第一章 引きこもり魔王とアンデッド

洞窟

ミカ・ラ・ルゥ

 暗転からの暗闇。


 それがオレの異世界での初めての記憶となる……って、灯り!


「あ、そっか、オレ魔法使いなんだな、確か」


 よし、じゃぁ取りあえず。


「灯りよ、つけっ!」


 適当にそう叫ぶと、灯りが付いた。


「おお、すげえ、オレすげえ」

「つけたのはワタシですっ!」


 突如声がした。

 

 おそるおそるそちらの方を見ると、洞窟っぽい岩だらけの4畳半ほどの空間に、一人の女の子が仁王立ちでこちらを見ていた。どうやら異世界人とのファーストコンタクトイベントらしい。


「と、突然現れて、あなたなんなんですか、ここワタシの家ですよ!」


 おお、これが家か。お世辞にも「良いお住まいで」とは言えないな。


 てかよくもまあ、こんなジメジメしたところに住んでいるもんだ……って、そうそう、まずは自己紹介だ。自己紹介は社会人のマナーですもんね、勝手によそ宅に上がり込んでいるわけですし。


「あ、すいません、勝手にお邪魔しちゃって。ワタシは佐竹浩一郎と申しまして、今しがたこちらの世界にやってきたばかりの者でして」


 うん?ちょっと正直すぎたか自己紹介。


 こういう場合はちょっとミステリアスに自分の状況をぼかしたりする方が頭いい系主人公っぽくていいのか?「迷い込んだ村人です(フッ」みたいなニヒルな感じがいいのか? うーん、まあいいや。


 オレは、面倒くさがり系の主人公でいこう。


「こちらの世界に……やってきた……?」


 ま、そうなるよね。


 しかし、この子、たぶん年齢は20に差し掛からない10代後半くらいだろうけど、こんな洞窟に住んでいる割には、きれいに整った感じで、ちゃんとしてる。


 おまけに、けっこうかわいい。


 ちょっと垂れ気味の大きな瞳、ロリっ娘というわけではないが、幼げなあどけない顔立ち。全体的に西洋人というわけでも東洋人というわけでもない、そう、ちょっと日本強めの日本人と西洋人のハーフっぽい感じだ。


 さらにおまけに、死亡者受付所の丸メガネの言うようなエルフではないものの、なかなかけっこうなボインちゃん。ヨーロッパの村娘っぽい服装も良い、髪は黒髪、つやっつやだ。


 うん、名前くらいは聞いておこう。


「えっと、お嬢ちゃんはなんてお名前かな?」

「お、お嬢ちゃん??」


 あ、そうか、確かに10代後半といえば高校生くらいか「お嬢ちゃんはなんてお名前かな?」はないよな。


「あ、あなた、ワタシが怖くないんですか?」


 え、そこなの?


 というか、目の前にいる可愛い顔をした、髪の毛を後ろで一つの三つ編みにしている、身長150センチくらいの10代の女の子に怖い要素なんかない。いや、セクハラとか痴漢冤罪とかある世界だったら、怖いか。いやでもなあ、中世ヨーロッパ風ファンタジー世界にそれはないよな。


 きっと。そうであれ。


「え、ええ、まあ、怖く……ないですね」


 オレがそう答えると、少女はつかつかとこちらに歩み寄ってきて、まじまじとオレを見つめ始めた。


 やん、照れる///


「あなた、人間ですよね」


 あう、ショック。そこ疑われちゃうのかよ。


「に、人間ですよ、失礼な」

「あっ、ごめんなさい」


 少女はそういうとまた少し距離を取って、今度はなにやらモジモジし始めた。


 おしっこか? な、わけないか。でもまあ、なんとなく警戒されているようだし、このままだと埒もあかないから、親御さんとでも話をしたいところなんだけどな。


「えっと、お父さんとかお母さんいらっしゃいますか?」


 オレの問いに、少女はあからさまにビクついた。


「わ……ワタシ、一人ですよ」


 ええ、なんか聞いちゃいけないことっぽかったな、今の反応。


 というよりも、だ、こんな洞窟に一人で住んでいるという時点でそこには言いしれない事情があったりしそうで……うーん、主人公的にはここで事情聞いて人助けなのかな? いや待て、オレは面倒くさがり系の主人公でいくと決めたばかりだ、ここはお茶をにごそう。


「そか、一人暮らしとは偉いですね、で、名前聞いてもいいでしょうか?」


 名前はコミュニケーションの基本、まさか、プライバシーが云々とか言わないよね。


「え、えと、ワタシはミカ・ラ・ルゥ。で、本当に怖くないんですか?!」


 うん、しつこい。怖がらせたいのか、この娘。


 いや、まて、怖がった方がいいのか。


 でも怖くないしなぁ。ま、でも、名前は普通っぽくて何よりだな。


「そか、ルゥさんですか、よろしくお願いします」


 にこやかにそう呼びかけると、少女は洞窟の心地よいエコーを響かせて叫んだ。


「家族名で呼ばないでください!」


 お、おう、なるほど、こっちは頭が個人名か、西洋式だな。


 でも、ふつう初対面は家族名なんじゃ、って、異世界だもんな、郷に入りては、だな。


「これは失礼しました、では、えっとミカさんでよろしいでしょうか」

「は、はい」


 うん、コミュニケーションは順調だ、ならば。


「ワタシはコウイチロウ・サタケと申します」

「コウイチ……」


 いや違う、コウイチロウだ。


 慌てて訂正しようとしたその時、少女はゆっくりと頭を下げた。


「初めまして、コウイチ・ロウ・サタケ様。先ほどからコウイチ様がきちんと礼を尽くしてくれているのに、ワタシが慌ててしまい申し訳ありませんでした」


 お、おう、突然礼儀正しい感じだね。名前間違ってるけどね。


 でもな、ここまでやっとこぎつけたんだもんな。ここで面倒くさい訂正を、しかも異世界交流しながらやるのは超絶面倒だよな。しかも、コウイチ・ロウ・サタケってなんかちょっとかっこいいしなぁ。ええい、これで、いっか。


「いやいや、かまいませんとも」


 そう営業スマイルで答えると、今度は安心したように少女は「ほぉ」っと息を吐いた。


 どうやら相当に緊張していたらしい。


 まあ、突然家の中に見ず知らずのおっさんが現れて、別の世界から来ただのなんだの言い始めたんだから緊張するのは当たり前だよね。なんか申し訳ない。


 てか、やっぱかわいいわこの子。10年若かったら惚れてたかもなぁ。


「いや、ほんとに、こちらこそ申し訳ありません。ここに人が来ることもほとんどありませんし、何よりワタシを怖がらないものですから、魔法を使ったのに」


 やっぱりそこなんだな。どうやら、怖がるってポイントは重要そうだ。


 しかも、魔法をつかったのに、ときたか。


 じゃぁやっぱり、この空間の明るい感じはオレの魔法ではなくて彼女の魔法ということになる。電灯になれているオレとしては、暗い洞窟が明るいことに違和感はないのだが、「これが魔法だ」と思えば、この白色LEDっぽい光も感慨深い。


 が、やっぱり怖くはないなぁ。

 

 ただ、少女、いやミカがここまで言うんだ、魔法って怖がられているものなのだろうか。


 もしそうなんだとした、これはずいぶん厄介な気がする。

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