第22話 ほう、やはり来ましたか。
ギリギリでタンバラの街に到着したが、まだホッとしているわけにはいかない。ギルドへの報告を済ませないといけない。というわけで、息をつく暇もなく冒険者ギルドに急行した。といっても全力で走ったわけではなく普通に歩いてだが。
行き先はギルドでも今回は裏口からだ。スガープラントを納品しなければならないのだが、スガープラント自体が大きく、今回は見本として見せてくれたものより2、3周り大きい。しかもそれなりの数になるためギルド内には入れられない、ということで裏口へ直行した。
裏口へ行くと、ドアは開いていたためそこから入っていくと、昨日会ったごついオッサンがいたのでとりあえず報告だ。
「おっ、昨日ウサギを卸してくれた冒険者か。今日は何だ?」
「ギルドで依頼のあったスガープラントの納品です。」
「ああ、あれか。確かにあれの納品はこっちでやらないといけないな。で、いくつだ?」
「とりあえず10ほど。」
「は? 10だと? 冗談はよしてくれ。あんなデカいものを10個持ってこれるわけがないだろう。」
「まあ、普通はそうですよねぇ。論より証拠ということで10個出しますね。」
今回はソリを引いたままこっちに来ていたので早速出してみた。
「ま、まじか。本当に10個ある、、、。しかも、いつものよりデカいぞ。」
「では、10個納品ということでお願いします。」
「お、おう、了解した。これが木札だ。これをニーナのところに持っていきな。」
「ありがとうございます。早速行ってきます。」
「おう、解体するものがあったら持って来いよ。」
「今日は特にないので、次の機会に。」
「ああ、頼むぜ、楽しみにしているからな。」
解体屋のごついオッサンがにこやかに送り出してくれた。、、、ここまで笑顔が似合わない人も珍しい。あ、あのオッサンの名前何だろう? まあ、次以降ついでに聞けばいいか。私の方も特に名前聞かれてないしねぇ。
木札を受け取った後、裏口を出てソリを置き場に置いてから今度は正面の入り口からギルド内に入る。面倒くさい部分もあるが、意外にも裏口と入り口の距離は近いので、我慢できる範囲だ。とはいえ、どうにかして欲しいのは事実だ。
クエストの窓口は混んでいたが、手続き窓口は比較的空いていたのですぐに順番が回ってきた。
「あっ、アイスさん、お疲れ様です。クエストの進捗はどうですか?」
「ニーナさんお疲れ様です。クエストは完了しましたのでその報告に来ました。」
「えっ? もうクエスト達成されたのですか?」
「はい、無事終了しましたので、これが木札です。」
「確認いたしますって、じゅ、10個ですか? しかも状態が最良で大きさも巨大?」
「おお、いい状態でしたか。ホッとしましたよ。」
「ホッとした、じゃないですよ。どうやって、あんな巨大なものを10個も持ってこれたのですかっ!!」
「え? どうって? 普通に荷台に入れて持ってきましたけど。あ、情報通り魔の大森林のあの部分にありましたよ。かなりの数ありましたので、今後は大丈夫そうですね。」
ニーナさんはなぜか言葉を失っていた。うーん、別段おかしなところはないはずなんですが。普通にソリに入れて運んだだけですし。定番の収納スキルはおろか、マジックバッグなんてものも無いし。
「と、とりあえず規定の数は納品できておりますので、指名依頼のスガープラント採集は完了と致します。ところで、常駐型クエストで達成したものってあります? ついでにこちらで受付させていただきますが。」
「ええ、ありますね。ゴブリン討伐です。左耳でよろしかったでしょうか?」
「はい、左耳で結構です。いくつ納品されますか?」
「集めたには集めたのですが、数がわからないのでとりあえず出しますね。」
ニーナさんが一瞬「え?」と言ったか言わないかのうちに用意していた袋に耳を出していく。ニーナさんの顔が引き攣ったような気がするが、恐らく気のせいでしょう。何か周りも引いているような気もしますが、こちらも気のせいでしょう。
「い、一日でこの数を討伐されたのですか?」
「スガープラントを持って帰る途中で襲ってきまして、といっても倒したのは私ではなく、うちのマーブルですが。」
「ニャッ!」
私がそう言うと、マーブルは得意げに敬礼よろしく右手を挙げる。あまりの可愛さに思わず頬ずりしてしまった。
「「「「えーーーーーーーーっ!!!!」」」」
今度はニーナさんだけでなく、周りにいる冒険者や他のギルド職員達までそんな声を出していた。信じられないかも知れないけど事実なんだよね。可愛くて強くて賢い猫、それがマーブルなのさ。親馬鹿と言われようが事実だから仕方が無い。
しばらくしてニーナさんが気を取り直す。相変わらず周りはざわざわしているが、とりあえずクエスト完了の手続きは再開できそうだ。
「し、失礼しました。では討伐の確認をしたいので、ギルドカードを出してください。」
「はい、こちらです。」
「では、確認いたします。確かにゴブリンの討伐分が加算されておりまして数は47体です。お預かりしているゴブリンの耳は42です。アイスさん、申し訳ないのですが、ギルドの規則により耳の数分の報酬しかお出しできませんがよろしいですか?」
「多分問題ないと思います。マーブルもそれでいいですか?」
「ミャー。」
「大丈夫みたいですので、それで構いません。」
