バトル!バトル!バトル!(1)

「コウイチー、そろそろご飯にしませんかー」


 ここは洞窟の最深部、なんにもない大きな広間のような場所。


 なにがどうしてそうなったのか、地質学なんて知っているわけもないオレにはわからないが、なんとかメッセとかどこちゃらサンプラザくらいの広さのある、まさに訓練にはもってこいの空間だ。


 しかも通路一つの突き当り。うん、いいね。


「コウイチー!いないんですかー!」


 そんな、静寂と真の闇に包まれた空間に、温かさと安らぎを満たしてくれるミカの声が聞こえてくる。なにせ美少女の癒し声だ、最初はそれだけで腰の力が抜ける思いだったものの、こちらに来て約100日、最近ではちょっと慣れた。


 人間の環境適応能力とは、贅沢なものだね。


 ところが、日に日に慣れていく俺とは反対に、ミカはこのところなんとなくよそよそしい話し方に変わった。


 理由は不明。


 しかし、やはりどうしても隠せないこのおっさん臭さが原因なのかもしれない。見た目は10代後半でも、中身はアラサーなのだ、無理はあるよね。


 ただ「そんなことないよー」が「そんなことないですよー」に変わったその変化、個人的には嫌いじゃない。逆に居心地はよい。


 オレとしては、隠せない思春期エロスに警戒されて距離を取られているのでなければ問題はないのだ。だって、さすがにそれは恥ずかしすぎるでしょ。何にもない時にどうしてそんなに元気になっちゃうのさ?って経験、男の子ならわかりますよね?


 寝起きとかさ、ある意味、しょうがないじゃん。ねえ。


 ……って、んなことはどうでもいい、とりあえずミカが来る前に呼吸を整えておかなければ、ね。


 などと考えながら、オレは深く深呼吸をすると、額の汗をぬぐって広間の入り口を見つめる。と、パタパタと、とてものこと現役魔王とは思えない、小学生のような走り方でミカが広間に入ってきた。


 その姿を見て、オレはにっこりとほほ笑む。


「もう、気付いてたんなら返事してくださいよ」


 頬を膨らませてすねながらそう言うと、ミカは静かに魔力を高め始める。そして、額に右手の指をつけて顔を覆い隠すように集中すると、小さく呟いた。


「ファイオ」


 途端、ミカの周りに20数個の火の玉が現れ、取り囲んだ。


 ミカの姿が、オレンジ色に浮かび上がる。


 たいしたものだ、最初に全力を出してもらった時には5個作るのが精いっぱいだったのに、今やもう20を超える炎弾を浮かび上がらせることができるとは。オレ考案のカンフー方式の魔力増強練習は、適当に言った割には効果は抜群だ。


 ま、これくらいでなきゃ、ね。


 自然と微笑みが浮かぶ、うむ、弟子の成長はうれしいものだ……ってオレが弟子か。


「なに笑ってるんですか、いきますよ!」


 そういいながら自分も満面の笑みを浮かべて、ミカはこちらに向けて勢いよく右手を振り出した。


 と、同時に解き放たれる20数個の炎弾。しかも、今までと違って今日のそれは直線ではなく、それぞれが蛇行しながらオレに迫ってきた。死角をつぶしてきた、というわけだ。


「まじか、やるな」


 と、一瞬躊躇しながらもオレは小さく「ドーピング」とつぶやく。と、同時に身体にみなぎる心地よい高揚感。そして、迫りくる高速の炎弾を、オレは踊るように躱していく。


 命中ゼロ、うん、工夫はあったが、いつも通り終わりみたいだな。


「惜しい! でも、残念だったな」


 腰に手を当てて、オレは終了を宣言する。


 しかし、そこにあったのは、悔しげなミカの顔ではなく、最高のどや顔だった。


「なに言ってるんですか、まだまだですよ」

「へ?」


 どや顔のまま放たれたミカの言葉と、底上げした能力で背後に感じる熱源。


「やばっ!」


 オレは危機が間近に迫っていることに気づき、とりあえずとっさにジャンプする。ちょっと多めに5メートルほど上空へ。


「あっぶねぇ」


 下を見れば高速で飛行する炎弾は、20数個ひとつもかけることなく、今さっきまでオレのいた場所を通過すると、そままぐんと鎌首をもたげるように上向きにカーブし、中空のオレに迫って来た。どうやら、今まで通過しては壁をえぐって消えてしまっていた炎弾を、制御しコントロールする術を覚えたらしい。


 つまりは追跡巡行ミサイル、20連発トマホークのようなもの。


 最初のころは5連発の固定砲台だったくせに、科学の進歩がえぐいことになってるな、ほんと。


 だが、進歩は相手だけにおこるものではない。


「衝撃パンチ」


 オレが小さくそうつぶやくのと、炎弾が着弾するのがほぼ同時。しかし、ドーピングで身体能力をかさ上げしているオレにとっては、その『ほぼ』で十分だ。


――ドゥゥゥン!


 中空で炸裂する黒煙と爆炎。


「やった!」


 勝利を確信するミカの声のその直後、オレはミカの背後に突然現れて宣言する。


「はい、今日の片づけと明日の食事当番は、ミカで決定ね」


 その声に、ミカは驚愕の瞳で振り返る。が、とっさに距離を取って身構えた。


「どうやって逃げたんですか、あれから!」

「ふーん、ま、その話はご飯食べながら、で、今日のおかずは?」

「その話は、まだあとです!」


 ミカはそう叫ぶと、中腰で腰にこぶしを当てて、いわゆる格闘技でいうところのための姿勢を作る。


 どうやらまだ、バトルは終わらないようだ。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る