第37話 ほう、新たな出会いですか。

 テシテシ、テシテシ。今の私にはなくてはならない朝のやりとり。いつも通りの挨拶をして起きる。マーブルもジェミニも元気いっぱいだ。歳のせいとはいえ、私も頑張らなければ。顔を洗いさっぱりしたところで朝食を頂く。今日は早めの出発になる上夕食はどうなるかわからないので、夕食に間に合わないかもしれないと言ったところ、戻ってきたらいつでも出せる状態にしておくとのありがたいお言葉。それではと、お言葉に甘えておくことにした。お揃いの装備をつけて、宿を出る。一応ポーターなのでソリを忘れずに引いていく。



 ギルド前に到着すると、何組かはすでに集まっていた。その中に戦姫の3人がいたので声をかける。



「おはようございます、アンジェリカさん、セイラさん、ルカさん。今日はよろしくお願いします。」



「あら、アイスさん、ごきげんよう。マーブルちゃんもジェミニちゃんもごきげんよう。こちらこそ、よろしくですわ。」



「おっ、アイスさん達おはよう。今日は期待しているよ。」



「猫ちゃん達、おはよう。」



 3人とも違う特徴の挨拶を交わす。他のメンバーの視線が痛い。今日の隊形について話をしているのに視線の痛みが増していく。嫉妬の視線を受けながら、今日のことについてあれこれ話していると、続々と今日参加する人達が集まってきた。集合時間の少し前に全員が集まったみたいだ。アイシャさんが声をかける。



「皆さん、今日はお集まり頂き感謝いたします。これより出発となりますが、一昨日の会議で編成した3組のパーティ単位で行動しますが、途中までは同じ道中ですので、細かい内容並びに質問事項はその時にいたします。では、各組でそれぞれ集まってから南門へ向かってください。」



 各組のメンバー毎で行動するようだ。こちらは4人なので楽だ。アンジェリカさんが隊形について意見を出す。



「3組に別れる場所までは、先頭がわたくし、次にセイラ、ルカ、アイスさんの順でよろしいかしら?」



「それでかまいませんよ。流石に荷台を運んでいる人間が先頭を歩くわけにもいきませんしね。」



「ですわね。ところで、アイスさん、今日は討伐するだけですが、その荷台は必要ですの?」



「分捕る装備や貯め込んでいるお宝の回収など、荷台はいくらでも必要だと思いますよ。あと、私ポーターですからね。任務は忠実にこなしませんと。」



「言われてみれば確かにそうですわ。でも、荷台を引くのって大変ではなくって?」



「慣れもありますけど、重量軽減もありますからね、重そうに見えますが、実は重くないんですよ。たまに引っ張っているのを忘れているくらいです。」



「そうですの。大変になったらいつでもおっしゃってくださいね。休憩なり取りますので。」



「お気遣いありがとうございます。でも大丈夫ですよ。それよりも実は私は方向音痴気味なので、道案内さえしっかりしてくれれば大丈夫です。」



「わかりましたわ、そちらの方は問題なくできると思いますの。セイラ、頼みましたよ。」



 セイラさんが無言で頷く。間違いなく主従関係だな、これは。



 南門を出て、全員で出発する。途中までは全員だったが、分岐点に着くとアイシャさんが声をかける。



「これより3組に分かれて行動します。右側の道は拠点の南側に続いているのでモウキさんの指示に従ってください。正面の道は東側に続いているので、東側組は私の指示に従ってください。左の道は北側に続いています。リーダーはアイスさんですが、戦姫の方達と話し合って行動してください。」



 全員が承知すると、モウキさん達とアイシャさん達は早々に指示を出しそれぞれ進んでいった。私達は一旦待機して話し合った。



「先程も申したとおり、私は方向音痴気味なので、道中はアンジェリカさん達の指示に従いますが、魔物などの気配を探知したら報告します。そのところは柔軟に対応して欲しいのですがよろしいですか?」



「ええ、道中の移動はともかく、戦闘に関してはアイスさん達の指示に従いますわ。ところで、いきなりそういったことを伝えてくるということは、何かありそうなのですか?」



「そうですね、今のところは何もありませんが、狭い道ですしパーティメンバーであるはずのアイシャギルド長とモウキさんが別行動を取っているのが気になります。何かあると見て間違いないかと思います。」



 私の考えに戦姫の3人は頷く。まあ、あくまで個人的見解なので外れることもある、というより順調に事が進むためには外れて欲しい、って、これフラグか?



