第95話-2

 同じ顔を見合わせ、ガジャとイラーレは明るい声をあげる。



「せいかーい」



「僕らの事、知ってたんだ」



 知っている…というよりも、存在を把握している程度である。勿論、エヴァラントに近しい人物として、だ。

 多少なり問題のある双子とは聞いていたが、エヴァラントに対しては別段害を及ぼすわけでもないと聞き、捨て置いた。何より、エヴァラント自身、自分や妹に害をなす存在が傍に居ることを許さないはずだ。そうなればすぐに尻尾を巻いて逃げ出すだろう。

 じろり双子を睨めつけ、務めて平静に、けれど重く、問う。



「エヴァラントは、何処だ」



 眼鏡を押し上げ、イラーレが肩を竦めた。



「だから、留守だって」


「何処へ行った」


「知らなーい」



 そのやり取りに、片割れが声をあげて笑った。酷く馬鹿にした調子に、ぐっとランティスは歯を食いしばった。



「お前ら…」



 ふつふつと腹の底で泡立った怒りが、黒い感情となりせり上がってくる。

 知らず、眼を見開いていた。灰青の双眸に力がこもる。

 途端、双子の表情が消えた。無感情な二対の空色が、覗き込むようにランティスへ向けられる。

 ぞわり、背筋を冷たいものが伝った。

 気取られぬように表情を変えず彼らを睨めつけつつ、唾液を嚥下する。腹の底で、不穏なものを感じた気がした。

 暫し、そうして見合った。それはどれ程の長さだったろうか。一瞬の気もしたが、随分長い時間だったようにも思えた。

 最初に口を開いたのは、ガジャ。



「僕らは、答えないよ」と、えらく平坦な口調で告げた。



「あんた、精霊王なんでしょ? なら、エヴァラントの居場所位、すぐわかるんじゃないの」



 あからさまに嘲りを含んだ言葉に、露骨に舌打ちを返す。



「俺は精霊王じゃない」


「嘘ぉ…その眼で、それ言う?」


「たまたま眼の色が同じだっただけだ。それ以外、俺には何の力もない。いい迷惑だ」


「ふぅん…だってさぁ、イル」



 ちらと空色を片割れに流したガジャは、唇を尖らせ、白衣のポケットに手を突っ込んだ。中から飴の包みを取り出すと、中身を口へ放り込む。片頬がぷくりと飴玉の形に膨れた。

 話を振られたイラーレは、指先で顎をなぞり、口端を持ち上げ孤を描く。



「まぁ、どちらにせよ、僕らには関係のない話かな」


「…ッ」


「王弟殿下がエヴァを探してることも…王太子殿下が、目を覚まさないことも」



 途端、赤髪の男が纏う空気が変わった。

 ざわり空気がざらつき、双子を絡め取ろうとするように重くなる。その感触に、イラーレが嗤う。ガジャは素知らぬ顔のまま、舌先で飴玉を弄んだ。



「…お前ら、まさか…グルか」



 押しだすような声に、はんっとガジャが鼻を鳴らす。彼の動きに合わせ揺れた黒髪は、室内の灯りに、赤く透ける。



「言いがかりぃ。てか、僕らが王太子殿下に悪さして、何の得があるわけ?」


「知っていることがあるなら、正直に話せ」


「だから、さっきから教えてあげてるじゃん」



 がり、と音をたて、飴玉を噛み砕いたガジャが、嘲りに顔を歪めた。



「ただ、僕らは正直者だけど、時々嘘や隠し事をするけどね」


「…ッ!」



 嗤う青年の、真っ赤な口内は、まるで獣のように獰猛に見えた。

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