魔王という存在

「はぁ、なんかごめんね、変なとこ見せちゃって」


 ミカはそういうと、恥ずかしそうに額をほりほりと掻いた。そして再び「ファイオ」と唱えて火をつける。


 あたたかな焚火のような魔法の炎。


「あんなふうにうなっちゃって、恥ずかしいよね」


 こっちとしては、別に恥ずかしいところを見せられた感はないのだけれど、まあ恥ずかしそうにしているミカのメンツをつぶす必要もないので「いやぁ」とかなんとかあいまいに言いながら、愛想笑いを浮かべる。一般的な大人スキルだ。


 そんな、オレとミカの前で、パチパチと音を立てて炎が燃えている。


 ん? 別に木が燃えてるわけでもないんだが、なんでパチパチいってんだ?


 ちょうどいい、話を変えるにはいい材料だ。


「なぁミカ、これさっきからパチパチいってるけど、何が燃えてるんだ?」


 問われてミカは、一瞬不思議そうな顔をした後「ああ、システムが違うのかな」と小さく呟いて、話し始めた。


「コウイチのいた世界の魔法がどんなシステムかはわかんないけど、この世界の魔法は、魔力を事象に変換するときに、現象を再現する方法を取ってるんだ」


 ああ、えっと、詳しく。そしてやさしく。


「伝わってない感じだね、まあ、簡単に言うと、ワタシはここに、私の知っている焚火を再現してるってことさ」


 そういうとミカは、焚火に手をかざして「ウォルタ」と小さく唱えた。


 途端、炎はジュッと音を立てて消える。そして地面には、湿ったような形跡が残った。湯気が上がり、地面がプスプスとくすぶっている……なるほどそういうことか。


「今のは、焚火に水をかけた、そういうことか」

「そうだね、そういうこと」


 なるほどねぇ、そいつは便利、だが。


「その、小さく呟いたそれは呪文か?」


 オレの問いに、ミカは「うーん」とうなって続けた。


「そうだね、呪文ではないかな、えっと、魔力を想像力で具現化するのが魔法でしょ。そうなるとさ、なんでもない時とかに頭の中の想像が具象化してしまうことだって起きうるんだよね」


 なるほど、ありそうな話だな。


「でも、それって危険でさ、だから魔法をかけるときは、魔法の使用目的に一番近い言語を発してからじゃないと発動しない、っていう癖をつけるんだよね。ちなみにウォルタは、この世界の古語で『水』っていうそのまんまの意味なんだ」


 ほぉ、よく考えられてるな。


「じゃぁ、大水出したり、吹き荒れる水の奔流とかで攻撃するときも『ウォルタ』なのか?」

「ま、そんなことしないしきっとできないけど、うん、それでもいいと思う。ただ私は『ウォルタ―ラ』だとか『ウォルテージャ』とかって感じで『すごい水』『激しい水』みたいに使い分ける感じかな」


 なるほどね、すごい水=ウォルタ―ラで、激しい水=ウォルテージャってわけか。FF臭がすごいな。


 ……って、出来ないって、言ったか、今。


「な、ミカは一応魔王なんだろ?大水出したりとかできないのか?」


 そんなオレの問いに、ミカは苦笑する。


「魔王って言ったってただ魔法使えるだけの人間だよ。ワタシは魔力量も少ないし、人間だから魔法の種類は多いけど、威力はそこそこ、お師匠様に比べたら点でダメな感じだよ」

「お師匠様?」

「うん、ワタシに魔法を教えてくれたスライムのベネリ様。2年前に消えちゃったけど、きっとどこかにいると思うよ」


 うん、どうやらこの娘は、ひとつの質問の答えの中に別の重要事項をサラッと入れてくる娘なんだな。


 師匠がいるっていうのも驚いたが、その師匠がスライムって。


「ミカの師匠ってスライムなのか?」

「うん、そうだよ、ベネリ様は社会に近づきすぎた魔物を捕獲して隔離、誰も来ないような大森林の奥地とか高山の極寒エリアに自治区を作ってかくまうお仕事をしているの」


 働いてんのかよ、スライム! いい奴じゃねぇか。てか、魔法を使えるってことは……?


 ……だめだ、この娘と話しているとただの質問ゲームになってしまう。


 とはいえ、この世界のことをもっと知る必要もあるだろうから、もうちょっと質問ゲームを続けるか。


「なぁ、お師匠様ってことはそのスライムも魔法使えるんだよな?」


 オレがそういうと、ミカは恨めしそうに睨みつけた。


「ベネリ様……ね」


 おう、ま、お師匠様っていうくらいだから当然か。


「すまん、そのベネリ様は魔法使えるんだよな?」

「うん、つかえるよ。ワタシほど多彩ではないけど、威力は別格」

「じゃぁ、魔王なのか?」


 オレがそういうと、ミカは「そっか、そうだよね」とつぶやくと「まずはこの世界の全体像から教えた方が早いよね」と前振りをして、世界の仕組みについて話し始めた。


 どうやら、この質問ゲーム、ミカにとっては知りたがりの子供と話しているような気分だったらしい。


「えっと、この世界は、なんだけどね」


 そう言って話し始めたこの世界の形。


 まず、この世界で魔法が使える存在は、それがどんな存在であろうと魔王と呼ばれる。


 しかし、それはあくまで「魔法が使えると知られた存在」であって、この世界には魔法は使えるものの知られていない存在はごく少数だけどいるのだそうだ。そして、特に魔物にそれが多いらしい。スライムのベネリ様もその一人……一匹? まぁそれだということだ。ちなみにミカが知っている魔法を使える存在は、ベネリ様だけらしい。


 ベネリ様は魔法を使えるがそれは誰も知らない、だから、ただのスライム。


 で、そんな魔法の源である魔力、なんとこれは、結構ありふれたものらしい。


 たとえば、ほとんどの魔物は魔力を持っていて、火を吹いたり空を飛んだり風を吹かせたりを魔力でやっている。もちろん人間も魔力を持っていて、お鍋のお湯を温めたり持ち物を軽くしたり、ときには人の疲れをいやしたりもするそうだ。


 しかし、魔法は別。


 この世界で魔法とは、そんな魔力を使って物事の再現や具現化ができる能力。もっと言えばそれを意のままに便利に使いこなせる能力の事を言うらしい。


 つまり魔物が風を吹かせるのは魔力を使っているだけの普通の現象。ただ、その風を操って自在に吹かせ方をアレンジさせたり、風の刃で攻撃したりし始めるとそれは魔法。おなじように、火を噴く龍が炎弾や炎の結界なんかを作れるようになったらそれは魔法。


 そして、魔法を使えるそういった存在で世に知られるものを、魔王と呼ぶのだそうだ。


 って、なんて厄介な世界だ。


 魔法が使えるだけで、問答無用で魔王だなんて、ひどいじゃないか!


 こうなったらオレはその最強魔導士の力で……!!


 ……なるべく穏便に生きていくこととしよう。


 うん、そうしよう。


 面倒くさいのは、困るんだよね。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る