軽い追憶とおっぱい祭

「ねえ、コウイチのことも聞かせてよ」


 オレにもたれかかったまま、ミカはぼそりとつぶやく。


「コウイチの世界はどんな世界だった、何でここに来たの、コウイチは魔法使えるの」


 問われながら、さてどうするべきか、と戸惑う。


 いや、戸惑っているとはいっても、脳内と下半身のアンビバレンツな状況に戸惑っているのではなく(それはなんとなく頑張って今はオレのボブもおとなしくしている)どこまで正確に、話をするべきかに戸惑っていた。


 もちろん、オレとしては、すべて話してもいい。


 しかし、だ、普通SFにおいて、こういった転生者が転生前の世界について詳しく話したりするのはご法度、それは正体を見破られるとかそういう次元ではなく、いわゆるパラレルワールド的な掟。つまり「世界の無理やりな改変」につながりかねないからだ……。


 ……とか考えはじめたのだが、面倒になってきた。


 そう、オレは面倒くさい系主人公。


「そうだなぁ、世界といえばこことあんまり変わらない世界で、オレはいろんな仕事をしていたな」


 うそをついたのではない、面倒だから詳しく説明しなかっただけだ。


 さすがにこの世界の人間に、あっちの世界の説明は複雑すぎて、先ほどの質問ゲームのようなことになるのは目に見えている。いや、もっと面倒くさい『質問ゲーム大会関東ブロック決勝』みたいなことになるに違いないのだ。

 

 しかも、ミカがそれを知る必要は、きっとない。知らなくて、いい。


「へぇ、若いのにいろんな仕事したんだね」


 おっと、オレは16歳だった。


「ま、まあな、で、こっちの世界に来た理由だけどな、オレは、死んだんだ」

「死んだ?」

「ああ、まったくバカな話でな」


 そう、まったくバカな話だ。


 あっちの世界のオレは、身の程知らずの大バカ者で、できもしない壮大な夢を描いてフリーターを続けているような、本当にどうしようもない人間だった。才能不足を努力不足と運の悪さに置き換えて、ただの現実逃避を夢だと言い張って、もう夢に届くはずのない現実に目隠しして追いかける生活を続けていた。


 そしてその日、オレはその壮大な夢を理由に欠勤しまくっていたバイトをクビになった。


 結果。ヤケになって飲み歩き、とある町の裏路地で見つけた小さな居酒屋で、怪しい店主の「ほんとはだめなんですけどね」という前置きつきのふぐ刺しを食って、死んだ。


 ほんとに、まったくもってバカな話だ。


 そして、あきれるほどオレの人生にふさわしい終わり方だった。


「バカな話?」

「ああ、毒のある魚を食っちまってな、ポックリさ」


 言われたミカは、果たしてどんな顔をしていいか迷っている。


「リアクションに困ってるのか?」

「え、ま、うん」


 正直な娘だ。


「いいさ笑っても」

「で、でも」

「いいんだよ、だって……」


 言いながら、オレはミカの頭をワシャワシャとなで回す。


「……おかげでオレはここにいるんだ」


 オレがそう言っておどけた顔を見せると、ミカは嬉しそうに「フフッ」と笑ってはじける様な笑顔を見せた。


「もう、やっぱりコウイチはいい人だね、ワタシ久しぶりに笑ったよ」

「まあな、一人で洞窟に住んでて頻繁に笑っていたら、ある意味まずいしな」

「もう、そういう意味じゃないよ」


 オレの言葉に、頬をプッと膨らませたミカは「たく、わかってないなぁ」とつぶやきながら、今度は背中をオレの身体に預けてきた。うん、これなら凶悪なふくらみは遠のく、アンビバレンツな状態は完全に解消され……。


 ……肩ごしの谷間!


「で、コウイチ、魔法使えるんでしょ」


 あ、お、おう、うん、そうだったな。


「ああ、まあ、使える……はずだ」

「そか、こっちで使えるかどうかは別だよね」

「ああ、うん、いや、使えると思うんだけどな」


 いや、きっとというか、絶対使える。


 そうでなければ、結果的に全くうれしくない特典だったが、異世界転生者のチート特典自体が嘘ということになってしまう。それは、困る、丸メガネの丸メガネが波型眼鏡に変わるまで殴り続けるくらいのことをしないと納得できない。


 ま、前世のオレは、完全な非暴力主義だったんですけどね。


「よし、じゃ、やってみよう!」


 と、異世界特典不履行の際のアフターケアについて考えていたオレをよそに、ミカは元気よく立ち上がると短いスカートの尻の部分をパンパンとはたいた。


 ちょっと、くいっと突き出して、オレの目の前で。


 とうぜんオレの股間は活動を始め、またしてもオレのアンビバレンツがアンビバレンツってくる。


 うん、この思春期ボディーになれるまで、相当苦労しそうだな、こりゃ。


「ほら、コウイチもたつ!」


 ええ、たってま……いやなんでもない、はい、了解っす。


「やってみるって、何をやってみるんだ」


 心ではバカなことを考えつつも口からこういうセリフが出るのは、オレの大人の部分だな。


「そうだな、まず魔力をはかろうか」

「魔力を?」

「うん、まずは私の胸に手を当ててみて?」


 胸に! 手を! いいんですか?!


 いいと言われればこの不詳わたくし、素人童貞ながらも玄人相手ならば歴戦の勇者といっても過言でもないわたくしめは、きっとご満足いく結果を保証いたしますぞ!


 と、相変わらずバカなことを心でつぶやいていたオレの手を、ミカは強引につかむと、おもむろにその強烈かつ凶悪な谷間にねじ込んだ。


――もにゆん。


 どこからともなく響く不思議な擬音と、あたたかでやわらかで、芯はしっかりとアルデンテなその感触。


 いや、もちろん服の上からですどね、でも、それはもはや……。


 フェスティバル。


 いや、カーニバル!


 しっかりと正気を保つんだぞ、オレの思春期ボディよ!


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