現役魔王
暗い洞窟の中、オレはミカ・ラ・ルゥと名乗った少女に問いかける。
「えっと、そこなのですが、ミカさん。こちらの世界では、その、魔法を使うというのは怖がられるようなことだったりするんでしょうか?」
オレは世界最強レベルの魔法使いになりに来たんだ。
魔法がまずいものだと、かなり困る。
オレがそう問いかけると、ミカはクスッと笑って、その場にぺたんと座った。
その瞬間、ひとり生活の長かったせいだろう、まったく無防備な体育座りのせいで決して長くはないスカートの隙間から白い下着がのぞく。そして、ミカはまったくそれを気にしない。
「はぁ、緊張したぁ」
ミカはそうつぶやく、が、スカートの周辺は緊張がゆるみきっている。
しかし、おかげで異世界の重要な知識を、オレは手に入れた。
うん、パンツ的なものはこっちもあっちと同じような形状のようだ、決して黒フリルのような煽情度はないが、純白はそれはそれでよいもの、いや衛生的なものだ。
うーむ、まさに、これぞ異文化への理解を高める行為。注意するのは、よしておこう。
むしろ更なる観察を続けてみよう。
……なんて、バカなことやっている場合ではない。
オレの存在に関わる、けっこう重要な話をしている、はずだ。
「いや、本当に申し訳ありません、ワタシも不可抗力とはいえ突然お宅にお邪魔する様なことになりまして、驚かれましたよね」
取りあえず怖がらせないように丁寧に問いかけると、ミカはまたもうれしそうに微笑んだ。
パンツを見せたままで、って、なんでそうまで気になるんだ、オレ?!
「フフッ。えっとさ、無理しないでもっと砕けた感じでいいよ。大人みたいな話し方してても、ワタシより年下なんでしょ?」
え? 年下……って、そっか。
言われて改めて自分の姿を見る。うん、丸メガネのおっさんにお願いした通り、どうやら俺は10代中ごろ15、6歳くらいの少年になっているようだ。もといた世界の姿のまま、そう、まさに、高校時代のオレ。
対してミカは10代後半。
そりゃ確かに、年下に見えるわな。
そして……エロに興味がわきすぎる理由も、今はっきり分かった気がする。
ま、もちろん今はどうでもいい事なんだけどね。
話を戻そう。
「えっと、そうだな、そっちはいくつなんだ?」
「ワタシ、14歳だよ」
え、そうなんだ。
やっぱおっぱいがおっきいと、年上に見えるんだね。
「じゃぁワタシ、いやオレの方が年上だな、オレは16歳だ(ということにする)」
「へえじゃぁコウイチさん、かな?」
「いや、コウイチでいいよ」
「じゃ、私はミカで」
うん、いいね、こういうフランクな会話がベストだよね。なんだか学生時代を思い出すわ。
「よろしくね」
「ああ、よろしく」
さてと、いい感じにくだけたところで、じゃ、懸念材料についてもう一度質問させていただきましょう。
議題『魔法は恐ろしいものなのか』だ。
「あのさ、聞いていい?」
「なに?」
「ほら、さっきからさ、ミカはオレが怖がらないの不思議がってるじゃん、その件だよ」
オレがそう問いかけると、ミカはちょっとうつむいて「フォイオ」と小さく呟いた。
「おおお!」
途端、ミカの数十センチ前に小さな焚火のような炎が現れる。どうやら、魔法だ、うん、やっぱり無機質な光に比べると、数段ワクワクするね。
「楽しそうだね」
「ああ、こうやって、知らない世界で魔法見ると、ワクワクするね」
そんな風に感慨深げにこたえると、ミカは、その暖かな炎とは裏腹に凍り付くような声でつぶやいた。
「こっちの世界ではね、こういうことすると周りの人はきっとワタシを殺すわ」
え? 殺す?
あまりに衝撃的な言葉に、声も出ない。
「コウイチの世界がどうだかは知らない、けどね、こっちの世界では魔法を使える人間はほとんどいなくて、魔法を使える人間は無条件でこう呼ばれる、いや、魔法を使える存在はこうとしか呼ばれない」
そういうと、ミカはオレをじっと見つめた。
その顔は、オレンジに揺らめく炎に照らされて複雑にそのニュアンスを変え、時に切なく微笑み、そして時に般若のごとき怒りを映しているように見えた。
ただ、そのどの表情も一様に、悲しげだった。少なくとも、オレにはそう見えた。
泣いているようにしか、見えなかった。
だから、かける言葉なんて、ない。
そんなオレをよそに、ミカは静かにその真実を告げた。
「魔王」
なに?!
「魔王?」
驚きのあまり声が漏れた。
「ええ、魔王。命を呪い、命を食らい、命を根絶やしにする災厄の化身。嫌われ、さげすまれ、恐れられ、恨まれ、見つけ次第逃げるか殺すかの選択肢しか他人にもたらさない忌まわしき存在」
おいおい、じゃ、ミカは、って、オレもか?
「そう、ワタシは魔王。ルゥ家の産み出した呪われし忌み児」
その時、目の前の炎が一層強く「ゴゥ」と音を立てて燃え上がり、そしてかき消えた。
「絶対災厄の魔王ルゥ。それが、ワタシの」
そういうと魔王ルゥの、いや、ミカの頬に音もなく一筋の涙がこぼれた。
「ワタシの、外の世界での名前……らしいよ」
言いながら、無理にほほ笑んで涙をぬぐうミカの姿に、オレは何も言えず、ただあの丸メガネの顔を思い出していた。
『恨みっこなしですよ』
って、無理だわ、丸メガネ。
ふざけんじゃねぇぞ。
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