「ありがとうございます。ではクエストは42体で集計いたします。それで報酬ですが、まずはスガープラントの納品ですが、3個以上の納入が必要で3個で金貨1枚ということになっておりますが、今回のスガープラントは大きい上に品質もかなり高いので、2個で金貨1枚とさせていただきますので、金貨5枚です。常駐依頼のゴブリン討伐ですが、ゴブリンですと1体につき銅貨5枚です。今回は申し訳ありませんが42体討伐ということで金貨2枚と銀貨1枚となり、合計で金貨7枚と銀貨1枚になりますが、よろしいですか?」
「はい、それでかまいませんが、金貨3枚分を銀貨にしてください。」
「わかりました。木札を発行しますので、受取窓口で受け取ってください。それと、今回のクエスト達成でアイスさんはEランクに昇格です。おめでとうございます。」
「ありがとうございます、ってE? Eって何? 次はFじゃないんですか?」
今度はこちらが驚く番だった。のんびりやっていこうと思ってこなしてきたのだが、まさか昇格とは。しかも一気に2段階、、、。あまり目立ちたくは無いのですが。
「そのことなんですが、昨日と今日の達成状況ですが、ハッキリ言って通常のGランクの冒険者ではいきなりこんなに凄い達成はしないんですよ! 本来、これくらいの達成率ってCランク並なんですよ!! あなたがどれだけとんでもないことしたのか理解しているのですかっ!!」
「あ、はい、すいませんでした。」
「では、ギルドカードをお返しします。これからアイスさんはEランクの冒険者です。さらに上を目指して頑張ってくださいね。」
「ミャー」
「はい、ありがとうございました。マーブルもありがとう。」
私のみならず周りの人たちもマーブルの鳴き声にほっこりしながら、受取窓口で達成報酬を受け取る。
ギルドから出てソリを引っ張って通りに出ると、周りに気配を感じた。その数4。もちろんマーブルもそれに気づいて警戒する。といってもこの程度の相手なら問題なく対応できそうだ。とはいえ、こんな往来でもめ事など勘弁してもらいたいので、人の気配がないところに向かって歩いて行く。とりあえず全く気づいてないように装ってマーブルをモフりながら進んでいく。この程度の相手と人数ならバーニィを出すまでも無さそうだ。とはいえ、誰に喧嘩を売っているのかは身をもってわかってもらうつもりだ。さて、どうやって返り討ちにしてやろうかと考えていると、追っている連中がこちらに声をかけてきた。
「おい、ちょっといいか。」
「何か私に用ですか?」
「その荷台に入っている荷物と金目のものとその猫をこちらによこせ。」
定番の台詞きたーーーーーーー。一番がたいが大きいやつが話している。残りの連中は太かったり、細かったり、体系的には目立った特徴はない。いろいろ遣り取りするのもいいかもしれないけど、面倒だな。何よりこいつら臭い。こいつらと関わるのも時間の無駄だから、2度とそういうこと気が起きないように徹底的にやってしまいましょうかね。とりあえず逃げられないように周りを氷の壁で覆ってしまおう。、、、よし、準備は完了だ。では、いきましょうかね。
無言で話してきたやつをぶん殴ると、そいつは壁まで吹っ飛ぶ。
「いきなり何しやがる!」
そいつのところに行くと、今度は蹴りつけてやる。もちろん無言で有無を言わさずに。
「やめろ、ぶっ殺すぞ!!」
ボコッっと間髪入れずにぶん殴る。そして、何か口に出そうとするたびに殴りつける。それを続けているとついにボロボロになる。残りの連中はその間何もしてこなかったが、そいつらも仲間だ、ということで徹底的にボコボコにした。逃げようとした者もいたが、氷の壁のせいで逃げられない。逃げたやつには3割増しでボコボコにした。ちなみにマーブルは一度も降りなかった。どれだけ器用なんですかね、キミ。
あっけなかった。全員気を失っているようだったので、氷の壁を無くして、水術でかなり冷たい水を用意してそれぞれにぶっかけてあげると、全員がビックリして目を覚ますが、体はそれ以上動かない。というか動けないくらいに痛めつけたのだから当然か。
「で、お聞きしたいのですが、荷物と金目のものとマーブルをよこせ、と言った気がしたのですが。」
「す、すみませんでした。」
「質問に答えてください。もう1度同じ目に遭いたいのですか?」
「す、すみません。生意気にもそういったことを言ってしまいました。」
「そうですか。なぜ私に声をかけたのですか?」
「冴えないオッサンが1人で襲いやすそうだったのと、猫が可愛かったからです。」
「なるほど。確かに私は冴えないオッサンですからね。で、これからどうしましょうかね?」
「す、すいませんでした。こういうことは2度とやりませんので、許してください。」
「本来であれば、息の根を止めるところですが、マーブルを可愛いと言った部分を鑑みて命だけは助けますが、今後逆恨みなどでこちらに害意を向けた場合は容赦しませんので、そこら辺はよろしいですか?」
「は、はい、本当にこういうことは2度としませんので許してください!!!!」
「「「許してください!!!」」」
「これからは気をつけてくださいね。」
この状態をほったらかしにしてその場を後にした。別に助けてやる義務はないし。しかし、こういう連中ってやっぱりいるもんですね。今後もこういったことは勘弁して欲しいのですが。
なんか胸くそ悪い気分を支配したが、マーブルが「ミャー」と気を遣ってくれたのか、声をかけてくれたのでこの件は忘れることにして宿に戻った。
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