 道中を進んでいると、マーブルが「シャーッ」と威嚇の声を出した。ということは何かいるということだ。こちらも探索をかけると、周りに10人くらいの気配を感じた。マーブルとジェミニは行きたそうにしていたので、行ってもらうことにした、ただし殺さないようにとは、念押しして。あとは、事後報告といきますか。



「アンジェリカさん、早速敵さん10人ほどに囲まれていますね。マーブル達が今倒していますので、気にせず進みましょう。」



 アンジェリカさん達は驚いたが昨日のこともあってか、そのまま進むことに同意した。少ししたらマーブル達が帰ってきたので、モフモフしてねぎらう。戦姫の3人がうらやましそうにこちらを見ていたので、2人に許可をもらってモフらせてあげると、3人とも喜んでいた。



 さらに道中を進んでいくと、今度は15人くらいの集団の気配を探知した。うん、わかった。討伐側に構成員がいるな。恐らくギルド長とモウキさんもそれに気づいている。気づいているけど具体的には誰かまではわからない。あの組み分けは盗賊の入り口の規模という名目で実は、彼らが一人でもそれぞれ対応できる人数で構成されている。盗賊達と無関係だとハッキリ判明しているのがここの4人だけだ。つまり、こういうことだろう。『盗賊は私達だけで倒してもいいのだろう?』こう考えると思わずニヤリとしてしまった。



「アンジェリカさん、第2陣が来ます。今度は15人くらいですかね。今回は対人戦ですが、どうしますか? 人を殺したりするのが厳しければ私達だけで対応しますが。」



「いえ、もともと戦姫は盗賊や山賊などの犯罪者集団の殲滅を目的としておりますの。アイスさんのお気持ちはうれしいのですが、これこそわたくし達の出番ですわ。とはいえ、これは戦闘ですので、アイスさんの指揮に従いますわ。何なりと命じてくださいませ。」



「ありがとうございます。では、これより15個のゴミ掃除を行います。ゴミは前方と左右に5個ずつ綺麗に並んでおります。というわけで、アンジェリカさんとルカさんで正面のゴミを片付けてください。マーブル隊員は左側を、ジェミニ隊員は右側を。セイラさんには撃ち漏らしたゴミを掃除して欲しいと思いますが、今回は撃ち漏らしはなさそうなので、ゴミからギルド証を回収してください。私は今回はこのゴミ掃除を見守ることにします。あ、ゴミはつぶして構いませんが、恐らくそこそこいい装備を身につけていますので、装備はできるだけ傷つけないようにお願いします。」



 マーブルとジェミニが敬礼で応えると、それを見た戦姫の3人も同じように敬礼して応えた。これには笑えた。私が笑うと、戦姫の3人も笑った。よし、これで3人の緊張もほぐれたな。作戦通りいけそうだ。私はというと、ゴミが散らないように周りに氷の壁を出しておく。



 結果から言うと、かなりアッサリと片付いた。マーブルとジェミニは当然として、戦姫のアンジェリカさんとルカさんも問題なく片付けた。対人の方が強いとは思わなかった。セイラさんもどんどんギルドカードを回収していった。ギルドカードは6枚あった。おいおい、まじか。大丈夫か、この国、あるいは街?



「アイスさん、こういう感じのノリって結構わたくし好みですの。今後の戦闘指示はこういった形にしてくださらないかしら? もちろん、わたくし達にも『隊員』をつけてくださいね。アイス『隊長』。」



 アンジェリカさんはこの遣り取りを気に入ったようだ。セイラさんもルカさんも賛成している。いいのかこれで? まあ、当人達が乗り気ならそうしますけどね。って、私は隊長かい!! って、指令出してるから隊長か。まあ、いいか。



 盗賊というゴミの残骸から装備をはぎ取る。鑑定すると結構いい装備を持っているが、ハッキリ言いましょう、バッチイと。いい装備だから、アンジェリカさん達用に使ってもらうのもアリだと思ったけど、ここまでバッチイとなると、どうしようかな。とりあえずソリにしまっておく。



 更に進んでいくと、何かの気配を感じた、というか弱々しく声が聞こえる。気のせいではなく、戦姫の3人も声を確認しているが、どこから出ているのかわからない。探知範囲を絞って確定したところを確認してもわからない。でも、声は聞こえている。よく見ると、綺麗な緑色の物体があったが、声の主はどうもそれっぽい。



