第13話 久美子の息子
「お久しぶりです」
セルが門前で立っていた男に挨拶を交わす。
「……お久しぶりです。他にいないんで……」
寡黙そうな男だ。名前は星野
身体の厚みがある巨体な男。肥満体型とは正反対の筋肉と強い骨。野球選手や柔道家のような筋骨隆々さだ。
でも……この人、どこかで見たことあるような……。
どこだ ?
警察に知り合いなんていねぇしな。
最近警察に会ったことと言えば…… ?
「あ ! あんた……じゃねぇ。
……寿吉さん、もしかして !!
俺がスピード違反したの時の、サングラスかけてた方の人っすか !? 」
あの時、テンションダダ下がりの俺の側で、ジョルが霊感の馬鹿強い警官だって能天気に騒いでたからよく覚えてる。
「ああ。俺も覚えている。クロツキの関係者だったのか。そんな気はしていた。
こっちだ」
俺たちは寿吉さんに連れられ、敷地内を横断する。
なんと言うか、素っ気ない感じの人だけど、この人がヘラヘラしてる姿もそれはそれで似合わないような。
堅物そうに見える。
「あれ ? でもスピード違反ってことは、交通課なんですか ? 」
「あの時は臨時で。普段は刑事課にいる」
「へぇ〜」
ケーサツって、大変そうな仕事だよなぁ。
未成年の非行を見たり、酔っ払いの相手したり、頭のおかしな奴と対峙したり。俺がやったら神経おかしくなりそう。
「お前、スピード違反ってなんだよ ? 」
あ、やべ。
業務中のスピード違反、セルに内緒にしてたんだった……。
「〜〜〜♪」
「おい ! 」
「俺の記憶が正しければ、十一月の昼過ぎにスピード違反で注意を」
「言わなくて良いっすよ……」
突然セルの眼力が強くなる。
「報告 ! 」
「あ、あ〜。えーとあの時は他の事で忙しくて !
ほら、俺の相棒が寿吉さんを見て、凄く霊力が強いって言ってたんすよ〜」
話題は、逸らす !!
「ああ、俺の力は母方の血筋から来ている。
俺もBLACK MOON仙台支部でバイトした。高校二年の夏に」
「えっ !? 」
そんな事、誰にも聞いてない !
「なんでアンタ言わねぇんだよ」
セルはキョトンと俺を見下ろす。
「えぇ ? 別に内緒にしてたって訳じゃないけど」
こいつ……本当に何も教えねぇんだな。なんか俺、失礼やらかすから、ちゃんと言ってくれよ !
「だいたい、退職した人間の話をさ、新人にあれこれ話すってのもプライバシー的に駄目だろ ? 」
こーゆー時だけ正論〜〜〜っ !!
「あの頃は俺達も仙台に来たばかりで、まだ誰もいなかった時なんだよな〜。それが久美子さんの息子さんが来てくれるなんて、助かったんだよなぁ。強いし」
セルはなんの動揺も見せず飄々と話す。
「母は反対していたから、内緒でバイトしてたんだ」
薔薇園へ出入りしていた星野 久美子。その息子も…… BLACK MOONにいた…… ?
「トーカは知らないみたいだったけど、どういうこと ? 」
「ああ、寿吉さんは本当に俺の助手として来てくれてたから、あまり接点無かった感じだな。教会メインにネット配信の準備したり。俺デジタル音痴だから」
「俺は自宅から通っていたし、あの魔女のお嬢さんとも合わなくてね」
うん。合わなそうだとは思う……。
そしてセルはデジタル音痴かよ。
「お母さんに反対されていたのに、どうしてバイトしたんすか ? 」
「自分の霊感をどう使えばいいのか悩んでいた。だから物は試しにな。自分で確認しないと気が済まない性分だ」
「その……辞めた理由……ってか、敢えて警察になったのは何故っすか ? 」
「おいおい。お前ガツガツ質問しすぎだろ」
「構わん」
ジョルの反応では、BLACK MOONにいるメンバーよりも、霊感はズバ抜けて寿吉さんの方が強いらしい。それで食べていくことが可能な程。けれど、そのオカルトの道を敢えて選ばなかった人……。
寿吉さんは大股で歩き、前を向いたまま答える。
「霊能者っていうのは、俺とは目指したい正義が違ったという事だ。だからすぐ辞めた。
悪魔祓いも、悪霊退散も必要な正義なのだろうが、俺の理想とする世界じゃなかった」
ハッキリものを言う人だな。
寿吉さんの淡々とした思い出話に、セルは興味なさげにポーカーフェイスを崩さない。
多分、寿吉さん自身が自分の確固たる想いが強いタイプなんだろうな。
正直、セルは一番扱いにくいタイプなんじゃないかな…… ?
