定位置に飛び乗った。手はふさがっているから顔でモフモフを堪能する。ライムはあとでおにぎりの刑にしてやるから楽しみに待っててくれ。



「あー、マーブルにジェミニや。乗っててくれるのも非常にうれしいのだけど、君達の案内がないと私は帰れないから、大通りに出るまでは案内してくれないかな。」



 マーブル達は、あっ、と思い出したように肩から降りて進み出してくれた。うん、ゴメンね、若干方向音痴だから道わからないんだよね。



 しばらく進むと見慣れた場所に到着したので、マーブル達にお礼を言うと、2人は定位置に飛び乗った。顔モフで歓迎の意をしめすと、2人とも嬉しそうだった。迷子猫はその間おとなしくしていた。無事にアマデウス教会に到着してシスターに猫を預ける。猫はシスターに飛びつくと、シスターはまんざらでもない表情で迎えていた。うんうん、よかったね、猫ちゃん。



 シスターから依頼完了のサインをもらって気分良く教会を後にして冒険者ギルドへと報告に戻った。ギルドに報告を済ませると、Bランク昇進試験の打診を受けたが断った。受付嬢は驚いていたが、あまり高ランクになってもいいことがなさそうなので保留だ。少なくとも王都では受けない予定だし。



 ギルドを後にしてホーク亭に戻ると、セイラさんが待っていた。



「あ、アイスさんお帰りなさい。」



「あ、セイラさんどうも。護衛任務なのに留守にしていて申し訳ありません。」



「ううん、問題ないよ。こっちも特に予定伝えてなかったし。」



「そう言ってくれると助かります。で、今日はどうしました?」



「あ、それなんだけど、タンバラの街に戻る予定だから、準備しておいてって話。」



「おお、そうですか。で、出発はいつになります? こちらはいつでも準備は整ってますが。」



「うん、急で申し訳ないんだけど、明日出発予定だよ。」



「また、急ですね。まあ、詳しくは伺いますまい。明日出発と言うことで了解しました。」



「ごめんね、アイスさん。そういうことなのでお願いします。」



 セイラさんは帰っていった。ふむ、明日出発か。メラちゃんに話しておかないとな。



 メラちゃんに明日王都を出発してタンバラの街に戻ることを伝えると、了承してくれた。宿代もまだ数日分残っているから、残りはタンバラの街での宿泊代としてタンバラの街に報告しておいてくれるとのことだった。



 しかし、明日出発っていきなりだな、おい。これは何かありそうな予感がする。しばらくはゆっくり出来そうもないか、ということで残りの時間はマーブル達とのんびりモフモフして過ごすことにした。うん至福。


夕食や風呂洗濯着替えなどいつもの用事を済ませて床に就いた。さて、明日以降はどうなることやら。

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