第61話 ガールズトーク

「ふぅ……」

 

 変態を病室から出すことに成功した私は、やっと一息つけた。

 かわいい後輩の身を守るのも簡単なことではない。


「どうして賢太さんを追い出したんですか? 紗季先輩。下着なんてバレないように片付けられますよ」

「いやね、阿瀬さんと二人きりで話したいことがあったのよ」

「話したいこと?」


 ぱっちりとした大きな目をさらに大きく開いて首を傾げる阿瀬さん。

 女の私から見ても本当に可愛いと思う。

 中学時代から輝いていたが、高校生になってくすむどころか輝きが強くなっている。


 こんな可憐な子が重病を患うなんて、いくら可愛い子でも旅をさせすぎでしょ。


「とりあえず、体の調子はどう?」

「あ、そのことなら全然平気ですよ」


 そう言って阿瀬さんは腕の力こぶを見せるようなそぶりを見せた。

 そういう素振りもお茶目で可愛く思ってしまう。


 ……やっぱり変わった気がする。

 中学時代に大会で見た彼女は、もっと真面目で堅いイメージがあった。

 バドミントンが強すぎて近寄りがたいというのもあったが、バドミントン以外に興味はないといった感じだった。

 しかし、今の彼女はどうだろう。

 辛い経験を乗り越えたからか、すっかりと垢が抜けている印象を受ける。


 いや……、こうなったのもあの馬鹿の所為なんだろう。

 そうに違いない。


「どうしたんですか? そんな微笑を浮かべて。あっ、もしかして私が筋肉ないからってバカにしてますねっ!」

「ごめんなさい。そういうわけではないのだけれど、おかしくって」


 ふふふと笑っている私に対して、頬を膨らませてしまった阿瀬さん。


 どうやら私は知らないうちに笑ってしまったらしい。

 自分でも笑っていた理由は分からないが、不機嫌な阿瀬さんも可愛いことは確かだ。


◆◇


 私は阿瀬さんの衣類を折りたたみながら、阿瀬さんに問いかけた。


「阿瀬さんってさ」

「はい?」


 阿瀬さんは退院後の薬や看護の資料から目を離さず、私に返事をした。


「賢太のこと好きよね」

「えっ⁉」


 光の速さでこちらを振り向いた阿瀬さんは、目を見開いて驚愕の顔になった。

 それだけでなく、あまりに驚いたのか、阿瀬さんは資料を握る手に力が入って資料を握りつぶした。

 口もあわあわとさせて、餌を待つ金魚みたいだ。

 

「な、なんのことですか?」

「今更取り繕っても遅いわよ。雰囲気で分かるものね」


 阿瀬さんは図星を突かれたのにも関わらず、我関せずといった態度を続ける。

 ここまで動揺したのに今でも隠し通せると思っているのだろうか。


「別に隠すことでもないじゃない。年頃の女性なんだし、楽しい恋バナでもしましょう?」

「だったら、なんで紗季先輩はそこまでにやにやとした顔ができるんですか……」


 私のにやにやとした表情を見た阿瀬さんは血の気が引いている。

 そんなに恐ろしい顔をしているのかしら、私は。


「で、どうなの? 好きなんでしょ?」

「う、うーん」

「ほら、言ってみなさいよ。ほら」

「い、いじわる」


 どうしてだろうか。

 とても気になってしまう。


「す、好きです。自分でも気づかないうちに好きになってましたっ!」

「おー」


 私に軽い脅迫を受けて言った阿瀬さんの言葉は、投げやりながらも精一杯の感情が籠っていた。

 言い終わって阿瀬さんは顔の下半分を布団で隠してしまったが、それでも顔が赤くなったことが良く分かる。

 あー、初々しくて、良いものね。


「なんでこんな恥ずかしいこと言わされなきゃいけないんですか……」

「だって、気になったんだもの。しょうがないじゃない」


 阿瀬さんは不満が満点だが、私は疑問が解消されてすっきりしている。


「なんか割に合わないです。紗季先輩はどうなんですか?」

「えっ、私?」

「そうですよ。いつも賢太さんと一緒にいて、どう思ってるんですか?」


 自分でも賢太のことをどう思っているかなんて考えたことはなかった。

 その質問は、まさに青天の霹靂というものだ。

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