「へぇ〜。高校生くらいで、俺はそんなしっかりしたガキじゃなかったなぁ〜」
……『目指したい正義』か……。
『正義に種類がある ? 』ってこと ?
それは、火事現場から人を救う事 ?
汚ぇ犯罪者から住民を守ったり ?
いや、それは職業が違うだけか。
『正義が違う』ってどういう事だ…… ?
何となくニュアンスでは理解しているけど、説明できるかって言われると……。
「では、一応荷物出してもらいます。使用する」
建物に入ってすぐ、寿吉さんがトレイを差し出してきた。
「面会です。……そうです、例の。……それは心配ありません……はい……」
受付の警備員室のような所でカードを受け取り、俺たちに差し出す。
「これを胸に付けてください」
アレ思い出すな。幼稚園のネームプレート。
セルが唇をウィ〜っと歪ませる。
(安全ピンかよ〜……。スーツに穴開けたくねぇな〜……)
(このくらいの穴、なんて事ねぇだろ……)
「紐が駄目なんで。
今から言う物を、ここに出して下さい。
トレンチコートなんかのベルト。ズボンのベルト、タオル、通信機器類。
現金やボイスレコーダーはOKです。
あとは……」
「ちょっ、ゆっくりお願いします ! 」
なんだっけ ?
ベルト !? ベルト取ったらスラックス下がるんだけど !?
「金属もお願いします」
金属……金属……。
トーカの指輪を外し、トレイに入れる。
あとは……これか……。
俺はアフラ・マズダーの姿が描かれたライター。ライターを出し、カバーは手元に残す。これでTheENDは使えるもんな。
あとは……。
ポケットを探って、何かが指に触れた。
ミスラが言ってた御守りの鳥だ。これは大丈夫か。
「お預かり致します。
それではまずこちらで話を先に」
初めに通されたのは、目当ての奴のいる場所じゃなかった。
小さな会議室のようなところで、担当だと思われるおっさんが二人同席した。
「あー、やっと来てくれたんだ」
「いやぁ、キツかったよなぁ。参ったよ本当にねぇ〜」
「ささっ !! こっち座って !! どーぞどーぞ」
すごく歓迎ムード。
これで解決した、とばかりに言い合っているけど、肝心の俺はまだ何も事件に関して知らされていない。
寿吉さんが書類にサインしながら担当さんに指示を出す。
「身体検査の準備だけお願いします。今日は問診のみなので」
「え……今日祓ってくれるんじゃ……」
「今日は出来ないんですね……。
あぁ……牧師さん、本当に悪魔が憑いてるとしか思えないんですよ。魔物そのもので……」
落胆した様子でセルを見上げる。
二人とも気の良さそうなおっさんだ。
「薬物でもないし、精神科受診歴も無いんですよ。
ありゃ〜悪霊が憑いたとかさぁ、心霊番組で見るような感じでもねぇんだよなぁ ? 」
「んだなぁ。俺の叔父も昔、狐憑きだかでお祓い受けたけどよぉ……。そう言うんじゃねぇのよ……」
「牧師様、お願いしますよぉ……」
こりゃ酷そうだ。
「関係者とはいえ、情けない発言を部外者に言わないでください、二人とも」
寿吉さんが二人を窘める。
「いやいや、ありゃ誰だってそう思うさぁ」
「なんせ物理的にも説明のつきにくいことするもんなぁ」
「……だからこうして来て頂いたわけで……」
まぁ、悪魔憑きを初めて目の当たりにしたら『警官らしさ』がどうとか『毅然たる態度で』なんて冷静に居られねぇよなぁ。
「……お見苦しいところを…… 」
「いや、普通の反応ですよ」
セルのビジネススマイル。
「あと、こちらは『神父』さんです」
寿吉さんがそう告げると、担当さんは髪の薄い頭をポリポリと掻き「あ〜 ! そうか」と声を上げる。
「確か宗派で違うんだっけ ? 」
「とにかく話聞いてもらった方がいいべな。
どうぞどうぞ、掛けてください ! 」
椅子に座らされる。
なんか、ちょっと和やかなおっさんで安心した。
けど、これから犯罪者と会うとなると……。
本当に悪魔ならいいけど。そうじゃなかったら、余程の狂人って事なのか……。
「ありがとうございます。
本日はどうぞよろしくお願い致します。日本を拠点に活動しています、セルシア・ローレックと申します」
「あ、えと……霧崎 悠真です。助手です」
お互い握手を交わす。
「こちらこそよろしくお願いね。いや、もう参っちゃって……。
すぐ悪魔祓い出来るもんなの ? 」
「一応許可は取れています。
ですが、なかなか診断も難しくて。
俺達も突然来て『悪魔が憑いてます、祓います』ってわけにいかないんですよ。
今回は公的機関からの依頼なので、正式にバチカンを通して許可が出たら祓う訳ですが……。
更に神父が悪魔祓いをする場合……神父二人以上、精神科立ち会いの元と言う条件で、ようやく悪魔祓いが出来る次第でして……。
面倒とは思いますがどうぞよろしくお願いします」
「へぇ〜。そんなに厳しいんですね〜」
「こちらこそ、よろしくお願いしますよ〜」
寿吉さんが俺達の向かい側に座る。
「先日、署長にお会いになられましたよね ?
