あえぐ魔王と初めての経験

 あああ、幸せじゃぁこのまま死んでもええかもしれんのぉ。


 な、感覚に包まれていた(主に右手が)オレだが、そんなオレのフェスティバルでカーニバルな気持ちに気付くことなく、ミカは真顔で語りかける。


 いかん、また思春期ボディに精神が引きずられるところだった。


「じゃ、まずワタシが手首に魔力を流し込むから、それの流れに合わせてワタシの身体の中に魔力を流し込んでみて」

「え、あ、ああ、わかった」


 んなこと言われても、魔力流し込んだことなんか……あっ、えっ?!


 途端、右手の手首に、温かい、そう、身体の中に風呂のお湯くらいの暖かい流れが強制的に入ってくるのを感じ、それがオレの手を通してミカの身体に流れ込むのを感じた。まるで、ミカの身体から流れ込んでくるそれが、意思を持っているかのようにミカの身体に戻っていく、そんな感じで、だ。


 これが、魔力。


 そう認識した途端、今度は、オレの身体の中に、同じく熱い液体のようなものが満たされているという事実がじわじわと広がるように感じられる。そして、その感覚が全身に満ちたとき、オレは、それを一気にミカの身体に向けて流し込んだ。


「え、ウソ、これって」


 ミカが小さく呟く、驚愕の顔で。


 しかし、それは、次の瞬間どことなく恍惚の表情へと変わった。


「んっ、いやっ……だめだよ……だめっ、これっ……こ、こんなのはいってきちゃ……あっ」


 エッロ。


 で、こういう時、男としたらどうするかは言うまでもなく、ええ、もっと流し込みますよね、普通。


 ゆくがよい! オレの魔力!!


「う、うそ、こ、こんなにっ……い、いやぁ、いやだよぉ……だめだって、だめだよコウイチっ、そんなのムリだって、あ、ダメっ、いやっ……いやぁぁぁ!」


 叫ぶが早いか、ミカは、調子に乗ってぐんぐん魔力を流し込んでいたオレを、力の限りに突きとばした。


 当然、そんな攻撃、まったく予想もしなかったオレは、ニヤニヤとまさに変態というにふさわしい笑顔を浮かべたまま、ゆうに2メートルほども吹き飛ばされると、洞窟のとがった岩に頭から突っ込んで……。


 ……昏倒した。


 きっと、いたいけな少女にバカなことをやってしまった……報いだ。



▼ ▼ ▼ ▼ ▼



「……コウイチ、大丈夫、コウイチ、ねえ、コウイチ!」


 遠くから、女の声が聞こえる。


 それも、そびえたつ山の向こうから聞こえてくる。


 これはきっと、女神様の声に違いな……。


「ねえコウイチ、起きてよ、ギリギリで回復魔法かけたから、死んでないから、ね、起きて!」


 あ、そっか、これはミカの声か。って、この感触は、男子憧れの膝枕!


 ええ、ここでわたくし、またしても異世界で新発見でございます。そう、巨乳に膝枕をされると、顔は見えないのでございますなぁ。声が、魅惑の双子山の向こうから聞こえてくるのでございますよ、ええ。


 て、んなことはどうでもいい。


 なんで自分が三途の川のリピーターになりかけたのかを考えると、本当にどうでもいい。


 と、目を開けたオレに、ミカが気づいたようで。


「気がついた?」


 はい、気がつきました。人として色々大事なことに気がつきました。


「ああ、もう、大丈夫」


 オレはそう答えて、そのまま頭をその魅惑の双丘にぶつけないように器用にするりと抜くと、自力で座り直した。このまま一回不可抗力を装って当ててしまえ、という思春期ボディのいざないを拒絶して。


 オレ、えらい。


「よかったぁ、目が覚めないかと思ったよ」

「おう、オレも、死んだと思ったよ」


 実際、死んでいておかしくなかった。


 きっとミカの魔力アシストがあったからだろう、とても人間の力とは思えない怪力で吹き飛ばされたオレは、弾丸の速さで洞窟の岩壁に激突したのだ。恐る恐るそちらを見れば、岩壁がえぐれている、普通というか、確実に死ぬやつだ。


 ミカもギリギリだって言ってたしな。転生して、おっぱい触って、即死。とか、いやです、はい。


 今後とも、思春期ボディがいざなう悪の誘いには、きちんと抵抗しましょうね、


「ごめんね、コウイチ。あのままだと、ワタシ気絶しかねなかったから」


 そか、なんかごめん。調子乗って、本当にごめん。


「だって、ワタシ、あんなにあつくておっきいの入れられたのはじめてだったから……」


 エッロ!


 いや、まあ、そういうつもりじゃないんだろうけど、ただエロい、顔を赤らめて言うあたりがさらにエロい。って、いや、そんな場合ではなくて。


 ちなみにこれ、28歳の精神でも、普通にエロいと思います。


「えっと、そ、その、それは、オレの魔力は相当なものだ、ということ……だな」

「うん、そうだよすごいよ! ベネリ様に魔力循環の方法を教えてもらった時、ベネリ様とも同じことやったけど、ここまでじゃなかったもん、すごいよ!」


 今度は無邪気に喜び始めるミカ。その姿に、今までの自分の不謹慎かつ卑猥な言動と妄想に、心から謝罪したくなる、が、このタイミングで謝罪したらもうそれは色々アウトな気がして思いとどまった。


 どうやら、オレの魔力はすごいらしいし、な。


 丸メガネは、きちんと仕事をしていたようだ。


「そうか、オレもこの世界での魔力の感覚がなんとなく分かったよ」


 そう、まさに分かった、というのがふさわしい。


 今もこのオレの身体の中に、たうたうように満たされる熱い力の存在、身体をめぐるきっと魔力と呼ばれるものの確かな証。間違いない、オレは魔法が使える。


 そう確信して、オレは手をかざして想像する。オレの、最も身近にあった火を。


「魔法を使う時は、引き金になる言葉だよ、大丈夫?」


 オレがなにをしようとしているのかを察したミカが、声をかける。


 ああ、わかっているさ、そのモノの名前を叫べばいいんだ。さあ、見ろ、これが俺の初めての魔法!


「ガスコンロ!」


 言葉と同時に、魔力を放出してその姿をそこに再現する。


「すごい、きれい!」


 現れたのは、放射線状に丸く並んだ青い炎たち。そう、みなさんおなじみガスコンロの火だ。つまりバーナーキャップから噴き出すあの炎……なんだけど、ちとでかい。一つ一つがちょっとした焚火レベルにでかい。


「すごいよコウイチ!こんなきれいな炎はじめて見たよ」


 ま、ミカも喜んでいるからいいか。


「コウイチは、きっと、師匠を超える大魔法使いになれるね」


 そう、かな、ま、そうだろうな。


 最初から、そういう約束だ。


「ああ、だといいな、これから、お前が俺の師匠だしな」

「うん、そうだね、励むんだよ、わが弟子!」

「かしこまりましたよ、師匠、お手柔らかに頼む」


 オレの言葉に、ミカは嬉しそうにうなづいた。


 くぅ、かわいいな、この娘。


 どうやら、これからのオレの異世界生活、とりあえずは順調にいきそうな気がするよ。 


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