教会の戦い

 アルフィナ様にバレた。僕の正体が。

 なぜだろうか? やっぱり僕が特殊な感覚で物を見ているように、アルフィナ様の右目も同様なのだろうか。

 でも落ち着け、僕。もういつか話そうって決めていたじゃないか。それは今じゃないけれど、そう遠くない未来。そうだ、これが終わったら、全て話すんだ。

 だから今の僕が考えることは、そっちじゃない。


 怪物を睨みつけ、剣先を向ける。


「何処かの神の使徒だったな。アルフィナ様を返してもらいに来た」


 怪物の表情から感情は読み取れない。しかり両手を広げると――、


「やはり来たか、ヴァッサノの使徒よ。こうなる事は最初から分かっていた。だが中途半端に顕現してしまった哀れな神よ。折角呼び出した使徒がこれではな。話にもならぬ」


「僕は使徒じゃない!」

「テンタは使徒ではないわ!」


 僕らの言葉がハモる。アルフィナ様はちょっと恥ずかしそうだ。

 でも実際にそうだ。まだ使徒ってのがどんな存在なのかは分からない。


 僕を殺した豚野郎は、自分は魔王だと名乗っていた。


 霧の中で出会った大蜘蛛は、本当に大きなだけの怪物――というより、この世に出てきた異物といった感じだった。


 そして目に前の立つ巨体。人の言葉を話し、アルフィナ様を使って自らの主人である神を呼び出すらしい。

 そもそもの原型は、この地を治める伯爵様だそうだ。


 それぞれがバラバラで共通点も分からない。だけど一つだけ分かる事がある。

 それは、僕が神になど仕えていない事だ。神に使役されてはいない。神の命令など受けた事もない。

 僕はアルフィナ様に拾われ、ペットになった。死ぬまでの短い期間を、彼女の為に使おうと決めた。

 それは全部、偶然と僕の意思だ。


「どうでも構わぬ。ここに来たという事が全ての真実」


 そう言って、地響きを立ててゆっくりと歩きだす。

 それに合わせるかのように、左右に座っていた沢山の列席者たちが一斉に僕を見た。

 皆高級そうな服を着た裕福そうな人々。実際、各町の有力者なのだろう。

 だけど首だけで振り返るのは実に不気味だ。というより、最前列からだとほぼ真後ろに近い。

 彼等はもう既に――いや、襲ってこないのなら考えない様にしよう。


「さあ、今日が我が神、ルコンエイヴの誕生の日。祝うがいい」


 首だけでこちらを見ていた列席者が、一斉に拍手を開始する。

 見れば左右でねじれて死んでいた兵士達も、そのままの姿勢で拍手を始めている。

 ああ、何だろうか、この光景は。まさに悪夢だ。


「残念ながら、その願いは叶わない。お前の野望もここで終わりだ」


 そう言って、奪い取った剣の切っ先を向ける。

 そこでいやがおうにも目に入る。この剣が――だけど。


「その様な棒きれで何が出来る。貴様も使徒であるのなら見せてみるがいい! 貴様の神から賜った力をな!」


 その言葉と同時に、頭と手から見えていた黒と銀の剛毛が一斉に伸び、まるで僕の触手の様に襲い掛かってきた。

 でもそれは全て、途中で捻じれ、千切れ飛ぶ。


「私を忘れていたのかしら?」


 アルフィナ様の右目が赤く光る。正確にはその中の物が。


 同時に僕は飛んでいた。跳ねていたといった方が良いかもしれない。

 数歩空を駆け使徒の目の前に着地する。


 ……こいつが、お前の主人の仇だ。


 奪った剣で、頭の頂点目がけて一直線に振り下ろす。

 これでその罪が帳消しになるとは思わない。だけどこいつは、間違いなくお前の主なんかじゃない。

 それどころか、主を殺した怪物だ。


 振り下ろした剣が当たる。剛毛が裂け、その下の皮膚に当たる感覚。

 だけどそれ以上は振れなかった。新たな毛が槍のように伸び、僕の体を貫こうとしていたからだ。


 だけど咄嗟に触手の姿テンタに戻って避ける。

 同時に生やした拘束触手で剣を掴みながら、注入触手を使徒に向けて伸ばす――が、


「ふんっ!」


 細く素早い注入触手を飛んでくる虫を掴むかのような正確さで捕らえると、そのまま僕を天井へと投げ捨てた。

 轟音と共に美しい天井画を破壊してめり込む。外にいた筋肉達磨とは比較にもならない力だ。

 でも思ったよりも、注入触手は長く伸びた。正直千切れてしまうかと思ったよ。予想外の弾力に感謝。

 それに中身が出そうなほどの衝撃だったけど、この触手だけの姿は丈夫だ。傷一つ付いていない。

 一方で、額を切られた使徒の動きは止まっていた。何やら知らないけど、今がチャンス!

 バステルの姿になると同時に落下を開始する。当然、剣は既に手の位置だ。このまま貫いてやる!

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