犯行当時の映像。あれについての見解を聴きたい 」
セルは確かクリスマスの時に見てきたんだよな ?
それでも少し難しい顔をする。
「何とも……まだ確証には至りません……としか。最近は合成やCGの技術も上がってるし、俺が『飛び回った刃物が悪魔の力だ』と証言したところで、悪魔憑きを裁判で証明できる訳じゃないでしょうね」
飛び回った刃物って何それ怖い。
「確かに。
侵入経路の指紋は確実に本人のものですが……肝心の凶器には指紋がなくて……」
「映像には実際に本人が握って犯行を犯した証拠が写って無かった。それどころか、マジックのような手法で凶器が勝手に浮いて被害者を刺した。見ました、その映像も。
ふーむ。カメラ……カメラか……。
悪魔憑きだと映像が乱れたり、逆にカメラに何らかのアピール行動を撮る事例が多いかなぁ。
何かありませんでした ? 」
「アピールと言うと ? 」
「悪魔の餌は、憑いた人間の恐怖や苦悩なんです。だからワザと反宗教的な事をしたり、犯罪行為をしてカメラに写ってみたり……罪を背負えるまで背負います。
物を動かすほどの悪魔なら、カメラがある事なんて手に取るように分かっていたはずです。彼らは想像よりずっと狡猾です」
セルの説明を聞いて、寿吉さんの後ろで立っていた担当さんが顔を見合わせた。
「あ、あ〜。成程。成程。あれだよあれ !! 」
「な〜るほどなぁ〜」
真剣に聞かなきゃって思うけど、この担当さんたち東北の独特なイントネーションで、温かみを感じる。仲良さそうだし。
予め、俺たちに見せられる範囲の物は用意してあったらしく、ダンボールの中を漁る。
「こう言うのですかね ? 」
取り出されたのは写真。
一人の男が、身長計の側で棒立ちになっている。逮捕された時に撮られる、マグショットってやつだ。
「あ〜。ま、こういう物だけで済んでるうちはいいんですが……」
セルが俺にも見るよう渡してくる。
「ん"んっ ! すっ……凄いっすねぇ〜」
あっぶねぇ !! 吹き出しちゃうかと思った。
写ってる被疑者。まっすぐ立っていられず若干、斜めになってる。そしてその後ろ……肩の辺りに黒いモヤのような物が写っている。
これ、多分手かな……。
黒い霊気を帯びたシワだらけの手が写っているが…………肩の上でピースしてるように見える。
テレビで心霊写真って出てきたら「うわぁ〜」ってなるけど、マグショットに映るってのは斬新過ぎだろ ! この絵面は面白……いや、大変だな。
「どのカメラ使っても全部写るんですよ……もう、写真は保留か、これを加工しようかとか話してて。
これが憑いてるやつですかね ? 」
100%心霊写真撮れる男って、需要がある所には需要がありそうだ。オカルト雑誌とか。しかもピースしてるの、なんなんだよ。
「……まぁ、可能性はあるでしょうね。通りすがりの霊がイタズラする事もありますが。
……これ、本当に手かなぁ ? だとしたら、ピースしてるのは、こちらを馬鹿にしてるんでしょうが……手じゃないとなると、また話しが変わってくるんですよね……」
どう見ても手に見える……。二本の細い棒状のモノ……。
セルが俺の抱えていたカルテを、トントンと指で叩く。
あ、こういうのを聴き取りして書いていくのか。
えーと……『ピースに見える肩の上の黒いモヤ』……。
「部屋も凄くて……直接見て頂いた方がいいかもしれませんねぇ」
「そうですか。では、ここで他に見る物がなければ……。そろそろ会いますか」
セルもなかなか「悪魔ですね ! 」とは言わない。
「分かりました。では御案内致しますね」
担当さんに連れられ、俺たち二人は房へ向かう。
寿吉さんはその場に残るようだった。
「寿吉さんは行かないんですか ? 」
「ああ」
扉を閉めて、廊下を歩く。
建物の中だと言うのに寒い。
「刑事さんは、基本取り調べの時だけだと思うよ。直接被疑者と会うのは」
「あ、そうなんですか」