「た、助けて。」



 弱々しく人語で話しかけてくる。人語で話すということは、人語を理解しているということだろう。



「大丈夫? 何か必要なものはある?」



「ボ、ボクの、こ、声が、き、聞こえて、いる、の? お、お腹、が、空いた、の。」



 空腹か。では、干し肉でも大丈夫かな? とりあえず干し肉をちぎって差し出す。



「これ、食べられる?」



「あ、ありが、とう。い、いただき、ます。」



 ちぎった干し肉が吸い込まれていく感じでなくなっていった。何か面白いと思って、ちぎっては与えを繰り返していく。ある程度与えると、また声がした。



「ゴハン、ありがとー。」



「元気になったかな? それは何よりです。」



「あるじ、ボクを助けてくれたー。恩返しするー。一緒に連れて行ってー。」



「キミは魔物かな? 魔物だとしたら、何の種類かな?」



「ボクは、スライム? だったかな、たしか。」



 おお、スライムきたーーーー!! しかも結構可愛いぞ。とか、考えていたらアンジェリカさんが説明をしてくれた。



「スライムといえば、物理攻撃には強いのですが、魔法攻撃にはからっきし弱いんですの。でも、スライムの価値はその見た目の愛らしさに加え、部屋のゴミなどの掃除をしてくださる便利な存在ですのよ。貴族によってはスライムを飼っているところもありますわね。でも、これだけ綺麗な色をしているのも珍しいですし、さらには人の言葉も話せるスライムなんて見たことありませんわ。」



「ほう、そうでしたか。ところで、キミは通常のスライムではなさそうだけど、ゴミとかの掃除って得意なのかな?」



「うんっ、ボク何でも食べるよー。でも、美味しいものも食べたいな-。」



「そうか、早速だけど、これらを綺麗にできるかな?」



 そう言って、先程はぎ取ったバッチイ装備達をソリから出す。



「これらを綺麗にすればいいんだね? わかったー。」



 言うが早いか、スライム? は装備を包み込む。何かジュワッという音が聞こえたが、音が収まると装備が吐き出てきた。その装備を見ると、新品同様に綺麗になっていた。久しぶりに鑑定をかけてみる。アマさん出番です。大変長らくお待たせしました。といっても日にち的にはそんなに経ってないのだけど。



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『ベビースライム』・・・久しぶりの出演だから張り切っちゃうぞい。この子はスライムの幼生じゃな。生まれて一日程度しか経っておらん。スライムの幼生はベビースライムで一括りにされてしまうが、もちろん特別種の幼体じゃぞ。ワシも言葉をいきなりしゃべる種類は初めて見たぞい。とはいえ、この子は誰かが転生したとか、そういったものでは無さそうじゃな。滅多にない種類のスライムじゃから大事に育てるんじゃぞい。とりあえず、人のいるところではしゃべらないように念押ししておいた方がいいかもしれぬな。


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 スライムか、しかも特別種? 嬉しいやら何やら。でも、汚いものを掃除してくれるのはありがたい。もちろん大事に育てていきますよ、ってか連れて行くこと前提? まあ、いいですが。便利ですし。



 鑑定が済んだ頃には、スライムも掃除を終えていた。どれも綺麗に仕上がっていた。戦姫の3人は唖然としていた。聞くと、掃除はできるが、ここまで早く仕上がることはないそうだ。また、スライムは分裂して数を増やす性質を持っているそうで、もし分裂したら1匹是非とも欲しいと言っていた。本音はこの子が欲しいそうだが、このスライムは私に懐いているので泣く泣くあきらめると言っていた。



「あるじ、お掃除終わったよー。」



「ありがとう。ところで、キミは私達と一緒に行きたいかな?」



「うんっ。あるじと一緒に行きたい!!」



「そうか、では、一緒に行こう。」



「ありがとう、あるじー。それでね、ボクに名前を付けて欲しいんだ。」



「名前か-、うーん、どうしようかな。」



 アンジェリカさん達にも意見を求めたが、アンジェリカさん達はこのスライムの分裂体をもらったときに名付けたいから意見を出せない、と言っていた。気持ちはわかるので、泣く泣くあきらめる。仕方ない、自分で決めるか。スライムだし、緑色か、うーん、、、、、、。よし、これにするか。



「では、スライム君。キミはこれから『ライム』だ。」



「うん、これからボク、ライムというんだね。あるじ、ありがとう!!」



「うんうん、これからよろしく、ライム。」



「ミャー!!」



「キュウ!!」



「マーブルさんにジェミニさんだね? これからよろしくー!」



 マーブル達も受け入れてくれるようで何よりです。あ、定位置どうしようかな。戦闘要員ではないし、大事に育てたいからどうしようかな。しばらくは腰袋に入っていてもらうか。街に戻ったらギースさんに何かしら作ってもらおう。ライムにはしばらく腰袋に入ってもらうよう話した。もちろん後で違うところに専用の場所を用意することを含めて。ライムも承知してくれたのでしばらくは腰袋に入ってもらった。窮屈かもしれない、と思ったが、狭いところも問題ないらしくすんなり入った。



 これで新しい仲間が増えた。私達の旅もさらに楽しいものになるのだろう。これからよろしくね、ライム。そう思いながら、私達は道中を進んでいった。

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