第4話 妖怪猫又参上!

「妖怪猫又の虎吉参上! ってか、ずぅぅっと前からぁぁ、いたんだけどニャンっ!」

 猫又の虎吉はヒーローの変身決めポーズをした。

 僕と美空は虎吉の決めポーズが可愛いやら滑稽やらで思わずぷぷっと笑ってしまった。それに怒った虎吉がぴょーんとジャンプして僕に飛びかかる。


「うはぁっ、ごめんよ、ごめん」

 慌てて腕と手で虎吉を抱っこして受け止める。虎吉はごろごろと喉を鳴らし猫の姿に戻った。

 体をさすってやると気持ち良さそうに目を細めた。

「ニャーン。――はっ! しまったニャ」

 そういったものの虎吉は僕の腕の中にすっぽり収まって。後ろに隠れていた美空が覗き込むように見て虎吉の喉を撫でる。


「なんて恐ろしいニャ。戦意喪失しちゃったニャン。さすがあずさ勝太朗しょうたろうの子供たちだニャァ……ごろごろごろ」

「梓と勝太朗って……」

「父さんとお母さんの名前」


 僕は猫又の虎吉の言葉にハッとさせられ美空と顔を見合わせる。


 ――パリンッ。


 その時、薄いガラスが割れるような音がした。

「こらっ、虎吉! わしの孫たちを驚かすんじゃない」

「「おじいちゃんっ!?」」

 おじいちゃんが手に扇子せんすとおふだを数枚握りしめて殺気を出しながら仁王立ちしてる。

 背後は霧の景色が割れて向こう側のパーキングの駐車場が見えた。

 彩花がおじいちゃんの背後から顔をぴょこんと出す。

「兄にぃ、姉たん、何やってるの? あーっ! 猫ちゃん抱っこしてズルいズルい!」

「「彩花」」

 彩花は小走りに僕に寄って、猫又を抱く僕の腕に手を伸ばして両手でつかまった。彩花はそのまま地面から両足を上げ僕の腕にぶら下がっている。

「重いっ、重いよ」

「いいんだもんっ。彩花を仲間外れにした兄にぃにはお仕置きだもんっ」

「仲間外れになんかしてないよ。コイツが、この猫が勝手に霧とか出したりして」

「そうだよ、彩花。私とお兄ちゃんはいつだって彩花と仲良しだよ? 安心して。彩花を仲間外れになんかしないから」

 僕の腕でぶらんぶらんとすると上機嫌になった彩花は美空の話を聞いているのか聞いていないのか分からなかった。きゃっきゃっと高い声で楽しそうに笑う。


「ちょっとぐらい脅かしたって良いのニャン。やっとオイラのこと見えるようになったからからかっただけニャーン」

 彩花の笑い声に紛れて小声で虎吉がぼそぼそ呟いた。


「悪ふざけがすぎるぞ。これだからなまじっか知恵や力のある妖怪には気が許せん」

 おじいちゃんは虎吉のそんな小声を聞き逃さず威圧を込め虎吉を睨んでいた。

 一瞬、おじいちゃんの体から金色の煙が立ったように見えた。

 僕は驚き目をしばしばと瞬かせてみたが、見間違いだったのかな? 目を凝らしてももう見えなかった。

 僕は猫又の虎吉とおじいちゃんを交互に見る。

「ふんっ! だニャ。毎日銀鮭おにぎりたったの5つでこき使う甚五郎が悪いのニャン」

 まだ虎吉は僕の腕の中だったが、ぶらんぶらんするのに飽きた彩花が地面に着地し、僕の抱えてる虎吉を小さな両手で掬い上げた。

 彩花が虎吉にほおずりをすると彼は気持ち良さそうに目を細め喉をごろごろとまた鳴らした。


「にゃあにゃあ、甚五郎〜。ニャーンって口癖直らないニャ。またサクラに笑われるニャ」

「そんなことは知らん」


「「サクラ?」」

 サクラって誰だろう?

 僕は横に立つ美空と顔を見合わせる。

 そもそもおじいちゃんは妖怪を見ても驚かないし。知り合い? しかも昨日今日知り合った仲じゃない様子だ。


「そうだ。おじいちゃん家に着くまでにお前達には色々話しとかんとならんな」

「「うん」」

 気づけば妖怪猫又の虎吉が起こしたと思われる霧は晴れ、元いたサービスエリアの駐車場の景色が広がっている。

 おじいちゃんは「こっちにおいで」と言ってキビキビと露店やキッチンカーの飲食スペースのテーブルとベンチのある方に歩いてく。

 その後を僕と美空と妖怪猫又の虎吉を抱いた彩花がすたすたと小走りに続く。


「お兄ちゃん」

「んっ?」

「私、ちょっと楽しくなってきた」

 僕が振り向くとニカッと嬉しそうに笑う美空のほんのりピンク色になった顔があった。

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