警察官って捕まえたら観察し放題、言いたい事言い放題は出来るんだと思ってた。違うのか。
「弁護士さんとかは会えるけどね。ほらぁ、中には自白を強要する事も昔はあったから……。
刑事さんが関わるのはここまで。あとは起訴出来れば検事と弁護士のやり取りになるんだよ」
「へぇ〜」
頷いては見たけど、ややこしい。ルールがよく分からん。厳しいってだけは理解したぜ。
「まぁ、今の彼に弁護士がつくとは思えないけどねぇ」
意味深な言葉を残し、俺とセルを個室へ通した。
何も無い部屋だ。
もっとアクリル板越しとかそういう、面会感のある場所かと想像していたけど。
「ここでお待ちください」
「ごめんね。何にも無くて」
「いえ、大丈夫です」
「何するか分かんないから椅子も置けないんだよなぁ」
あぁ。そういうことか。
「今、連れて来ますね。
まぁ無理に除霊ってわけじゃ……。その……出来ないなら出来ないでも……」
急な担当さんの弱気に、理解が追いつかない。
「えっと、悪魔祓い……で、いいんですよね ? 」
俺が聞くと、担当さんは頷きながらも、少し言いにくそうに口を開く。
「神父さんは精神科医なんでしょ ? 」
「ええ。医療免許……今出しますね」
セルが俺の持っていたバッグの方を開けようとしたが、担当さんはそれを制止した。
「いえいえ、署長からコピーは拝見しておりますので……」
「そうですか ? 何か、不安な事など有りましたら是非仰って下さい」
相変わらずイケメンな作り笑顔でセルが向き直る。担当さんは一度お互いに顔を見合わせてから、難しい顔をする。
「あの人ね。診断書というか……お医者さんが診断して、留置所からも許可を出してそれが署長に通ったら、医療刑務所の方に行かせられるんですよ」
「それは悪魔を払わず……という事で ? 」
「裁判では不利になるけどね。でも、ここで管理するのは……もう限界で。ありゃ逃げられたら……それが一番不安だよ。
お願いします。もう、限界で……」
「房は普段、二人一部屋なんですけど……これじゃ誰も一緒に入れないですし。まずパワーが異常ですよ。壁は傷だらけで、まるでボーリングで破壊したような威力でさ。房の鉄のドアがひしゃげて居たこともある。
正直、身の危険感じましたよ……」
これ、あれだな。
完全に人間の犯罪と違う領域なの、皆認めてる感じだな。
悪魔憑きと分かっていても、ここじゃ面倒見きれねぇんだ。
「あ、あの。さっき少し聴いてはいましたけど、具体的に何をした人なんですか ? 」
「え、聞いてない ? 」
やべっ。これ墓穴掘った !?
ドキッとした俺のそばで、セルが手を上げる。
「あぁ。私が代表で観ました。重要な証拠品ですので、一人だけと言われまして」
焦ったァ〜。
「そうでしたか。まぁ、確かに証拠品と言えばそうなんでしょうけど……」
もう一人の担当さんが俺のそばで教えてくれる。
(子供襲ったんだよ。しかも知らない家に深夜侵入して。赤ん坊は何とか助かったけど、お姉ちゃんの方がね……まだ三つだってのになぁ……)
(そりゃあヒデェっすね……)
「まぁ……気持ちのいい事件じゃないわなぁ。ここには色んなのが来るけども……」
「あ、でも子供相手って……それだと、普通極刑ですよね ? このまま普通に裁判すれば…………。
あ、そっか ! 」
あ〜〜〜、裁判したところで悪魔が話してたんじゃ埒が明かないよな。
「署長はなんとしてでも『精神鑑定は問題無し』として起訴したいんだ。そうでなければ、『心神喪失により無罪』なんてのもありえなく無い。しかも犯行の映像は肝心な部分がおかしな超能力みたいなもので襲ったと写ってる」
「
今日、大晦日だぞ……。クリスマスの時にセルが証拠品を見てきたって事は……四日か五日にはもう……。
もっとガッツリ調べてから起訴出来るシステムにしたらいいのに……。あぁ、でも、もし誤認逮捕とかの時に人権とかやばい事になるのかな ?
