第17話「夕暮れの帰り道で①」

【side隼人】


「私のために世界を滅ぼすつもり?! 私のことはもう放っておいて!」

「俺が世界ごときとの天秤で、おまえを見捨てられると思うのか」

「そんな……」

「俺は、世界なんかよりもおまえを選ぶ! 俺はおまえを愛しているからだ!」

「……嬉しい」

「だから、俺の手を取れ!」

「うん!」

 そして、二人は手を取り合った。




「今の映画、感動したわ……」

 

 冬華は映画館を出た直後、目頭を抑えながら、そう呟いた。


「ああ、同感だ……」


 俺たちが見ていたのは、とあるアニメ映画。愛し合う二人が残酷な運命によって引き裂かれるというある意味王道なファンタジーだった。


「いや、まさか中盤に出てきた王子にあんな秘密があったなんてね」

「そう。一番最初に出てきたインドゾウのロボットが落としたネジがタイムトラベルの鍵になってたんだよな」

「あの伏線すごかったよね! まさか、スーパーに売ってた巻き寿司の消費期限まで伏線だったなんて予想外だったわ!」

「そう。そこがラストの引っ越し業者の兄ちゃんが実は二人居たってところに繋がるんだよなあ」


 いやあ、この映画はあまりに名作過ぎた。これは是非ともみんなに見てほしいな。


「ていうか、普通に楽しんじゃったな……」

「ほらね。私の言った通りでしょ?」


 時は数日前にさかのぼる。




「次の『練習』はショッピングモールよ」


 いつものように我が物顔で俺の部屋に居た冬華は高らかに宣言した。

 俺たちは互いの恋人とうまくデートするための『練習』として、デートをする約束をしている。気安い幼なじみ同士で経験を積んでおこうという算段だ。まあ、俺の彼女なんて本当は存在しないんだが……。

 冬華に煽られた結果、俺はついつい「彼女が居る」なんて嘘をついてしまった。そして、冬華がそれに応じる形で彼氏が居るとカミングアウトしたのだ。

 正直、冬華に彼氏が居ると解った瞬間は、もう駄目だと思った。本当に世界が終わってしまったんじゃないかっていうくらいの衝撃が俺を揺さぶった。

 だけど、俺にとって冬華は世界で一番大切な存在。そんな彼女が俺を「練習相手」として必要としてくれているなら、できる限り応えてやりたいとも思うのだ。


「ショッピングモールか……」


 確かに、今時のショッピングモールは、ショッピングはもちろんとして、映画館やカフェ、ゲームセンターなど、遊ぶことができる施設は一通り揃っている。金のない高校生のデート場所としては上々だろう。


「ショッピングモールは賛成だが、具体的に何をする? 何か考えはあるのか?」

「ふふ。もちろんよ。私たちはこの映画を見に行くわ」


 そうして、冬華に選ばれたのが今回のアニメ映画なのだった。




「いや、この映画のチョイスは正解だった。さすが冬華」

「ふふん。そうでしょ。もっと誉めていいわよ」


 冬華は非常に得意気な表情だ。


「私も隼人もマンガ好きだから、こういう映画の方が合ってると思ったのよ」

「なるほどな」


 俺は冬華の言葉に頷きながら考える。


「でもよかったのか?」

「なにが?」

「俺は楽しめたが、おまえの彼氏がこの映画を楽しめるとは限らないんじゃないか?」


 そもそも、今回はあくまで『デートの練習』。ならば、冬華の彼氏の感性に合わせた映画をチョイスするべきだったのではなかろうか。

 俺がそう指摘すると、


「……そういえば、そうね」


 冬華は気まずそう表情で呟いた。


「まあ、隼人が楽しめたならいいわよ」

「いいのかよ」

「いいの! わ、私の彼氏は隼人と趣味一緒なんだから」

「へえ……」


 俺と同じ趣味か……。

 冬華の彼氏という立場でなければ、良い友達になれていたかもしれない。

 俺はそんな運命のいたずらに想いを馳せるのだった。

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