「セル、実際間に合うのか ? 」
「俺とお前なら問題ないだろ。
急ぎの案件ってのは変わらないから気合い入れてやるぜ。バチカン本部にはもう許可通ってるから、あとは祓うだけ」
それでRESETを使えるセルと、TheENDを使える俺の二段構えか。
「ですが、問題は憑依段階です。
ベビーベッドのカメラに写ってた、あの映像。部屋中で竜巻のように、家具や寝具が円を描くように浮かんで動いてた」
ポルターガイスト現象か。
「被害者の家は一階が車庫、二階と三階が住居。二階のキッチンからナイフが飛んできて、暫く浮遊した後……三階でグサリ ! その瞬間の映像の時間を見ると、被疑者は二階にいたんだ」
……面識のない子供……。
その悪魔にとっては供物だったのかもな。
「相手の強さと、憑依してからの経過時間で変わってくる」
被疑者は自覚があるのかどうか……目が覚めたら自分は悪魔に憑かれてて、人まで殺してたなんて……。
俺が憑かれた時は他人に命の危機は無かったし、まだ運が良かったのかもな。
「なんて言うか、取り憑かれた奴も災難だな〜」
俺の言った言葉に、担当さん達は怪訝な顔をした。
「ん〜…… 。 気の毒なのは被害者家族ですよ ? 」
「そう。何とか犯行当時の記憶や責任能力有りとまで行ければ……」
そうだ。ここは法律で守られた世界だ。
俺たちがいつも相手にするのは、この世ならざるモノの世界……オカルトには法が無いと言っても過言じゃない。
なんか俺……今の担当さんの反応に一瞬だけ何か引っかかった……。なんだ…… ?
「薬物であれ、心霊現象であれ、起訴しないことには始まらないんですよ。まずは裁判出来る状態にしないと」
「そうなんですね……」
「でも、はっきり出来ないと分かれば……早々に移送してもらうとか……」
「そう。あの状態でここにいられてもなぁ」
悪魔を祓って何とか罪を償わせたい警察と、そうは分かっていても手に負えない留置所の担当さん。
「分かりました。最善を尽くします」
セルが静かに答える。
「ではここでお待ちください」
扉が閉まると同時に、セルが手早くバッグの中身を取り出す。
「レコーダーセットしろ。
聖水はここに置く、踏むなよ ?
とにかくサインを見逃すな。一見、意味の無さそうな単語や仕草だ」
「お、おう」
俺もカルテ……とは名ばかりのファイルとペンを構える。
セルはロザリオだけを首にかける。
「気を抜くなよ ? 相手は俺達がここに来ている事に、もう気付いてるはずだ」
そんなに強い奴なのか。
あのピースしてる悪魔……。
「被疑者の名前は ? 」
「『コージさん』それだけでいい」
コージさん、絶体絶命だな。
「憑依段階がキモだな」
「手遅れなのはレベル 5くらいか ? 」
「いや、あと四日でケリをつけるなら、レベル 5 じゃ間に合わない。RESETするかTheENDするかだ。ポゼッションでここで憑いたままなら俺がRESETするが……オブセッションとポゼッションを繰り返すようならアカツキでTheENDする方が確実だ」
そんな切羽詰まった状況なのかよ。
「なんで急がなかったんだよ ! 間に合わねぇかも知れないのに」
「言ったろ ? バチカン通すってのはそういう事だ。
だからおれは、そばにTheENDを使える人間が欲しいんだ。こんな時。もしもの時の為にな。トーカもみかんもまだ、こんな場所には出入りさせるわけにいかないだろ ? 世間の視線ではまだ子供だ。
お前が必要なんだ、ユーマ。
BLACK MOONが非公式でエクソシストをやる理由。それは確実に悪魔を祓いたいからさ。地位も名誉も必要無いんだ。
生まれ持った才能と、信仰……」
「おいおい、急にどうしたんだよ……そんな捲し立てるように話て……」
「お前、さっきなんて言った …… ? 」
「え…… ? 」
俺、何か言ったか ?
ポカンとする俺から目を逸らし、セルは気を沈めるように十字を切る。
「……神よ……。誓います。どうか私を正しき道へとお導き下さい……」
「…………」
焦ってんのか…… ?
なんか、らしくねぇな。いつも飄々としてるのに、急に祈りだしたぞ……。
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